第26話 オッサンたち、決着をつける

※注意

【25話】も同時更新していますので、未読の方はそちらからご覧下さい。



「今だ、フィー!」

「はいっ!」


 おっさんたちが戦っている間、【隠密ハイド】アビリティによって気配を消していたフィーがケンジの声に応えて【隠密】を解除した。


「アリーシャ! クレア!」


 親友の名を呼びながら二人に駆け寄ったフィーは声高らかに【スキル】と【アビリティ】を連続で発動する。


「【抗魔力防壁アンチ・マジック・シェル】! 【静寂空間サイレントルーム】!」


 【静寂空間】は外部からの音を完全にシャットアウトするユグドラシルファンタジー由来の汎用アビリティだ。


 そして『抗魔力防壁』はその名前が示す通り、魔法や魔力の干渉を防ぐ防壁を周囲に展開するスキルだ。


「よし! 次はホーセイの出番だぞ!」

「任せてよ!」


 騎士の攻撃を弾き飛ばしたホーセイが、大地に手を当ててユニークアビリティ【地形操作】を発動した。


 その瞬間、フィーの周囲に三メートルを超す石壁が生成された。


「なんだと!? いったいこれは何なのである!?」

「作戦成功や! これで人質を盾にされる心配は無くなったで!」


「まだ確定じゃないよ! 気を抜かないでね二人とも!」

「おうよ! さっさと敵をぶっ飛ばしてフィーたちを自由にしてやるぞ!」


「手加減抜きや! 全力で当たるでぇ!」

「ヘイトは僕が稼ぐ! ケンジたちはダメージを稼いで!」

「任せろ! それが俺の本領ってなあ!」


 後顧の憂いが無くなったおっさんたちは、勇ましい雄叫びを上げながら騎士たちに勝負を挑んだ。


 対する騎士たちはおっさんたちの気迫に圧されて一瞬反応が遅れる。

 その一瞬が騎士たちの命取りとなった。


「おっさんより反応が遅いのは良くねえぞ!」

「こちとら加齢で脳の処理速度が落ちてるんやで!」

「若者に比べてどうしても半テンポ遅れちゃうんだよねえ」


 騎士に肉薄したおっさんたちは持てる力を存分に発揮して騎士たちを圧倒する。


「【スラッシュ】!」

「【シールドバッシュ】!」

「【拘束する茨ソーン・バインド】!」


 おっさんたちはそれぞれが得意とする技を発動して的確に――そして強力に、敵である騎士たちにダメージを与えていく。


 それだけではない。


 【アーツ】を使わない純粋な接近戦においても騎士たちはおっさんたちに全く歯が立たず、ある者は剣を弾き飛ばされ、ある騎士は盾ごと地面に叩きつけられて次々に戦意を喪失していった。


「あー……なんか弱い者イジメしてるみたいで萎えるわ」


「相手はレベル30前後。ステータス的には30から40ぐらいやのに、オレらのステータスはレベル100で相対するボスとほぼ同じ、全ステータスが200越えや。バフ込みとは言え、大人と赤ちゃんぐらいのステータス差があるからな」


