第29話 オッサンたち、新しい仲間をゲットする

【第二幕】

 奴隷に落とされた亡国の元王女、フィーラルシア。

 そのフィーラルシアの親友で共に奴隷落ちしていたアリーシャとクレア。


 三人の訳あり少女と出会ったオッサンたちは、少女たちを付け狙うアイウェオ王国の伯爵ジャックオ・ドスケイブと戦い、勝利を手に入れた。


 だが主人であったジャックオが死んだことで、奴隷の少女アリーシャとクレアにはには新たな主人が必要となった。


 オッサンたちは相談した上で、リーダーであるケンジ・ザ・グレートオッパイが奴隷少女たちの主人を務めることを決めた。


 フィーラルシアは離ればなれになっていた親友たちとの再会を喜び、アリーシャたちもまた、フィーラルシアとの再会に涙を流した。


 そんな少女たちの再会劇を見て、オッサンたちは目頭が熱くさせていた。


「アカン……加齢からか最近、涙腺が緩くなってしゃーないわ……」

「わかる。ちょっと感動するとすぐに目の周りが痛くなってくるよね」

「泣くんじゃねーよオッサンども! くそっ、目から汗が止まらねえ……!」


 感動の涙を流すオッサンたちだったが、のんびりとしていられないことも重々承知していた。


 ひとしきり少女たちの感動の再会を見守ったあと、オッサンたちは少女たちの手を引いてアイウェオ王国からの脱出を試みる。


 向かう先は『獣の森』を抜けた先にあるセカンの街だ。


「セカンの街はアイウェオ王国のお隣の国、『カーケーク王国』っていう別の国らしいわ。そこやったら多少は時間稼ぎができるやろ」


「セカンの街で態勢を整えてノースライドに向かうって流れかな?」


「せやな。アイウェオ王国を脱出して東に抜けるとカーケーク王国。西に抜けるとタルコス王国やねんけど、


 西からノースライドに向かうとなるとタルコス抜けてトリアゲスとバンガスを抜けるハメになるから、ぶっちゃけ危険度が高いねん」


「トリアゲスもバンガスもフィーの故郷ノースライドを攻め滅ぼした国じゃねーか。なら東ルート、カーケークを抜けるってルートが無難か」


「遠回りになってまうけど、そっちの方が安全やと思うわ」


「そうと決まればすぐに移動しようぜ」


「うん。でもフィーちゃんはともかくとして、奴隷から解放されたばかりのお友達たちに森の中の移動はこくかも」


「俺とホーセイで二人を背負ってやれば良いさ。フィー、俺たちにスタミナ強化のバフを頼むわ」


「はい!」


 ケンジの声に応えると、フィーは指定されたスキルを使った。


「え、魔法っ!? フィー、アンタ、魔法が苦手じゃなかったっけ!?」


「ええ。王宮に居た頃はわたくしと同じぐらい魔法が苦手だったような……いつ勉強したのですの?」


「勉強、というか。んーと……ご主人様と一緒にモンスターと戦ってたら自然に覚えたっていうか……」


「はっ!? なにそれ。そんなことができるなんて文献、あたし読んだことない! それってどういう理屈なの!?」


「えらい食いつくやん? 元気やなぁ」


「それはそうよ。だって魔法は日々研鑽し、魔導書を読み込んで魔法発動の理屈を理解し、詠唱によって現象を引き出す高度な技術なのよ?


 モンスターと戦っただけで使えるようになるなんて、あるはずがないもの」


「へぇ、この世界の魔法ってそうやって覚えるものなんだね」


「魔法に詳しいんだな。えーっと……そういや名前、何だっけ?」


「はあ!? 名前も知らないのに奴隷の主人になるとか、アンタちょっと頭おかしいんじゃないの?」


 腕を組みながら容赦なくこき下ろす、ツインテールの金髪少女。

 その姿にオッサンたちの目がキラキラと輝いた。


(おほっ、毒舌ツンデレ少女とかえらい古典的なキャラの子が出てきよったな)

(いいよね、古典ツンデレ。僕は好きだなぁ)


(デレはどこにあんだよ。こいつ、今のところツンだけじゃねーか)

(そこをデレさせて行くのがご主人様の腕の見せ所やないか)


(ガキに興味はねーんだけどなぁ……どうせならグレートオッパイなツンデレに出会いたかったぜ)


(子供と言っても歴としたレディなんだから、そういう失礼な態度はよしたほうが良いんじゃない?)


