第34話 オッサンたち、洞窟に到着する
セカンの街の冒険者ギルドで新しい仲間であるアリーシャとクレア、二人の少女の冒険者登録を完了したあと、オッサンたちは
内容は『水鏡の地下洞窟』に生息する街の下水道の浄化に役立つというブルースライムの捕獲だ。
ギルドから提供された捕獲用ガラス瓶を手にオッサンたちは洞窟へと向かった。
『水鏡の地下洞窟』は『獣の森』にある洞窟の一つだ。
セカンの街から徒歩で三時間ほどの距離にある。
奴隷生活が長く、全身の筋肉が落ちに落ちているアリーシャとクレアのリハビリがてら、TOLIVES一行は徒歩で洞窟に向かった。
ケンジのユニークアビリティ【クラン】の機能でパーティー登録したアリーシャたちにインターフェースのレクチャーし終えた頃、オッサンたちは無事に『水鏡の洞窟』の入り口に到着した。
洞窟の入り口を抜けるとそこは青白い光に満ちた大きな広間があった。
「へぇ……洞窟っていうからもっと暗いと思ってたけど、そうでもないんだな」
「壁一面がうっすらと青い光を放ってるね。これ、なんだろう?」
「壁一面に
洞窟の壁面をジッと見つめていたリューが【分析】の結果を報告した。
「綺麗……」
「これが夜光苔……王宮図書館で資料に載ってた絵図は見たことがあったけれど。こんなに綺麗な光を放つものなのね……」
「足下を照らしてもらえてとても助かりますの」
好奇心に満ちた瞳で洞窟の壁を眺める三人の少女。
フィーはうっとりと。
アリーシャはキラキラと。
クレアはおっとりと。
各々、違う表情を浮かべて夜光苔の放つ光に魅入っていた。
「珍しいのは分かるが気を引き締めろよ。どれだけ綺麗だったとしてもここはダンジョンだ。一歩間違えれば死んでしまうような危険な場所だぞ」
「適性レベルとはほど遠い高難易度ダンジョンに突撃しまくっていたケンジの言葉は重みがあるねえ」
「そういうイチビッたやつが居るから作り手側の難易度調整が激ムズになるんやけどなぁ。高難易度ダンジョン最速RTA! とか言って編集した動画を見たプレイヤーが想定レベル以下で突撃したはエエけどクリアできへんで、難易度高すぎとか、ザコ調整乙とかってクレーム入れてくるねん。ほんま止めて欲しいわ」
「死んでもリスポーンできたゲームとは違って、この世界ではどうなるか分からんのだから俺も無茶はしねーよ。とにかく浮かれすぎて足下を掬われないようにな!」
「は、はい!」
「悪かったわよ。本物が見れて嬉しくて、つい――」
「気をつけないと、ですわね」
「気合い入れるのはエエこっちゃ。ほんなら三人とも注目。状況を確認するで」
表情を引き締めた少女たちに声を掛けたリューが、現在の状況を共有する。
「アリっちとクレアっちの二人はもうすでにパーティーの一員になっとる。これは冒険者登録のときにギルドに提出した書類上の意味やなく、ケンジのユニークアビリティ【クラン】によって編成されたパーティーって意味や。これで二人は特殊なインターフェースを使用できるようになっとる……ってのは、この洞窟に来る道中で軽く説明したけど、ちゃんと覚えとるか?」
「確か、ショートカットジェスチャー、だっけ?」
「ステータスボード、というものも見られるようになったのでしたわね」
「せや。洞窟への道中で説明した通りやけど一度、試してみよか。空中で指をこう……やって動かしてみてや」
言いながら、リューは空中に”S”の文字を描くように伝えた。
「こう、やって……わっ! 本当に何か出てきた!?」
「空中に半透明なガラス板? これがステータスボードというものですの?」
「せや。そこにはアリっちとクレアっちのステータス、つまり今の実力が数値として表示されとる。……オッサンたちが見てもエエか?」
「え。なんかイヤ」
「少し恥ずかしいですの」
「本来、ステータスって人に見せるのは良くないし、人のステータスをのぞき見るのもマナー違反なんだけどね。でも二人の力を把握するためには必要なことなんだ。だから許可してくれると嬉しいな」
「……分かった。そういう理由があるなら別に見て良いわよ」
「ですがいつか皆様のステータスとやらも見せていただきたいですの」
