第52話 オッサンたち、モンスター相手に無双する


 敵、敵、敵。


 周囲の風景が見えないほど折り重なってやってくるモンスターたち。


 そんなモンスターの大群とたった一人で対峙しているにも関わらず、ホーセイはいつものように穏やかな表情だ。


 焦る訳でもなく、恐怖に震える訳でもない。

 ホーセイは泰然として構え、迫り来るモンスターたちを見据えていた。


 彼我の距離はすでに十メートルを切った。

 獰猛なモンスターの顔が手に取るように分かる距離だ。


 殺意を剥き出しにして襲い来るモンスターの動きを冷静に見つめ、ホーセイは構えた盾を前に突き出す。


「【シールドバッシュ】!」


 飛びかかってくるモンスターに盾を叩きつけて吹き飛ばす。

 それが開戦の合図となった。


「【アイアンスキン】、【ソーンアーマー】、【フィールドフォートレス】!」


 モンスターと接敵したホーセイは立て続けに盾職タンクアーツを発動させた。


 アイアンスキンは物理防御力アップのアーツ。

 ソーンアーマーは反射ダメージを敵に与えるアーツで、盾職の定番アーツだ。


 フィールドフォートレスは自身を基点とした周囲十メートル内の味方に一定の防御力アップのバフを付与するフィールドアーツだ。


「クレアちゃんの防御バフと僕のタンクアーツが重複ちょうふくしていれば、大怪我することなんて滅多にないから好きにやっちゃっていいよ」


 その言葉は背後から駆け寄り、ホーセイを追い抜いていこうとしたケンジたちへの激励だ。


「いつもありがとうよ、ホーセイ!」


 すれ違いざまに礼を言うと、ケンジはモンスターに向かって剣を振り下ろした。


「スラーーーーーーーーーーッシュ!」


 剣士の初級アーツ【スラッシュ】。


 久しぶりに手にした剣の感触を確かめるように放った剣技アーツは、ケンジの期待以上の威力で並び立つ二匹のモンスターを一刀両断した。


「うひょーっ! すげえぞリューの加工してくれたこの剣! 斬れ味抜群だ!」


「ちょっとケンジ! 剣の斬れ味にテンション上げてないで、さっさとモンスターを処理していく!」


「危ないホーセイ!」


「あ、ちょっ、ああ、もう邪魔!」


 モンスターに会話の邪魔をされたホーセイが八つ当たり気味に剣を振るうと、モンスターはまるで紙を切り裂くように両断された。


「うひょーっ! なにこの剣! すごい斬れ味!」


「なー? 俺がテンション上げた意味、分かっただろ?」


「ま、まあね。っていうかそんなことよりさっさとモンスターを処理してってば! 敵はワンサカ居るんだからさ!」


「わーってるよ!」


 ホーセイの要請に応えたケンジは、ホーセイに攻撃を加えるモンスターたちの背後を取るとサクサクと一刀両断にしていく。


 ケンジほどではないが、クレアの支援魔法のお陰でパワーアップしている疾風団のメンバーも素早くモンスターを処理していた。


「うはっ、すげぇな! これが支援魔法ってやつの効果か! いつもよりもずっと簡単にモンスターを狩れるぜ!」


「リーダー! 勘違いしないようにしなさいよ! これって私たちの実力な訳じゃないんだから!」


「分かってるよ。調子に乗らず、しっかり安全マージンを取ってモンスターを狩るのが俺たち疾風団の方針だからな!」


「いいね、その考え方! ウチの方針と全く一緒だ! ザザン、ますますあんたのことが気に入ったぜ!」


「稼ぐために冒険者やってんだから命を大事にするのは当然だ。まっ、こんな力を経験したら冒険したくなっちまいそうになるがな!」


「だからダメだって言ってるでしょバカ!」


「そんなに怒るなよぉ……」


 サブリーダーであるエミリの一喝にしょぼくれるザザン。

 二人の気心しれたやりとりを見て、ケンジとホーセイの胸中に一抹のわびしさが浮かんだ。


「なんか……いいなぁあんたら二人の関係性」


「年下の女性の尻にひかれるオッサンって、オッサンが夢見る理想のオッサン像の一つだよねぇ……」


「な、何言ってやがる! 俺たちは別にそんなんじゃ――」


「リーダー! 無駄口叩かずさっさとモンスターを処理する!」


