第46話 オッサンたち、装備を調える
フィーたちが貴族、そして王族としての矜持を貫く覚悟を見せた後。
オッサンたちは子供だという認識を改め、一人の大人として少女たちと共に今後の行動方針を模索する。
ケンジとフィーが中心となって話し合いが進むなか、黙ってその様子を見守っていたリューの肩が叩かれた。
リューの横にはホーセイが居た。
労うように優しく肩を叩くと、ホーセイはリューに頭を下げた。
「いつもありがとう、リュー」
「んー? まぁ憎まれ役はオレの役目やしな」
「憎んでなんかないよ。勢いだけで片方に傾きかけた天秤を戻し、冷静に考えることができるよう促す。
僕もケンジもつい勢いだけで突っ走ってしまうところがあるからリューが居てくれていつも助かってる。きっとケンジも僕と同じように感謝してると思うよ」
「まぁあいつはそういう奴やしな。それに自分で分かっててもなかなか治されへんってこともある。別にいつもいつも突っ走っとる訳やないやろ?」
「そうだと良いんだけどねぇ」
「心配せんでも二人ともしっかりしとるよ。オレはただ、見落としているところを指摘して一回ブレーキを踏ませるようにしただけや」
「うん。その見落としに気がつけるのはリューの凄いところだよ」
「オレから言わせりゃホーセイこそがオレらのバランサーやし、ケンジの人を引っ張っていけるところも凄いところやと思っとるで」
「ありがとう。良いバランスなのかもね、僕らって」
「だから長年、友達関係が続いてるんやろ」
「そうだね。それにしてもフィーちゃんたちには正直驚いたよ。彼女たちもしっかり大人なんだなって。認識が改まった」
「三人とも十八歳やもんなぁ。オレが十八歳の頃とかちっぱいキャラでヌクことしか考えてなかったけど」
「僕も未亡人キャラで自家発電することしか考えられなかったなぁ。そんな僕たちに比べるとほんとしっかりしてる。さすが異世界ってことなのかもね」
「それな。……ま、フィーっちたちの覚悟は知れた。それならオレらはオレらでそれに答えるために全力を尽くすだけや」
そういうとリューはショートカットジェスチャーでメニューを開いた。
「オレは【加工】でフィーっちたちの装備を作るわ。ホーセイはケンジのフォローしたってや」
「了解。何かあったら声掛けて。手伝うから」
「おう。そんときはよろしくやで」
自分の作業に集中し始めたリューから少し離れたテーブルで、ケンジはフィーたちと今後についての相談をしていた。
「わたくしたち単独ではなく、ギルドと相談してどのように動くのかを決めた方が宜しいと思いますの」
そう言って話を切り出したのはクレアだった。
「スティム様はわたくしたちトゥライブスの力を貸してほしいと仰っていらっしゃいましたの。それはつまりスティム様の中でわたくしたちの需要が高いということですわ。ならば高く売るに越したことはありませんの」
「お、おう。なるほど。そういう考え方もあるのか……」
「ギルドの中でもスティムさんは受付嬢のリーダーかそれ以上の立場の方だと思います。ですからスティムさんに窓口をお願いするほうが何かと有利だと思います」
「え、スティムちゃんってそんなに偉い人なのか?」
「正確なことは分かりませんが他の受付嬢から頼られることも多いようですし、他のギルド職員に指示を出しているところを何度も見ていますから。恐らくは間違いないと思いますよ」
「フィーちゃん、そんなこと良く分かったねぇ」
フィーの話を聞いてオッサンたちが心底感心していると、アリーシャが呆れた口調と表情で溜息を吐いた。
「はぁ……そんなの見ていれば分かることじゃない」
「ウッソだろ、俺、全然分かんなかったぞ」
「女が女を観察するのは当然のことよ。っていうかそんなことも知らないの? オッサンなのに?」
「ぐぅ……良く知りませんでした」
「正論パンチやめてください……」
ぐぅの音も出ないアリーシャのツッコミに、それなりに長かった人生で女性との恋愛経験がほとんどなかったオッサンたち二人は全面敗北を悟った。
「まずはスティム様にスタンピード迎撃に協力することを報告し、その後、ギルドとどのように連携を取っていくのかを確認すれば宜しいと思いますの」
「もちろん報酬の確認も忘れないようにしなさいよね」
「気が早くねーか?」
「先に決めておかないと後で買いたたかれますわ。商売の基本ですの」
「そういうもんかね。分かった。じゃあ早速、明日スティムちゃんに相談しよう」
ケンジがクレアたちの進言に頷きを返すと、それを待っていたかのようにリューが声を掛けてきた。
「方針、決まったかー?」
「おう。明日、スティムちゃんにスタンピード防衛戦への参加について、色々と相談してくるわ」
「りょーかい。ほなオレからみんなにプレゼントや」
そういうとリューはインベントリから【加工】した装備を取り出した。
「うわっ、すごっ……! これ、アタシたちの新しい装備!?」
「せやで。フィーっちたちが装備する杖に肩、腕、胴、腰、足の防具一式。全部、
「おおっ、すげぇな! ちなみにどんな追加効果が付与されたんだ?」
「ランダム付与ならそこまで有効な追加効果は無いんじゃない?」
「チッ、チッ、チッ。アイコちゃんのユニークアビリティ、舐めとったらアカンでホーセイ!」
「えっ? まさかっ!?」
「なんと! 【加工】ランク1では追加効果は選択式なんや!」
「ウッソだろ? なんだそのチートっ!?」
「ま、追加効果の数値についてはランダムやったけどな」
「それでも追加効果の種類が選べるなんて充分チートだよ!」
「ホンマそれな。アイコちゃんに感謝やわ」
「で? どんな追加効果を付与したんだ?」
