第37話 オッサンたち、考察する
ギルドで請けたブルースライムの捕獲の依頼。
五匹のブルースライムを捕獲したオッサンたち一行は、更に追加で五匹のブルースライムを捕獲してボーナスをゲットするべく『水鏡の地下洞窟』を進む。
「天井から新たにスライムが三匹来ますわ! 皆様お気を付けてくださいまし!」
「了解! でもそっちの三匹には手が回らないかも!」
「こっちはアタシがやるわ! ファイアバレット!」
「敵撃破確認ですの! ですがまだまだ天井から落ちてきていますわ!」
「ああ、もう面倒臭い! 一気に焼き払ってやりたい! ちょっとオッサンたち! やってイイでしょ!」
次々と現れる新手の敵に業を煮やしたアリーシャが、後方腕組み監督ヅラをしているオッサンたちに許可を求めた。
「ダメに決まってるだろ。洞窟をぶっ壊すつもりかよ」
「いくら風があるから言うて、天井の高さが三メートルほどしかないこの場所でデカイ炎魔法をぶっ
「
「ああ、もう! メンドクサイ!」
オッサンたちの注意に文句を言いながら、アリーシャは新たに出現したスライムに指先を向けた。
すると指先にピンポン球ほどの大きさの火球が出現し、弾丸のような速度でスライムに向かって発射された。
炎の弾丸はスライムに当たると小さな爆発を起こしてスライムの核を破壊する。
だが――。
「前方から新たに五匹出現ですの! 今度の敵は大きいですわ!」
「モンスターの種類を【鑑定】や!」
「ジャイアントトードが三、ケイブリザードが二、ですの!」
「スライムの死骸を食べに来たんかもな。フィーっちたちの手には余るかもしれん。スイッチ(前衛・後衛を交代すること)するでオッサンども!」
「了解。オッサンたちが前に出るから三人は下がっててね!」
「はい!」
「任せたわよ!」
「おうよ、オッサンたちに任せとけ!」
少女たちの戦闘を見守っていたオッサンたちは、新たに出現した敵を担当するために前に進み出た。
新たな敵は子牛ほどの大きさのカエルと、抱き枕ほどの大きさのトカゲだ。
敵の姿を確認したリューがすぐさま【分析】を使って得た情報を共有する。
「カエルはミドルレンジ攻撃、それと打撃耐性あり。トカゲは素早いタイプみたいやから命中率に注意や。両方とも病気系の状態異常を持っとるで。あとカエルには文字化けして正体の分からん状態異常が付与されとるから注意してや」
「また文字化けかよ! リューの【分析】でも分からないのか?」
「分からん。ローカライズされてないのか、初めて出会った状態異常やから公開情報になってないのか……とにかく、すぐには判断付かんから気ぃつけてや」
「了解だ。このままリューに
「はい!」
「僕が前に出てヘイトを買うよ。『
「よし、敵がホーセイに集中してる間にケンジはトカゲの処理や!」
「おう! 食らえ、『ブロー』!」
「アリっちもケンジが攻撃してるトカゲにファイアバレット! 敵一体にフォーカスして敵の処理速度を上げてや!」
「わ。分かったわ!」
「クレアっちは探知で周囲の状況確認! それが終わったら後衛の前にスキルでスロウトラップの設置! 前衛をくぐり抜けてきた敵が居たらそのトラップで時間を稼ぐことになるから、敵の移動地点を予測して置いておくんやで」
「や、やってみますの!」
「あの、私はどうしましょう……!?」
「フィーっちは仲間の状況を見て回復に専念や! 誰かが状態異常になったときはすぐにキュアで治したってや!」
「分かりました!」
「リュー! こっちはトカゲ一匹撃破したぞ!」
「そのままもう一匹のトカゲにフォーカス!」
「おう!」
「リュー! そろそろヘイトが外れそう!