「は、はいーーーーっ!」


 エミリの声に背筋を伸ばして返事をしたザザンは、自慢の大剣を振り回してモンスターの討伐に集中する。


 そんなアタッカーたちに後方からリューの声が掛かった。


「第二陣に仕掛けた移動阻害がそろそろ切れるで!」


「了解! 移動阻害が切れたら挑発してヘイトを引きつけるから、アタッカーは僕より後ろに下がって!」


 ホーセイの要請にアタッカーたちが移動する。


 そんなアタッカーたちに追いすがり、襲いかかろうとするモンスターは、後方から飛んできた炎弾によって即殺された。


「ナイス援護だ、アリーシャ!」


「ふふんっ、当然でしょ! ちゃんと見てるんだから!」


 ケンジに褒められたアリーシャが鼻をクンッと空に向けて上機嫌に言葉を返す。


「アタッカーの皆さん、スタミナ回復しますね!」


 ホーセイよりも後ろに下がったアタッカーに向けてフィーは回復魔法を施す。


 それが終わった頃には敵の第二陣が到着し、ホーセイは再びモンスターに向けて盾職スキルを使用した。


「【挑発タウント】を使ってヘイトを集めるよ! さっきよりも少ない数のモンスターしか集められないから周囲に気を配ってね!」


 ホーセイの報告にアタッカー陣は頷きを返し、再びモンスターたちに攻撃を加えていく。


 後はその繰り返しだ。


 リューが移動阻害のアーツで相対距離をコントロールし、ホーセイがヘイトを稼ぎ、ケンジや疾風団のメンバーが敵を処理する。


 時折、処理しきれないモンスターには後方からアリーシャの魔法が飛び、クレアやフィーがメンバーの支援を行う。


 そんな一連の流れが合同パーティーに浸透した頃、戦場に変化が現れた。


 戦場に響き渡るテンポの早いラッパの音。

 それは敵の第二波が現れたことを防衛部隊に告げる音色だ。


 再び現れたモンスターの大群に防衛部隊、特に左翼の一部が動揺を示した。


「マズイ、左翼がされてるぞ、リュー! このまま左翼が押し込まれたら戦線が一気に崩壊するんじゃねーか!?」


「しゃーない、オレが左翼に行って立て直すわ! こっちの指揮はケンジに任せたで!」


「俺ぇっ!? マジかよ!?」


「本当なら中衛のクレアっちに任せたいところやけど、残念ながらクレアっちにはまだIGLインゲームリーダー(戦闘時の指揮を担当する役)は無理や。IGL経験があるのはケンジしか居らん」


「やるしかねーってか。分かった! なんとかやってみる!」


「頼むで!」


「ザザン、疾風団のメンツを借りて良いか?」


「本人が良いのなら俺がとやかく言う気はねーよ」


「ありがてえ! ダビットさん、ドントさん、あとリエルソーマさん! あんたら三人にはリューの護衛を頼みたい!」


 ケンジに声を掛けられた三人は快諾し、リューを囲むように配置についた。


「リュー! 何かあったらパーティーチャットで連絡しろよ!」


「おう、ほな行ってくるわ!」


「気をつけてな!」


 疾風団のメンバーに護衛されながら、リューは左翼に向かって駆け出した。


「ケンジ! 第二波が接近してきてるよ!」


CTクールタイムはどうなってる!?」


「【戦士の咆哮ウォーリアーハウル】はあと五秒で使用可能!」


「なら合図をしたあとハウってくれ! クレアは距離レンジコントロール! 支援の時間管理で大変だろうが何とかやってみれくれ!」


「分かりましたの!」


「フィーは中衛に上がって防御魔法だ! 支援の頻度が落ちるとアタッカー陣の被害が増えるから回復も忘れずに頼むぞ!」


「了解しましたご主人様!」


「アリーシャはファイアーボールをメインに魔法攻撃を組み立てろ! 人数が少なくなった分、パーティーの火力が落ちてるはずだ。ファイアーボールの爆風で敵の態勢を崩すんだ!」


「分かったわ! アタシに任せて!」


 合同パーティーの面々がケンジの指揮の下、第二波に向けて態勢を整える。


 やがてモンスター大発生スタンピード第二波がケンジたちに襲いかかってきた――。


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