第49話 オッサンたち、配置に付く
『水鏡の地下洞窟』で発生したモンスター
その第一波がセカンの街より数キロ先に姿を見せたとスティムが報告し、一同はすぐに行動を起こした。
オッサンたち
参加と言ってもオッサンたちが配置されたのは防衛部隊の右翼で、防衛部隊の中核はカインとその取り巻きたちが務めることになっている。
カインたちと揉めないようにとのギルドマスター・ムトゥの配慮だ。
配置につく途中、カインたちと目が合ったが、どうやらセカンの街の領主であるグラディウス子爵とギルドマスター・ムトゥからオッサンたちと揉めないようにと厳命されているらしく、憎々しげな視線で睨み付けてくる程度で済んだ。
「アイツ、何だってアタシたちのことを目の敵にするのかしら?」
「自分より目立つ存在っていうのが許せないんじゃないかな?」
「はっ? なにそれ? そんなことであんなにもしつこく絡んでくるの?」
「世の中には自分が中心でないと気が済まないって
「そういうやつに目を付けられたのが運の尽きなのかもねぇ」
「そんなこと言って、好き放題言われて悔しくないの?」
「悔しいってより鬱陶しいってのはあるが……力に物を言わせて屈服させるってのもなぁ」
「火の粉が降りかかってくれば全力で振り払うつもりやけど、子供の
「だけどおまえたちに手を出してくるようなら全力で反撃するから安心しろ」
「それは、まぁ……そう言ってくれるのは嬉しいけどさ? でもご主人様たちが好き放題言われっぱなしなのも腹が立つっていうか……」
「いい子だなぁ、アリーシャは! オッサンが褒めてやろう」
アリーシャの頭を撫でると、少女は鬱陶しそうにその手を振り払う。
「気安く触んないでよね。もう、髪がグチャグチャになったじゃない……!」
文句を言いながら髪を整えるアリーシャ。
だがその頬はうっすらと朱に染まっていた。
「ご主人様。私たちはどうすれば良いのですか?」
「子爵たちにも言ったようにまずはセカンの街の防衛戦に参加する。
ある程度、敵の猛攻を
で、こっちのことはリューたちに任せるって感じだ」
「なるほど。でもリュー様とホーセイ様はお二人で大丈夫でしょうか……」
「大丈夫やで。ここは
「でもケンジたちが抜けると火力が足りなくなるからねー。ギルドマスターは僕たちに協力してくれる実力派パーティーを付けるって言ってたけど……」
「そろそろ来る頃だとは思うが……ああ、居た。あいつらじゃねーか?」
ケンジが指差す方向から八人パーティーが近付いてきていた。
その中のリーダーらしき中年男性が片手を上げて軽く挨拶してきた。
「よぉ。アンタらがトゥライブスさんか?」
「ああ。TOLIVESリーダーのケンジだ」
「そうか。俺はBランクパーティー『疾風団』のリーダーを務めるザザンだ。ギルドからアンタらの指揮下に入るよう要請があった。よろしく頼む」
挨拶を終えた二人は握手を交わした。
「フフフフフッ……」
「グッ、グギギギギッ……」
力を込めた男同士の握手。
ケンジは余裕の表情だがザザンと名乗った男の顔に脂汗が浮かぶ。
やがて二人は手を放した。
「おお、痛え……アンタ、オッサンのくせになかなかやるな」
「あんたもオッサンだろうが。人のことをオッサン呼ばわりすんなっての」
二人は笑顔を交わすと再び手を差し出して握手を交わした。
「どうして俺らBランクのパーティーがGランクパーティーの指揮下に入らなくちゃならねーんだと思ったがよ。今の握手でアンタの実力はなんとなく察したよ」
「あれだけで何かが分かるのか?」
「握手ってのはそいつの本質が見えるもんだ。やる気の無いやつは力も心もこもってないヘナチョコ握手をしてくるもんだがアンタは違った。俺が力を込めたらそれと同じ力で握手してきた。そういうやつは経験上、信用できる」
「握手の力で
「おうよ。誰にだって全力でぶつかるってのが俺の生き方なんでな」
「いいね。あんたのこと、一瞬で好きになったぜ」
「ははっ、そりゃ俺もだ。アンタとなら良い結果を残せそうだ」
考え方や人との接し方が良く似た二人はすぐに意気投合し、笑顔を浮かべた。
「じゃあ早速『疾風団』のメンバーを紹介するぜ。リーダーはザザン、つまり俺が務める。大剣を得意としている剣士だ。
で、サブリーダーがエミリ。片手剣と盾を使って安定した立ち回りで敵を倒すことが得意な剣士だ」
「よろしく」
「こいつが弓士のトリア。とにかく目が良い。あと、トリアは元猟師でな。気配察知に長けている」
「トリアだよ! よろしくねー!」
「重戦士のドント。疾風団の盾役を担ってくれているタフなやつだ」
「ボクは頑丈なのが取り柄なんだ。みなさんよろしくー」
「魔術師のガーブと神官のリィド。ガーブは風魔法が得意だ。リィドは神官としての能力は普通だが、判断力に優れている」
「……」
「よろしくね、かわいこちゃんたち♪」
「リィドはちょっとチャラいが悪いやつじゃない。……おい、トゥライブスのメンバーに手ぇ出すんじゃねーぞ?」
「分かってるってー!」
「次はダビットだ。ウチの最古参で
「よろしく頼む」
「最後はリエルソーマ。俺たちはリエルって呼んでる。見ての通り、エルフの弓士で精霊魔法も使えるうちの大黒柱だ」
「よろしくね」
「おおっ、エルフさんやん!