「カエルだけ移動妨害入れるわ! 【ソーンバインド】!」
「リュー様、周囲に敵影無しですの! あと、トラップ設置完了ですわ!」
「じゃあアリっちに魔力アップのバフ! それが終わったら後衛の護衛や!」
「はいですの!」
「トカゲ終わった! カエルに移るぞ!」
「そっちは任せた! アリっちはMP回復のために指示するまで待機や!」
「う、うん!」
「リュー、カエルの移動妨害が切れるよ! CT残り二十秒!」
「ケンジ!」
「一匹は多分いける! もう一匹はホーセイ頼む!」
「了解! 一匹、後ろに抜けるから注意!」
「任せろや!」
リューが使った【ソーンバインド】の効果が終わった瞬間、三匹のうちの一匹が大きく跳躍して一気に後衛に迫った。
だが――。
「トラップに掛かりましたわ!」
「ナイスやクレアっち!」
速度遅延のトラップに引っかかったカエルの動きが目に見えて遅くなる。
そのカエルに向かってリューは強烈な前蹴りを放った。
「オラッ! 【喧嘩キック】じゃい!」
キックを食らったジャイアントドートは激しく吹っ飛び、再び前衛たちの前に場所を戻した。
「ナイス、リュー! いいノックバックだね!」
「あとの処理は頼むでー」
「任せとけ! おらぁ! 【百烈ブロー】!」
ケンジの拳が光って唸るとジャイアントトードの腹に食い込む。
「くっそ、こいつの打撃耐性、拳闘ビルドだとかなり
「アリっち! ケンジが攻撃してるカエルにファイアバレット!」
「う、うん! ファイアバレット!」
「フィーっちは前衛のスタミナ回復! 拳闘ビルドはスタミナの消費が激しいから適宜頼むで!」
「はい!」
「クレアっち、周囲の様子はどうや?」
「新しい敵影はありませんわ」
「戦闘音を聞いていつ新しい敵が来るか分からんから、探知はこまめに頼むで」
「分かりましたの」
「さぁ敵はあと三匹や! さっさと殺ってまうで!」
リューのかけ声に仲間たちが力強く答え――やがてTOLIVESは危なげなく戦闘に勝利した。
「はぁ~……カエル、つれぇー……」
「打撃攻撃のダメージ、ほぼカットされてたね。ぶよぶよした身体だからかな?」
「今のオレらはお嬢ちゃんたちの修行のためにステータスに制限掛けとる。……とは言えこのカエル、ちょっと強すぎやったな」
「あの耐性は異常だろ。体感、八割ぐらい打撃のダメージがカットされてたぞ」
「あれがジャイアントトードの普通なのかな?」
「多分ちゃう(違う)と思うわ。例の文字化けした状態異常のせいやろ」
「ジャイアントトードに何かあったってことか?」
「変異したんか、何かの影響を受けてたんか……。何にしろ情報が少なすぎて今は判断できんわ」
「じゃあ今のところ保留にするしかねーな」
「せやな」
「それにしてもアリーシャちゃんの魔法が大活躍だったね」
「それな。ありがとうな、アリーシャ」
「ふ、フンっ。別にこれぐらいなんてこともないし。なんたってアタシは最強魔導師になったんだから!」
「おう、最強だったぞ! めちゃくちゃ助かった! これからもよろしくな!」
「フフンッ、良いわよ。これからもアンタたちのこと、助けてあげるわ!」
鼻高々、といった様子のアリーシャの反応を微笑ましく見守っているオッサンたちにフィーが回復魔法を掛けて回る。
「ご主人様、お怪我はありませんか?」
「おう、大丈夫だ。回復ありがとうな。フィーのほうは大丈夫だったか?」
「私は、特に何もできていませんから……」
そう言って沈んだ様子を見せたフィーに、ケンジは優しく言葉を掛けた。
「回復役のフィーが何もできていないってことは、それだけ順調に戦闘できたってことだろ。だから別に気にする必要は無いぞ?」
「そうでしょうか……。なんだか一人だけ役に立ててないような気がして」
「要は適切なタイミングで適切な行動ができたかどうかだ。そしてフィーはそれができていた。だから活躍しているとかしていないとかで気に病む必要はないさ」
そういうとケンジはフィーの頭を撫でた。
「冒険を続ける中でフィーが活躍するときはいつか必ず来る。だから今、焦らなくても良い。じっくり丁寧に。フィーらしくしていればそれで良いんだ」
「私らしく、ですか……でも何をすれば私らしいのでしょう……?」
「それもすぐに分かるもんじゃないんだけどな。だけど一所懸命に生きているとき、時折、こう、閃きみたいに気が付くんだ。『あ、これって自分らしいな』ってな」
「気付く……私にもそういうときが来るのでしょうか」
「きっと来る。俺が保証する」
力強く返事をしたケンジが落ち込む少女の前に屈んで目線を合わせた。
「若いときはすぐに結果を求めがちだ。誰かが活躍するところを見ると心が焦ってしまったり、無理に結果を出そうとして失敗してしまったり、な。俺にもそういう経験がある」
「ご主人様も、ですか?」