「そりゃもちろん。仲間ならいつでもOKだぜ」
「ふふっ、楽しみにしておりますわ」
「ふむふむ……なるほど。アリっちはさすが宮廷魔導師の家系やな。
「アタシって魔力と魔法力が高いの? ま、まぁシルバーフォックス家は代々、宮廷魔導師を務める家系だし、子供の頃から魔導師になるために頑張ってきたし!」
「その頑張りが反映されてるって訳だな。すごいじゃないかアリーシャ!」
「……フンッ。褒めたって何もしないんだからね!」
「賞賛ぐらい素直に受け取れよぉ……」
「オッサンに褒められても嬉しくないもん」
「へいへい。さいですか。それでリュー、クレアのほうはどうよ?」
「クレアっちの方は……そこそこエエ感じやな」
「そこそこ……。わたくしってそこそこな女ですのね……」
「いや! 今のはオレの言い方が悪かったわ! そういう意味やなくてやな……」
「クレアちゃんはどちからというと万能型のステータス傾向だね。アリーシャちゃんみたいに魔力と魔法力が突出してるって訳じゃないけど、全ステータスが
「万能型か。そりゃありがたいな!」
「ありがたいのですの?」
「普通は何かに突出したステータスになるもんなんだ」
「前衛なら筋力と耐力が高くなる傾向があるし、後衛なら魔力と敏捷性が高くなる傾向があるんだよ」
「でも万能型は何でもこなせるからパーティーにとって
「戦闘時のリーダー……IGL《インゲームリーダー》をこなすのは戦況を把握しやすいポジショニングのできる中衛万能型の役割や。ま、オッサンらの場合は編成がいびつやから、中衛のオレはあまり機能しとらんかったけど」
「戦闘時のリーダー……」
「前衛は目の前の敵しか目に入らんし、後衛は前線で何かあったときに即座に対処できへん。その点、中衛は前線の状況を把握しやすいし、前衛か後衛どちらかに何かあったときにすぐに対処できるやろ? その中衛向きなのが万能型ってワケや」
「ただ万能型は満遍なくステータス値が上がる傾向が強いから、成長を実感できるようになるにはちょっと時間が掛かっちゃうけどね」
「人によっては器用貧乏なんて言ってバカにするやつも居るが、器用に何でもこなせる仲間が居るだけで、前衛も後衛も自分の仕事に専念できる。つまり縁の下の力持ちってやつだ」
「縁の下の力持ちをバカにするやつは、なーんにも見えてない、目が節穴で考えの浅いやつだから、何か言われても気にする必要はないよ」
「ふふっ、お優しいお言葉、ありがとうございますわ、ご主人様方……♪」
「せやけどホンマにありがたいわ。クレアっちに中衛を任せることができれば、オレがフリーに動けるようになるし」
「わたくし、皆様のお役に立てるんですのね」
「僕たちにとっては大助かりだよ」
「ならわたくし、頑張りますの!」
「おう! 期待してるぜ、クレア」
「ええ!」
「ほなステータスも確認できたところで、次の確認やな。オレらの仕事はこの洞窟に住んどる『ブルースライム』っちゅーのの捕獲。数は――」
「ひとまず五匹。できればそれ以上捕まえて欲しいってよ」
「追加のボーナスはあるの?」
「十匹まではボーナスありだと」
「なら目指すは十匹ゲットか」
「当然、ボーナスゲットまでやるつもりだぜ」
言いながらケンジはインベントリからガラス瓶を取り出した。
ガラス瓶は直径十五センチほどのサイズで木製の蓋がついていた。
「このサイズのガラス瓶を十個預かってる」
「直径十五センチ、縦十五センチぐらいかな?」
「調べてみたんやけど、ブルースライムは最大でも大人の拳程度の大きさにしかならへんらしいわ」
「案外小さいな。その大きさだと俺らが見つけるのはだいぶ苦労しそうだ」
「オッサンになると視力が落ちてきて、気が付いたら老眼になっとるからなぁ」
「遠くのものは見えづらいし、近くてもぼやけて見えにくい。視野も狭まってくるしほんと老眼になると不自由を実感するよね……」
「まだだ! まだそこまでは老眼が進行していないと思いたいっ!」
オッサンたちが加齢による視力低下に嘆いていると、フィーが気合いを入れた声で代わりを申し出た。