(レディ、ねえ……)


 ホーセイの言葉を受けてケンジは改めて新しく奴隷となった少女たちを見た。


 ケンジにきつい言葉を投げかけたツインテールの少女は、奴隷生活が長かったせいでボサボサになった長い金髪を横で二つに纏め、挑むような強い視線をオッサンたちに投げかけている。


 光の加減によっては青く輝く金髪が特徴的だが、それ以上に勝ち気な瞳が印象的な美少女だ。


 もう一人はツインテール少女とは正反対の穏やかな微笑みを浮かべていた。


 ツインテール少女と同じように全身が薄汚れてはいるものの、フワフワと綿毛のようなピンクブロンドの髪が特徴的な優しそうな美少女だった。


「なによ、ジロジロ見て」


「何でもねーよ。それより自己紹介だ。俺の名前はケンジ。ケンジ・ザ・グレートオッパイ。おまえらの新しい主人を務める。よろしくな!」


「オレはリュー@ちっぱい最強! リューって呼んでや」


「僕はホーセイ。マダムスキー・ホーセイ。ホーセイって呼んでね」


「オッパ……? えっ? ちっぱいってなに? マダムスキーってどういうこと!? それって本当にアンタたちの名前なのっ!?」


「おうよ。俺たちの魂の名前ソウルネームだ!」


「ただのド変態ネームじゃないっ!?」


 オッサンたちのファミリーネームを聞いて、ツインテール少女は驚きの表情と共に強い調子でツッコミを入れた。


「うんうん。いいツッコミだ!」


「キレがあってスナップも利いてる、玄人好みでレベルの高いツッコミやな」


「正論パンチの威力も高いし、オッサンの心に突き刺さる正統派昭和ツンデレツッコミだねぇ」


 少女のツッコミを聞いてオッサンたちの顔がほころぶ。


「いや何を喜んでるのよ気持ち悪いわね!」


「罵倒、いただきましたーっ!」


いにしえのツンデレ美少女から繰り出される罵倒はいつかがんに効くで」


「正統派昭和ツンデレの罵倒はオッサンの五臓六腑に染み渡るよねぇ」


 少女に罵倒されても笑顔を浮かべるオッサンたち。

 その姿にツインテール少女は友人たちに顔を向けた。


「ねぇ、クレア。アタシたちって選択を間違ったんじゃない……?」


「それは、えーっと……多分、大丈夫だと思いますの。だってフィーさんが慕っているおじさま方ですし……」


「本当にそう思ってる?」


「……わたくし、お友達のことは信じることにしておりますの」


「それって自分の判断に自信がないってことじゃない!?」


「だ、大丈夫だよアリーシャ。ご主人様たちは少しユニークな方々だけど、義に富み、勇気に溢れるお優しい方々だから!」


「本当に~?」


「本当だよ! そうじゃなければ私の正体がバレたときに酷い目に遭ってた。


 でもご主人様方は私を保護し、励まし、友達を助けるために命を賭けてくれたんだよ!