「さすがに可哀想過ぎて殺す気が無くなっちゃうね……」


「覚悟は決めていたけど……まぁ無駄に命を奪う必要がないってのは、それに越したことは無いからな」

「それもそうだね」


 騎士たちと戦っている間も雑談を交えることができるほど、おっさんたちには余裕があった。


 騎士たちが戦意を喪失する姿を見て従士たちが狼狽うろたえた声を上げた。


「おまえら、まだ俺らに勝てると思ってんのかーっ!」

「おまえらの上司はみんなぶちのめしたで。それでもまだオレらと戦おうって言うんなら、それ相応の覚悟を持って挑んできーや!」

「どこまでも相手をするよ」


 そういうとホーセイは剣で鉄の盾を叩いて従士たちを音で威圧した。


 少しの疲れも見せず騎士を圧倒したおっさんたちの姿を見せつけられて、従士たちは完全に戦意を喪失し、手にした武器を投げ捨てて降参の意を示した。


「よし! 降参するなら許してやるから、そこらに倒れ込んでる騎士さまを連れて広場の隅に行ってろ。ああ、そこのエロガキは置いていけよ!」


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」


 ケンジに指名されてジャックオは情けない悲鳴を上げた。


 従士たちはそんな主人を放置し、自分の上司である騎士たちに肩を貸してケンジに言われた通りに広場の隅へと移動した。


 おっさんたちの前には腰が抜けたようにヘナヘナと地面にへたり込むジャックオだけが残った。


「ひっ、ひぃぃ!? ちか、近付くな! ボクに近付くなぁ!」


 ジャックオは悲鳴を上げながら地面に尻を擦りつけるように後退する。

 怯えた表情を浮かべる若者を呆れた顔で見下ろしながら、おっさんたちはジャックオの処分について相談していた。


「で、こいつはどうするよ?」

「どうもこうも。フィーっちの友達をこいつから解放するためには、死んでもらわんとアカンのちゃう?」

「奴隷の首輪の契約を更新するためには主人の死が必要だって話だしね」


「他の手が思いつかん以上、どっちを取るかの天秤にかける必要は無いわな」

「そうか。なら覚悟を決めるか」

「……代わりに僕がやろうか?」

「いや。パーティーのリーダーは俺だ。だから俺が責任を持ってる」


 地面にへたり込んだジャックオを、ケンジは覚悟と決意を宿した瞳で真っ直ぐに見下ろした。


「人の命を。人の尊厳を好き勝手に踏みにじったんだ。その報いを受ける覚悟は出来てるよな?」


「ぼ、ぼぼぼボクは貴族である! アイウェオ王国の伯爵であるぞ! 平民如きをどう扱おうとボクの自由であるはずなのだ!」


「貴族だろうが平民だろうが自分のことを自由にできるのは自分自身だけだ。……と言っても、この世界の価値観じゃ理解できないか」

「な、何を言って――」


「自分の価値観を押しつけることになるのは重々承知してるが、だけどやっぱ見過ごせないんだわ。人を踏みつけ、踏みにじり、得意げな顔をして笑ってるやつってのは。だから俺はおまえを――」


「くっ、え、ええいっ! うるさいうるさいうるさいうるさいっ! 平民如きに伯爵であるこのボクがどうして説教されなければならないのである!」


 癇癪を起こすように叫んだジャックオが立ち上がって剣を抜いた。


「ボクには貴様らのような平民にかかずらっている暇はないのである! ボクはフィーラルシア王女を手に入れて性奴隷三人の処女を同時に戴く夢がある!」


 奇声を発したジャックオがケンジに襲いかかった。


「これから毎日、ボクは王女たちと愛に溢れるセックスをして幸せに過ごすのである! 貴様如き平民がボクの人生の楽しみの邪魔をするな、なのである!


 ボクが貴様なんぞギッタンギッタンのボッコボコにしてやるから、正々堂々、ボクと一騎打ちしろなのである! この手で成敗してやるのである!」


「全く……救いようの無い阿呆あほうだ」


 身勝手な願望を口にしながらジャックオはケンジに向かって剣を振り下ろした。

 その一撃は騎士のそれとは比べものにならないほど遅く弱々しい一撃だ。


 振り下ろされた一撃をケンジは受け止めることもせず、ただ身体を横にずらしただけで難なく避けた。


 そして――無表情に剣を振るうと、硬い何かが地面に落ちる鈍い音が響いた。


「はぁ~……」

「お疲れケンジ。大丈夫?」


「まぁな。なんつーか……ちょっと虚しくなったよ」

「最後まで欲望に塗れすぎてて気持ち悪い、なんちゅーか……馬鹿ばかなやつやったなぁ」


「最低過ぎて言葉も出ねーわ」

「オレも同じ気持ちや。でも切り替えて行こうや」


 肩を落とすケンジの背中を叩いて励ましたリューが、事態の推移を見守っていた騎士たちに向かって声を張り上げた。


「あんたらのご主人はケンジに一騎打ちを挑んで負けた。それはあんたらも今、その目で見てた通りや。それでも主人の仇が討ちたいんなら、オレらはいつでも相手になってやるで! かかってこいや!」


