第50話 オッサンたち、モンスターと対峙する

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「ホーセイはいつも通りタンクを頼むわ。『戦士の咆哮ウォーリアーハウル』で中央から右翼に掛けての敵のヘイトを集めてや」


「了解。全開で行くね!」


「ケンジはソロで。疾風団はチームでモンスターに攻撃。ヘイトはホーセイが稼いでるから遠慮無く攻撃してエエで! 但し今回の戦闘はモンスターの処理速度が重要になってくるから素早く処理することを心掛けてや!」


「それは分かったが、このマッチョな兄ちゃんは大丈夫なのか?」


「多くの敵の攻撃をたった一人で止めることなんてできるはずがないじゃない」


「ま、そこら辺は安心してエエよ。ウチのタンク……盾役は半端やなく強いから」


「うん、僕なら大丈夫ですよ。絶対に倒れないから安心してください」


「……どこまで信用して良いものかは分からんが、そう言い切るアンタの根性を信じることにするぜ」


「でも危なくなったら声を掛けてくださいね。ボクも盾役として精いっぱいフォローしますから」


 ホーセイと同じ盾役を務めるドントが気配りに満ちた声を掛けると、ホーセイは嬉しそうに頷いた。


「クレアっちはパーティーメンバー全員への支援バフに集中や。オレの方は仲間への指示出しと、敵との距離レンジのコントロールで手一杯になると思うから、しっかり頼むで」


「了解しましたの」


(リュー。距離コントロールだったら僕が【地形操作】を使えば――)


(いや、それは止めておいたほうがエエわ。ホーセイの【地形操作】は有効範囲が狭いし、こんな大勢の居る戦場で使えば変に注目されてまう。いざって時はお願いするかもしれんけど、ひとまずナシの方向で頼むわ)


(了解したよ)


