第41話 オッサンたち、事態を把握する
ギルド受付嬢・スティムからモンスター
モンスターは大型のカエルやクモ、トカゲなど多く、小さな虫のようなモンスターも多数存在したこと。
数が多く、一度に三十体ものモンスターに襲われたこと。
そしてその中に瘴魔石を持つモンスターが多数いたこと。
リューは時系列に沿ってそれらを丁寧に説明した。
「――って訳ですわ」
「なるほど。そんなことがあったんですね……」
「それだけやないで。洞窟の入り口までなんとか逃げて来たときに、やたら大きいザリガニみたいなモンスターが襲ってきてな」
「ザリガニ、ですか? それはどういった姿で?」
「海老みたいな見た目で、両手が鋏で――」
スティムの疑問を受けてホーセイがリニオグナタの姿を細かく説明した。
すると見る見るスティムの顔から血の気が引いていった。
「それは、まさか……」
「ん? スティムちゃん、このモンスターのこと知ってるのか?」
「……私が直接見た訳じゃありません。ですがスタンピードのときに目撃された話が資料に残っているんです」
そういうとスティムは動揺から立ち直ろうと姿勢を正した。
「モンスターは『リニオグナタ』と名付けられていて、”赤き死の
「災害級って?」
「モンスターの危険度を示す呼び方です。モンスターにはGからSまでの通常ランクの他に特殊ランクがあり、その特殊ランクの一つに災害級があります」
「へぇ。それってめちゃくちゃ強いってことか?」
「はい。災害級は特殊ランクの中でも下位ランクですが、災害級モンスターが発生すれば、実力のあるAランク冒険者を数十人か、王国に所属する騎士団を総動員しなければ討伐できないとさえ言われるほどなんです」
「マジかよ。ヤバイなリニオグナタ」
「本当にとても危険なモンスターなんです! だからトゥライブスの皆様が無傷で街に逃げ戻って来られたのは本当に奇跡で――」
「逃げ戻るって。別にオレら逃げ戻ってきた訳とちゃうで?」
「へっ?」
「そのリニオグナタってやつを倒してから街に帰ってきたんですよ」
「ほへっ?」
「あれ? もしかして信じてないのか? スティムちゃん」
「いや、でも、そんな……! 普通のGランクのパーティーが災害級モンスターを倒すなんて、そんなこと絶対にあるはずが……っ!?」
「まっ、俺らは普通じゃないってこったな! リュー、スティムちゃんに見せてやろうぜ!」
「はいよ」
ケンジの催促を聞いてリューがリニオグナタからゲットした瘴魔石をスティムの前カウンターに置いた。
「リニオグナタの瘴魔石、一丁あがりや、ってな!」
「そ、んな……まさか……っ!?」
目の前に置かれた直径三十センチはあろう大型の瘴魔石を見て、スティムの顔色が白から赤へと変貌を遂げた。
「す、すみません、鑑定しても構いませんかっ!?」
「どうぞどうぞ」
「ありがとうございます。では……っ!」
カウンターに置かれた瘴魔石をルーペで覗いたり、何やら不思議な道具の上に乗せたりしてスティムは瘴魔石が本当にリニオグナタのものかを調査する。
やがて――。
「これは……すごい。文献に載っていたものと同じ魔力紋を確認しました。これは間違いなくリニオグナタの瘴魔石です……!」
「認めてもらえて嬉しいんだけど、その魔力紋ってなんのことだ?」
「魔力紋はモンスターの魔石の表面に浮かんでいる特徴的な模様のことです。同じ種類のモンスターの魔石ならば必ず同じ形の魔力紋が浮かんでいるのですよ。その魔力紋の形状によってどのモンスターから取れた魔石かが分かるんです」
「それってどんなんなん?」
「例えばジャイアントボアであれば魔石の表面に二重丸のような魔力紋が浮かんでいますし、スライムであれば小さな十字型の魔力紋が浮かんでいます。リニオグナタの魔力紋は鎌のような形をしたものです。ほら、ここに――」
そう言ってスティムが指差した場所には、確かに鎌のような形をした模様が見てとれた。
「おー、確かに言われてみたら鎌みたいな形やな」
「モンスターごとに定まった紋が浮かぶって、なんだか指紋みたいだね」
「しもん、というのが何かは良く分かりませんが、とにかくこの瘴魔石がリニオグナタのものであることをギルドが保証できるって事ですよ!」
「なるほど。ちゃんと保証されて良かったよ」
「それにしてもすごい……。まさかGランクパーティーのトゥライブスさんたちが災害級として恐れられる瘴魔リニオグナタを倒すなんて……」
「そこはまぁ、能あるオッサンは爪を隠すってな!」
「ですがリニオグナタがすでに出現しているのは危険な兆候ですね……」
「そうなん?」
「スタンピードが始まった初期の段階で災害級モンスターが確認されたということは、今後、それ以上の強さを持ったモンスターが出現する可能性が高いということなんです。下手すればこの街が蹂躙されてしまうほどの大規模スタンピードが……」
リニオグナタの瘴魔石に興奮していたスティムの表情から血の気が失せた。
「小規模のスタンピードでさえ、ちょっとした村ならば壊滅してしまうほど危険なものなんです。大規模スタンピードになれば、それこそセカンの街でさえも壊滅してしまう可能性があります……」
青ざめた顔をしたスティムが勢いよく顔を上げた。
「……私はこれからギルドマスターに詳細を報告してきます。その後は恐らくギルドマスターと領主様が対策を講じることになるでしょう。リニオグナタを討伐できるほどの実力を持つトゥライブスの皆様には是非、この街に残っていていただきたいのですが……」
「……すまんがそれは約束できないな」
「そう……ですか。いいえ、そうですよね。私たちギルドには冒険者の皆様の行動を制限する権限はありません。仕方ない、ですよね……」
ケンジの反応に沈んだ表情を浮かべたスティムは、だが私情を振り払うように首を振るとつとめて明るい表情でケンジたちに頭を下げた。
「トゥライブスの皆様、貴重な情報をありがとうございました! 私はすぐにギルドマスターに報告しにいきます!」
「待って待って! ちょー待って! スティムちゃん、その前にブルースライム捕獲依頼の確認とか素材の買い取りとかして欲しいんやけど!」
「それは別の者を手配しておきますね! それでは!」
そういうとスティムはバタバタと足音を立てて奥の部屋へ入っていった。
「行ってもた……なんやえらい
「スタンピードの対応のために忙しくなるんじゃないかな。それよりケンジ。珍しく返事を渋ってたね。何か思うところでもあったの?」
「スティムちゃんに街に居てくれって言われたことへの返事か? ……少し迷ったんだが、俺たちの目的はフィーたちをノースライドに連れて行くことだろ? 他に拘ってる暇はないんじゃないかと思ってな」
「そっか。ケンジはそう考えたんだね」
「ああ。……」
ホーセイに頷きを返したケンジだったが、考え込むように口を閉じた。
そこへスティムの代わりとしてやってきた受付嬢がやってきた。
「すみませーん! お待たせしましたー!」
「ええと、依頼完了の手続きと素材買い取りの件ですよね!」
「せや。よろしく頼むわ」
「了解です。ではまずは依頼完了の手続きから――」
受付嬢はファイリングされた資料をめくり、テキパキと手続きを始めた――。
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