 リューの挑発とも取れる言葉を聞いいて、従士に支えられている騎士の中から年配の男が前に進み出た。


「いや……貴族が自らの意志で一騎打ちを望み、負けて死を迎えたのだ。家臣である我らには何も言う権利がない。だが……だが主人の遺体を持ち帰ることは許して欲しい。主人を丁重に葬ってやりたいのだ」


「構わんよ。オレらも遺体に無礼なことをしようとは思っとらん」

「……恩に着る」

「主人を殺したやつに恩を感じる必要なんざこれっぽっちもないやろ」


 騎士の発言に吐き捨てるように言葉を返すとリューは騎士に背中を向けた。


「ほんま胸くそ悪い……」

「なにがだよ?」


かたきを討つ訳でもない。主人のやっとることをただそうともせん。そのくせ遺体は持ち帰って丁重に葬りたいとか忠義面しよる。なんやねんそれ……! そないなことするよりも先にやらんとアカンことがあったんとちゃうんかい」


「主人の言いなりになっておいて忠義面するのが気に食わんってことか」

諫言かんげんせーよ。いさめろよ。てめぇらの主人やろがい……!」


「……そういう人たちはどこにでも居るよ。会社にも居たでしょ? 問題点が見えているのにも関わらず、何も言わず、何も行動を起こさず、そのくせ問題が発生したときにはやたらと騒いで初めから知ってたってツラするやつら。正直、今更だよ」