 だから大丈夫! アリーシャたちも最高のご主人様だって思える日が来るから!」


「……コレが?」


 そう言って指差した方向には、頬を赤らめてツンデレ少女の罵倒を味わうかのように頷きを繰り返すオッサンたちの姿があった。


「あぅ……」


「はぁ~……まぁ良いわ。フィーのことは信じてるから」


「アリーシャ……ありがとう!」


「だー! もう、だから抱きつこうとしないでってば! せっかくカワイイ服を着てるのにアンタの服が汚れちゃうでしょ!」


「おおっ! お嬢ちゃん、その服の良さが分かるんか! ええセンスしとるな!」


「な、何よ急にっ!?」


「この服はリュー様が作ってくださったんだよ」


「このカワイイ服を、アンタみたいなオッサンが……?」


「せやで。オッサンでもそこそこやるやろ? 時間ができたらお嬢ちゃんたちの服も作ったるさかい、もうちょっとだけ我慢しててや」


「フンッ……」


「さて。これでオッサンたちのことは分かっただろ? 次はお嬢ちゃんたちの番だ。まずは名前を教えてくれ」


 水を向けられた少女たちはシーツに包まれたままの状態で軽く膝を折ると、オッサンたちに頭を下げた。


「アタシの名はアリーシャ。アリーシャ・シルバーフォックス。ノースライド王国宮廷魔導師を勤めたシルバーフォックス伯爵家の娘。


 フィーラルシア王女殿下の側仕えとして共に王国を脱出した後、難儀に見舞われておりました。


 アタシたちをお救いくださいました皆様には心から感謝しております」


 伯爵家の令嬢らしく丁寧な口調で応えたアリーシャが、隣で同じように膝を折っていた少女に顔を向けた。


「わたくしはクレア・サンボルト。ノースライド王国サンボルト男爵家の娘でございます。わたくしもアリーシャ様と同じでございます。


 難儀に見舞われていたところをお救いくださいまして本当にありがとうございました」


「ご主人様方、フィーラルシア様ともども」

「今後ともよしなに」


 令嬢らしい丁寧な挨拶を受けてケンジが焦ったように頭を下げた。


「こ、こちらこそ、よろしくお願い申し上げます!」

「なんでおまえが焦るねん」

「言葉遣い、おかしくなってるよ?」


「いや、だってよぉ。なんかお嬢様っぽく丁寧に挨拶されたら、どう返して良いのか分からなくなっちまうだろ」


「まぁ気持ちは分かるけども。オッサンたちのそこそこ長い人生でも上流階級のお嬢様と知り合うことなんてなかったしなぁ」


「ウチの会社に社長令嬢が所属してたけど、銭ゲバで上から目線のクソオンナだったよ。それに比べてアリーシャちゃんもクレアちゃんも気品に溢れててすごいね」


「フィーのときも気品のあるお嬢さんだと感心したもんなぁ。なんつーか、こう、高貴なオーラがあるっつーか」


「せやけどそこまで丁寧にせんでエエで。オッサンたちはただの庶民やし」

「それにこれからは同じパーティーの仲間だ。だから普通で良いぞ」

「その方が僕たちも気楽だからね」


「そう。ならそうさせてもらうわ」

「そう……ですね。ご主人様方がそうお望みなら、それに従うことに致しますわ」


「おう、そう致してくれ」


「ほんなら自己紹介も終えたことやし、さっさと移動しよか」


「じゃあケンジ。僕はクレアちゃんを背負うから、アリーシャちゃんはよろしく」


「任せとけ。ほらアリーシャ、来い」


 シーツに包まった少女の前にしゃがみ込み、ケンジは少女に背中を差し出す。

 だが――。


「えっ……イ、イヤよっ! アタシ、絶対、背負われたりしないから!」


「はっ? だけどおまえ、疲れ切ってて動けないだろ? セカンの街までかなりの距離があるぞ?」


「それでもイヤ! アタシ、自分で歩けるわ!」


「いや無理だって」


「無理じゃない! やってみないと分からないじゃない!」


「そりゃそうなんだが……」


 頑なに拒絶するアリーシャの様子に困っているケンジを見て、フィーが横から助け船を出した。


「どうしてそんなにイヤなの? 何か理由があるんでしょう?」

「それは……」


 口ごもったアリーシャは、傍に居るフィーに何やら耳打ちをした。


「その気持ちはすごく分かるけど。でも大丈夫だよ。ご主人様はきっと気にされないと思うから」


「でも……」


「ん? 俺、アリーシャが嫌がることを何かやっちまってたか?」


「いえ、その……ご主人様に背負われたら、身体が臭いのがバレるからイヤだって」

「ちょ、ちょっとフィーっ!」


「ごめんねアリーシャ。でも仲間にはちゃんとホウレンソウをしてほしいってお願いされてるの。ご主人様にはちゃんと伝えないと」


「ううっ、バカぁ……野菜が何だって言うのよぅ……」


 なぜ背負われたくないか、その理由がバラされてしまったアリーシャは顔を真っ赤に染めた。


「臭いって、でもそれは仕方の無いことだろ? 奴隷として扱われてたんだから」


「それは、そうだけど……」


「女の子だから気にするのは分かる。でも人間、誰だって塵芥ちりあくたに塗れて必死に生きてるんだ。


 臭いってのは一所懸命に生きたあかしだ。その証を笑ったり嫌がったりすることはしねーよ」


「……本当に?」


「ああ。約束する。それに臭さ勝負ならオッサンも負けねーぞ? オッサンには加齢臭っつー強烈デバフが存在するんだからな」


「加齢臭だけは自分ではどうにもならんからなぁ……」


「どれだけ丁寧に身体を洗っても溢れ出してくる加齢臭……まさにオッサンが持つ呪いのデバフだよね……」


「特に若い子たちにはキツイ匂いだろうけど……オッサンたちにはどうにもできないことだから大目に見てくれな……」


 匂いの話になってオッサンたちは一様に沈んだ表情を見せ、フィーは慌てたようにオッサンたちを励ました。


「大丈夫ですよ! ご主人様方のこと、臭いと思ったことありませんから!」


「それなら良かったよ……って訳で、匂いなんて気にすんな」


「……分かった」


 ケンジの言葉を聞いて観念したのか。

 それとも安心したのか。

 アリーシャは小さく頷くと、ケンジの背中に身を預けた。


「軽いなぁ。メシ、ちゃんと食ってなかったのか?」

「奴隷になってから、大したもの食べられてなかったし……」


「そうか……じゃあこれからは美味いメシをたらふく食わせてやるからな! だから腹一杯食べて早く元気になれよ!」


「……ん」


 アリーシャはケンジの首に手を回してしがみつきながら言葉少なく頷いた。


「よし。ホーセイ、準備は?」

「こっちはいつでも行けるよ」


 クレアを背負ったホーセイがケンジの問い掛けに答えを返す。

 全員の準備が整ったことを確認し、ケンジは号令を掛けた。


「それじゃリュー、先導を頼むわ」

「おう。任せとき」


「フィーは一番後ろ。背後の警戒と、もし戦闘になったときに二人の護衛を頼む」

「分かりました!」


「うっし、じゃあ準備も整ったところで出発だ!」



 アリーシャ・シルバーフォックスとクレア・サンボルト。

 新たに奴隷になった二人の少女を連れてオッサンたちは前に一歩踏み出した。


 目指すは隣国、セカンの街。

 共に行くのは仲間のオッサンと美少女三人。


 異世界に来たオッサンたちが夢見るスローライフへの物語。

 

 その第二幕が今、開かれた――。




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