「あ、あの! それじゃ、私たちに任せてください! こう見えて私、目が良いですから!」
「おおぅ、それは助かる」
「ごめんねぇ、オッサンたち遠くの物とか小さい物を探すのが苦手で……」
「オレ、もし神様に何でも願い事叶えてくれるて言われたら、若い頃の視力に戻りたいってお願いするわ」
「目が悪いとオタクコンテンツも楽しめなくなってくるしなぁ」
「ソシャゲの文字とか小さすぎて読めないとき、あるよね」
「ソシャゲはオッサン向けに文字の拡大機能を付けて欲しいわ」
申し出てくれたフィーに感謝の言葉を返しながら、オッサンたちはオッサンあるある話で切なさを共有する。
「んじゃ、ブルースライム捜索はフィーたち若者に任せることにして、まずは洞窟の中を探険してみようぜ!」
「探険、良いわね。望むところよ!」
「ドキドキしますの」
「頑張ります!」
怖じ気付いた様子は微塵もなく、少女たちは未知の冒険に向けて目を輝かせた。
『水鏡の地下洞窟』最奥――。
夜光苔の光を反射してキラキラと煌めく静謐な地底湖がある。
池底から湧き出る水の音が響くその泉の中央には女性を象った石像があった。
その石像はまるで悠久の時の流れを纏うように苔むしながら、慈愛に満ちた瞳で水面を見つめていた。
そこだけを見ると荘厳な風景なように見える。
だが実際は荘厳とはほど遠い風景だ。
最奥の広場のあちこちには、冒険者たちが捨てたであろうゴミが散乱していた。
そんな静謐な地底湖に騒々しい声が響き渡った。
ズカズカと足音高く入ってきたのは男一人、女二人のパーティーだ。
顔立ちの整った男が、部屋に入るなり感心したような大声をあげた。
「うわーっ、すっげー! 『水鏡の地下洞窟』の最奥にはこんな大きな地底湖があったんだな!」
「神代の頃のセカンの街の住人はこの泉の水を汲んで生活していたそうよ」
「へー。じゃあこんな汚いところなのに実は由緒正しい場所ってことかー」
「汚いなんてとんでもない。地底湖の岸辺にある創世の女神アイコニアス様の像のお陰で、昔は聖域として大切にされていたのよ」
「されていたってことは今はもうされてないってことでしょ? ゴミばっかだし」
「そう、ですね……最奥まで辿り着いた冒険者たちが地上に戻る前に、身軽になるためにゴミを捨てているみたいで」
「『水鏡の地下洞窟』がかなり広いから仕方ないとは言え……聖域がこんなにゴミだらけなのは残念ね」
「清掃して差し上げたいですが、ゴミを持って帰ることはできませんからね……」
「荷物になるし何より面倒だよ。みんな捨ててるんだったら別に良いじゃん」
そういうとイケメンはポーションの空き瓶をポイ捨てした。
「もう。そういうことするの、良くないですよ?」
「大丈夫だって、みんなやってることだし。それにアイコニアスってもうこの世界には居ないって言われてる神様だろ? だったら気にしても仕方ないじゃん」
「……」
「まったく……カインってほんとデリカシーがないわね。レイネはアイコニアスを信奉する創世教会の司祭なのよ? 女の子を悲しませるんじゃないわよ」
「うっ……悪かったよ。ごめんなレイネ。許してくれ」
そういうとカインはレイネと呼ばれた女神官の身体を抱き締め、腰を股間に押しつけた。
「あ……」
布越しに感じる隆起にレイネは嬉しそうに頬を染めた。
「今日の夜、ベッドの中で可愛がってやるからさ。許してくれるよな?」
「はい……♪」
「ちょっと。こんなところで
「良いじゃん、誰も居ないんだし。それに安心しろって。レイネと一緒にダリアも可愛がってやるからさ」
「……とにかく。依頼だったスライム駆除は終わったんだし、さっさと街に戻りましょう」
「そうだな。さっさと宿屋に帰って楽しもうぜ」
カインはパーティーの女たちの腰に手を回しながら地底湖に背を向けた。
再び静まり返る地底湖の広間。
だが耳を澄ませば微かに細波の音が聞こえてくることに気付いただろう。
アイコニアスの像が建つ岸辺に寄せる細く、弱々しい波。
その波はやがて白く泡立つ大きな波へと変化していった――。
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