「それで私たちはどうすれば良いのかしら?」


 ホーセイと小声で話すリューに、エルフのリエルソーマが指示の続きを促す。


「エルフさんと弓士さんは飛行型のモンスターを最優先に頼むわ。できるだけフォーカスして攻撃してや」


「フォーカス? ってなに?」


 聞き慣れない言葉だったのか疾風団のトリアが首を傾げる。


「攻撃を一体に集中するってことや。一人より二人、二人より三人で一体の敵を攻撃したほうが処理速度は上がるやろ?」


「あ、なるほどー。うん、分かった!」


「では標的の選別はトリアに任せるわ。私は精霊魔法で援護しつつ、トリアの狙う敵を攻撃するわね」


「オッケー、リエル。それで行こう!」


「疾風団の魔導師さんも優先順位は飛行型や。そんで余裕があったら疾風団のアタッカー陣の援護を頼むわ」


「……承知」


「アリっちはひとまず単体魔法で敵を攻撃。広範囲魔法は戦場への影響が大きいからオレの指示があるまで使ったらアカンで?」


「分かってる。でも広範囲魔法ってどれのこと?」


「ファイアストームとヘルファイア辺りやな。インフェルノは単体魔法やけど高温すぎて周囲への影響がデカイから無しの方向で頼むわ」


「じゃあファイアボールとかファイアウォールなら使って良いのね?」


「構わんけど前衛を巻き込まんようにしてや? アリっちの魔力の高さなら、ファイアバレットやらファイアアローを連射したほうが殲滅力は高いと思うから」


「そうなの? 分かった。じゃあアタシはその辺りの魔法を使ってケンジ様の援護をすれば良いのね?」


「ケンジだけやなく疾風団の方の援護も頼むわ。あと乱戦になったらオレら以外のパーティーの援護もしてもらうことになると思うから、そんときはよろしゅうな」


「了解よ」


「回復職の二人は基本は待機や。チャラい兄ちゃんは疾風団のメンバーがケガしたらすぐに回復したってくれ」


「チャラいって心外だなぁ。オレはただ美しい女性に、『あなたはとても美しいからオレと付き合わない?』って愛を込めて伝えているだけなのにぃ」


「それがチャラくなくて何がチャラいねん。戦闘中は女の子の尻ばっか追っかけたらアカンで? ウチのメンバーに手ぇ出したらぶちのめすから覚悟しときや?」


「あははっ、釘を刺されちゃったなぁ。でも大丈夫。オレは美女を褒め称えているだけで手を出すつもりはないからね!」


「ホンマかいな……まぁとにかくオレの出した指示に沿って動いてや」


「女の子の身体に傷は残したくないもんね。最優先で回復するよ!」


「男女平等にな。フィーっちはオレらだけやなく、疾風団の方もフォローしたって。特に前衛アタッカー陣のスタミナ管理が大切になってくるから、適度にスタミナ回復したってや」


「分かりました!」


「最後にダビットさんやけどスカウトのあんさん(あなた)には戦場全体の敵味方の状況把握と中衛、後衛の護衛を頼むわ。何か変な動きがあったらすぐに言うてや」


「俺だけえらくやることが多いな」


「あんさん以外のメンツは攻撃に集中しとるから必然、視野が狭くなってまう。それを補う役目をベテランのあんさんにお願いしたいんや」


「責任重大だが……まぁ何とかやってみる」


「うっし、ならこれで準備完了や!」


 リューが合同パーティー全員への指示出しが終わると同時に、側防塔から聞こえていたラッパのテンポが一気に早まった。


 その音色に戦場全体が緊張に包まれるなか、遥か前方の森から地面を揺るがす足音が聞こえてきた。


 まるで雷鳴のように低く響くその轟きを追いかけるように、森の中から獰猛なモンスターの大群が飛び出してくる。


「なんだあの数――」


 唖然とした誰かの呟きが妙に耳に残る。

 それは防衛戦に参加している者たちの共通した嘆きだろう。


 森から溢れ出して街へと迫ってくるモンスターの大群を睨み付けながら、ケンジたちは戦闘態勢を整える。


「モンスター総数はざっと千ってところか?」


「あれ? 案外少ないね」


「そうでもないで。こっちは冒険者が二百ちょっとしかおらん。領兵は千人居るらしいけど街の住民を守らんとアカンから数には入れられへんし」


「そっか。変異モンスターも多いんだっけ? そう考えるとギリギリかもね」


「まだ1ウェーブ目でギリギリだとマズイな。ま、俺らが頑張りゃその分、他のやつらが楽になるだろうし……全力でやるっきゃねーな」


「そのつもりやけど、はぁ……オッサンらはどこまでいっても染みついた社畜根性が抜けんよなぁ……」


「染みついちゃってるもんね、自己犠牲的な考え方。はー、やだやだ」


「俺だって嫌に決まってるけどよ。実際、俺らが踏ん張らないとヤバイってのも事実なんだからやるしかねーだろ」


「ま、そうやな。オレらだけやなくフィーっちたちの将来のことを考えれば、ここで活躍して子爵さんに恩を売りつつ、情報と金を貰っておいた方が得策やろし」


「少しでもマシな未来を目指して頑張る……かー。はぁ~、僕たちがスローライフを満喫できる日はまだまだ遠い未来の話だねぇ」


「スローライフを目指すもの、スローライフを得ずってことわざ知らんの?」


「そんなことわざ知りたくなかったよ……!」


 大群を前にしてもいつもと変わらぬオッサンたちのやりとり。

 だがそこにケンジの緊迫した声が届いた。


「うぉいマジか!? 中央のやつらがもう突出してやがる! 何考えてんだっ!?」


「あら。功を焦っちゃったのかな?」


「どうするよ、リューっ!?」


「見捨てたら中央の奴らがモンスターに半包囲されてすり潰されてまうわ。しゃーないけど戦線を上げて前目にポジション取っ手対応するしかないやろな。オレらも出るで! ケンジ、ホーセイ! 出陣や!」


「了解!」


「よっしゃあー! 1ウェーブ目開始だ。気合い入れていくぜ、みんな!」


 気合いのこもったケンジの声に仲間たちが一斉に熱の籠もった声で答える。

 こうして――終わりの見えない戦闘が始まった。


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