「……不躾な視線は好きじゃないわ」
「うちのメンバーが失礼をして済まん。初めてエルフを見たからテンションが上がっちまったみたいだ」
「ごめんやで! 悪気はなかったんや……」
「今後は気をつけてくれればそれで良いけど」
「おう、気をつけるさかい、今後ともよろしゅうにやで。ところで精霊魔法ってのはどんな魔法なん?」
「精霊を使役して仲間の攻撃をフォローするのが私の役目よ。
風の精霊に矢の威力をアップさせたり、土の精霊で足下の土を盛り上げたり。魔導師のように一撃必殺という訳じゃないけれど、仲間を助けるには便利なの」
「へー、精霊魔法ってのはそういうもんなんや。ありがとうなエルフさん。勉強になったわ」
「良いわよ。精霊魔法について分からないことがあれば遠慮無く聞いて」
「そのときはよろしく頼むで!」
「じゃあ次はウチのメンバーを紹介しようか」
リューの話が終わったところでケンジは仲間たちを『疾風団』に紹介する。
それぞれが何を得意とするか、どんなことができるのか。
お互いの情報を確認したあと、作戦会議が始まった。
「で、ケンジさんよ。作戦はどうなってんだ?」
「作戦ってほどのものでもないが俺たちTOLIVESと疾風団の合同パーティーは右翼最前線を担うことになる。
まずホーセイが先頭で敵の攻撃を引きつけるから、その間に俺やザザンたち前衛アタッカーが敵を素早く処理していく――っていうのが基本の流れになるな」
「前衛アタッカーと言うと、俺、エミリ、ドント、それにケンジの四人ってことか。他のやつらはどうすれば良いんだ?」
「そっちの弓士二人とリュー、クレアの四人は中衛を務めてもらう。と言ってもウチの中衛はちょっと特殊でな。戦闘もできるがどちらかというとパーティー支援がメインの仕事だ」
「支援ぅ? そんなの聞いたことがないぞ? どんな支援をするつもりだよ?」
「リュー」
「はいよ。『
ケンジに促されたリューが疾風団全員に筋力アップのアーツを使った。
「うおっ、なんだこれ……っ!? 身体中、力が
「それがリューの支援の力だ」
「支援にはいくつも種類があるねんよ。力や耐力、敏捷性、それに魔力や魔法力。各々が持つ基礎能力を大幅に底上げするのが支援の仕事やねん」
「つまり『肉体強化』スキルを全員に掛けてるってこと? そんなことができるなんて聞いたことがないわ」
「ざっくりまとめて分かりやすく簡単に言うとそういうこっちゃな(ことだな)。ま、結構特殊な魔法の使い方やと思うけど、案外、良さげやろ?」
「すげえな……これなら少しはやれそうだ」
「支援職の本領は強化だけやないけど、そこは戦闘中にでも確かめてや」
「分かった。後衛はどうするんだ?」
「後衛は魔導師二人に回復職が二人。どっちもこの戦闘で鍵を握ることになるだろう。それも含めて戦闘時はウチのリューが指揮を執るから、みんなはその指示に従ってくれると助かる」
「……なぁケンジさんよ。本当にそれで俺たちは生き抜けるのか?」
「保証する」
ザザンの問い掛けにケンジは力強く即答した。
「……分かった。正直、アンタたちのことをどこまで信じられるのか分からんが、俺たちの
「ああ、それで良いさ。もし危険だと思ったら俺たちのことは見捨てて自分たちの判断で退却してくれて良い」
「そうか。なら遠慮無くそうさせてもらうぜ」
合同パーティーが作戦を確認しあっていると、後方にある街の
「おいでなすったようだ。しっかり頼むぜトゥライブスさんよ」
「おう。リュー!
「任せとき!」
ケンジの言葉に力強く頷きを返すと、リューは腹に力を込めて合同パーティーのメンバーに指示を出した。
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