「三人の武器には消費
「おお、良いねえ。ちなみに数値はどの程度なんだ?」
「追加効果は最高で200%アップやけど、武器のほうは合計20%ほど、防具一式で合計40%ほどアップ、ってところまでしか付与できんかったわ」
「数値がランダムで付与されるんだったら充分高いほうじゃん」
「ま、それなりのモノにはできたと思うで。ついでにデザインを一新したんやけどどないやろか?」
フィーの新装備は聖女っぽさを残したデザインだ。
白と青、そして金を基調とした色合い。
肩のケープとスカートにはふんだんにレースとフリルを配し、見る者に少女らしい可憐さと聖女としての清純な印象を与える。
アリーシャの新装備は機動性を重視したデザイン。
白と赤と金を基調とした色合いで、ぴったりとしたインナーの上に短めのローブを羽織り、動きやすそうなデザインだ。
ところどころにフリルを配して少女らしい可愛さを維持しながら、シャープなシルエットが厨二的センスを刺激するデザインになっている。
そしてクレアの新装備。
肩と腕は肌をさらすインナーと腰周りを防護するコルセットが、三人の中で一番大きな胸部(ミドルサイズ)を強調する大人っぽいデザイン。
白と緑と銀を基調とすることでクレアが持つ穏やかな雰囲気を損なわず、中衛という位置取りで活躍できるよう他の二人よりも多く鉄を使って機動力と防御力を両立させている。
肌を晒す箇所が多いことで鉄装備の重っ苦しさを緩和し、シャープなシルエットでありながら女性らしい華やかさを備える優美なデザインだ。
そして三人ともプリーツスカートにニーソックス、そしてロングブーツが標準装備となっている。
オッサンオタクの好みが十二分に反映されたオタクデザインだった。
「へー、結構可愛いじゃない」
「本当に。華やかなデザインですの」
「可愛い……! あのあの、リュー様! 新しい装備ありがとうございます!」
「気に入ってもらえたようで何よりや。あと、コレも渡しておくわ」
「袋? 何これ? 何が入ってるの?」
「んー、ま、まぁアレや。みんな今日一日頑張ったなー! っていうご褒美的なプレゼントや。決して! 決して! やましい気持ちはない、あくまで間違った気のつかい方をしてもーた結果の産物やと思っといてや!」
「なに? 変に焦ってるわね。もしかして変なものなの?」
「全然変なもやないで! 正直、自信作や!」
「自信作、ですか?」
「いったい何なのでしょう?」
挙動不審なリューに首を捻っていた少女たちが、渡された麻袋の中を見て――少女たちは一斉に顔を真っ赤に染めた。
「な、ななななにこの小さいのっ!? もしかしてこれ下着なのっ!?」
「わわわっ、この下着、すごく小さいよ!? ホントに下着なのかなこれ!?」
「胸を収めるカップもありますし新しいタイプの下着だと思いますの。なるほど、これはデザインが秀逸で動きやすそうですの!」
「え、ええっ!? クレア、あんたこの下着を着けるつもりなのっ!? こ、こ、こんな破廉恥な、紐みたいな下着を……っ!?」
「え……もしかしてリュー、紐パン渡したの?」
「そないな訳あるかい! ちゃんと普通の女子が着るような、普通のブラジャーとショーツやぞ!」
「オッサンのくせにパンティじゃなくてショーツって言ってるところにガチ感が漂っていて正直ドン引きだ」
「うるさいわい!」
やいのやいのと言い合うオッサンたちの横で、少女たちは袋の中を覗き込みながらコソコソと言葉を交わす。
(ねぇクレア、アンタ、本当にこんな破廉恥な下着を着けるの……?)
(確かに布面積は小さいですけど絹でできた上質なもののようですし、紐のようなブラはコルセットよりも締め付けが少ないと思いますの。
きっとこれはご主人様たちの世界の下着なのでしょう。とても興味が湧きますわ)
(興味はあるけど……。でもこんなに小さいとお尻が入るか不安だよぉ……)
(いつまでも麻のドロワースでは肌が荒れてしまいますわ。今でさえ荒れた肌ですのに、このままでは肌が摩擦で黒ずんで治らなくなってしまいますの……)
(うっ、それはそうだけど。うーん……)
まだ躊躇している少女たちの様子に、
「け、決してやましい気持ちで作ったんやないで! それはオレらの居た世界の下着でな。ほら、これ、見てみぃ?」
リューは焦ったように言いながら、リビングに備え付けられたPCを操作して下着会社のウェブページを少女たちに見せた。
「わっ、すごい。下着の絵がたくさんある……!」
「花柄、格子柄、それに何だかスケスケな下着もありますの」
「ちょ、ちょっとちょっと、異世界の女性ってこんな布地の少ない下着をいつも着ているのっ!? うわー、これなんてすごく大胆なデザイン……」
モニターに表示されている下着カタログを、少女たちはほんのりと頬を赤らめながらも食い入るように見つめていた。
「そのページに下着の付け方とかも載っとるから、それで勉強したらエエよ。マウスの使い方はこうで――」
リューの説明を受けながら少女たちはマウスを使い、下着メーカーのウェブサイトをチェックする。
「うわっ、この下着、すごく可愛い……♪」
「あ、これも良いかも。フィーに似合いそう」
「こっちの縞々のはアリーシャにピッタリかも!」
「そう? 確かに可愛いよねこれ」
女の子らしくキャッキャッと楽しそうにはしゃぐ二人の横で、
「記録が次々と映る魔道具……これは素晴らしいものですの!」
フィーたちとは全く違う視点で一人ではしゃぐクレアの姿に、オッサンたちは思わず顔を見合わせて笑った。
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