「そりゃもう両手の指では数え切れないぐらいにな。失敗して、挫折して、落ち込んで……そんなことの繰り返しだった。今、考えると自分と他人を見比べてすぎて、色々焦ってたんだって思う」
「焦り……」
「焦ると視野が狭くなって普段なら気が付くことにも気が付かなくなる。結果を残して他人を出し抜くことしか考えられなくなっちまう。オッサンになって気が付いたことだが、焦って行動を起こすと何でか絶対に落とし穴があるんだよなぁ」
「落とし穴、ですか」
「何か大事なことを忘れていたり、結果を出しても後から大きなしっぺ返しを食らったり。長いこと生きてると焦って行動することの功罪ってのが分かるようになる」
ケンジは少女の手を取ると両手で優しく包み込んだ。
「だから焦るな、フィー。フィーは今でも充分、みんなの役に立てているから。一歩一歩、一日一日を大切にして、焦らずゆっくりと成長していけば良い」
「焦らずゆっくり……私、それでご主人様のお役に立てますか?」
「役に立つ、立たないというよりも、俺がそうして欲しいんだ」
「ご主人様がして欲しいこと……」
ケンジの言葉に、フィーは俯いていた顔を上げた。
「私、アリーシャやクレアを見て焦っていたのかもしれません。もう少しだけ肩の力を抜いても……良いですよね」
「もちろんだ。そっちのほうがフィーらしいって俺は思うぞ」
「それが私らしい……むぅ。なんだか私がいつものんびりしてるみたいですよぅ」
「はははっ、そういう意味じゃねーけどな。だけどのんびりしてるフィーも俺は好きだぞ」
「……! あの、えっと、じゃあ私、もっとのんびりします!」
「ああ、それで良い」
フィーの宣言が可愛らしくてケンジは笑いながらも力強く頷いた。
そんな主人の反応にフィーは嬉しそうに笑いを零す。
「あー……お二人の世界を作っとるところ悪いんやけど、ちょっとエエか」
リューに声を掛けられたことで皆の視線が自分に集中していることに気づいたフィーは、顔を真っ赤にしながら友人たちの後ろに隠れた。
「何かあったのか?」
「さっき倒したジャイアントトードをインベントリに回収して素材に【加工】したんやけど、何か変な素材があってな」
そういうとリューはインベントリから赤黒くくすんだ石を取り出した。
「【分析】で確認したらなんと『
「瘴魔石? 確かユグドラシルファンタジーにもそんなアイテムがあったよな?」
「瘴気を大量に含んだ変異モンスターからドロップする素材アイテムだね。じゃあさっきのジャイアントトードは……」
「妙に強いと思っとったけど、どうやら変異モンスターやったみたいや」
「変異モンスターって飛び抜けた耐性を持ってる、いわゆるエリートモンスターだったよね。まさかこの世界でも見かけることになるなんて」
「コモン、エリート、チャンピオン、レジェンド、ユニークってのがモンスターの強さの基準だったか」
「それや。せやけど問題はそこやないねん」
「そこじゃないならどこだよ?」
「あくまでユグドラシルファンタジーなら、という仮定やねんけど。ユグドラシルファンタジーでの変異モンスターのゲーム内設定は『溢れ出した瘴気を大量に浴びたことで突然変異を起こしたモンスター』や。つまりこの洞窟から瘴気が溢れ出しとる可能性が高いってことや」
「瘴気ってユグドラシルファンタジーだとモンスターの発生源で、世界が瘴気に包まれたとき世界は滅亡するとか何とか……そんな設定だったよな」
「その瘴気を浄化するのが世界樹ユグドラシルで、その世界樹ユグドラシルを守りながら世界各地に発生する瘴気の発生ポイントを潰していく……っていうのがメインストーリーだったね」
「せや。そんで(それで)瘴気が発生するポイントでは通常モンスターやら変異モンスターがわんさかポップして、いわゆる『モンスター
「……おい。じゃあこの洞窟にいるのはマズイんじゃねーか?」
「あくまで可能性があるってだけやけどな。せやけどユグドラシルファンタジーと同じようなアイテムがドロップしたってこともある。安全を考えるなら、アリっちたちのレベリングとか言うてる場合やないかもしれん」
「最低限の依頼目標は達成しているし、さっさと戻った方が良いかもね」
「そうだな。ご安全に。命大事に。それが俺たちの方針だ。なんだかヤバそうな気配があるのならさっさと退散しようぜ」
ゲームだったユグドラシルファンタジーとこの世界の類似について、オッサンたちはまだ明確な答えを出せていない。
だからこそ、それらしい予兆を見つけたのならば、安全に繋がる選択をしたほうが良い――それがオッサンたちの判断だった。
状況の異変を確認して即時撤退の選択をするオッサンたち。
そのとき、クレアの緊迫した声が洞窟に響いた。
「ご主人様方! 洞窟の奥から戦っているような音が聞こえてきますの!」
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