 そう言うとホーセイは励ますようにリューの肩を叩いた。


「そうかもしれんけど、ちょっとやりきれんわ」

「そうだな……。お互い切り替えて行こうぜ」

「はぁ……せやな」


 大きな深呼吸を一つしたあと、リューはいつも通りの表情に戻した。

 それが強がりであることをおっさんたちは重々承知している。


 そんなに簡単に割り切れるものでもない。

 無理をしているのだ。


 だがそれでも強がるしかないことも、おっさんたちは経験上、良く知っていた。


 過去を振り返らずに前を向くフリをしていなければ、現実に負けて足が止まってしまう――そんな経験があった。


 そんな自分を。

 そんな誰かを。

 今まで見てきたから分かるのだ。


 だからおっさんたちはそれ以上感慨に浸ることなく、ともすれば落ち込んでしまう心を無理やりにでも切り替えた。


「それよりフィーたちを出してやろうぜ」

「フィーっちの友達の奴隷契約もさっさと更新したらんとな」

「了解。じゃあ石壁を消すね」


 ホーセイはフィーたちが立てこもる石壁に触れると、ユニークアビリティ【地形操作】を使って生成された石壁を消滅させた。


 すると親友たちを守るように抱きかかえていたフィーが姿を見せた。


「フィー! 待たせたな。全部終わったぞ!」

「お友達の二人は無事?」


「リュー。新しい服か何か無いか。さすがにこのままじゃ可哀想だ」

「おっと、気が利かんでゴメンやで。これで身体を隠したらエエわ」


 少女たちに謝罪の言葉を告げながら、リューはインベントリからシーツを取り出して二人の肩に掛けた。


「ご主人様……ご無事で良かった……!」

「おう。作戦成功だ。お友達たちは大丈夫だったか?」


「はい! 【静寂空間サイレントルーム】のお陰でしょうか。首輪が締まることもなかったです」


「そりゃ良かった」

「安心するのはまだ早いで」


「この二人は今、奴隷契約が解除されて逃亡奴隷と同じ状況なんだよね。だったらこれからどうするかは早めに決めないと」


「どうするって……どうするんだよ?」


「うーん、解放するにはたくさんのお金が掛かるけど、そんなお金は今の僕たちには用意できないし。できることは一つしか無いね」


「なんだ? 一つあるのかよ。どうするつもりだ?」

「その前に確認やねんけど、フィーっちのことは二人に話したん?」


「はい。壁の中に籠もっている間に、私の身に起きた出来事については一通り話しておきました。ご主人様方のこともそのときに。……ダメでしたか?」


「いや手間が省けて助かるわ。ありがとうな、フィーっち」


 そういうとリューはシーツを羽織った少女たちの前に膝をついた。


「君らの主人やった貴族はもう居らん。つまり君らの奴隷契約は解除されて主人が誰もおらん状態や。


 おっさんたちは君らを助けてやりたいんやけど先立つものが無くてな。奴隷の身分から解放することはできへん。


 そこで二人に提案なんやけど……オレらが君らの新しいご主人様になることを受け入れてくれるか?」


 リューの説明を信じて良いものか、と奴隷の少女たちは顔を見合わせた。

 そんな二人の様子を見て、フィーは友達を安心させるように太鼓判を押した。


「大丈夫だよ。おじさまたちは皆さんとっても親切にしてくれて……誰よりも優しいご主人様だから」


「……本当に大丈夫なの?」

「ええ、もちろん」


「本当かなぁ……フィーって何でも受け入れちゃうし……」

「そんなことありませんよ。フィーさんがそう言うならきっと安心なのでしょう。わたくしは提案を受け入れますわ」


「クレア、あんた本気? まだ会ったばかりの見知らぬおっさんどもよ?」

「それはそうですけど、でもフィーさんは信頼しているみたいですし……きっと大丈夫だと信じていますわ」


「その判断はちょっとお気楽過ぎじゃない?」

「ふふっ、そうかもしれませんね」

「アタシは、うーん……」


 友人の判断に不服そうに唸りながら、アリーシャと呼ばれていた少女はおっさんたちを値踏みするように見つめた。


(なんやこのアリーシャって子。性格キッツイなぁ)

(今までの境遇もあるんだし疑り深いのは当然じゃない?)

いにしえのツンデレとでも思っておけば腹も立たんだろ)


(いや腹立ってる訳やないで。これから上手いことやっていけるんか心配になってもーただけや)


(それこそ大丈夫だろ。だってフィーの友達なんだぜ? 良い子に決まってる)

(ケンジの信じ方もおっさんとしてどうかと思うけどね)


(そうかぁ?)

(この主人にしてフィーっちあり、やな)

(あははっ、確かに二人は似てるかも)


 アリーシャの値踏みの視線に晒されながら、おっさんたちはコソコソと小声で話し合っていた。


 するとアリーシャがその形の良い眉根を跳ね上げた。


「ちょっと。何をブツブツ言ってんのよ? はっ!? もしかしてアタシたち三人を奴隷商人に売り飛ばす算段でも付けてるんでしょう!」


「いやいやしてへんしてへん、そんな話する訳ないやんけ!」

「俺らが家族を奴隷商人に売り飛ばしたりするはず無いっての!」

「フィーちゃんは僕たちの大切な仲間だからね。その親友ならフィーちゃんと同じように僕たちの仲間だよ」


「……本当かしら」


 疑り深い目でおっさんたちを睨み付けるアリーシャに、フィーが悲しげな声で問い掛ける。


「アリーシャ、おじさまたちは良い人だよ。どうしてそんなに疑うの……?」

「うっ……」


 涙で瞳を潤ませるフィーの表情を見て、アリーシャが狼狽えた声を漏らす。

 そして――。


「わ、悪かったわよ。あんたのことを信じてない訳じゃないんだけど、アタシもクレアも旅の途中で色々あったから、つい……」


「そういうことなら仕方ねーな」

「せやな。自分の身を守ることなんやし」

「おっさんたちのこと、好きなだけ値踏みしていいからね」

「おうよ。どんと来い!」


 アリーシャの過去を聞いたおっさんたちはクルッと掌を返してアリーシャの値踏みを受け入れた。


 そんなおっさんたちの態度にアリーシャは思わず噴き出した。


「アハッ、変なおっさんども……。良いわ。アタシもフィーのことを信じる」

「ありがとう、アリーシャ……!」


 喜びを爆発させたフィーがアリーシャに抱きついた。

 だがアリーシャはそんなフィーを押しのけた。


「ちょ、やめて。アンタまで汚れちゃうでしょうが!」

「そんなの気にしないよ!」


「アタシが気にするの、ちょ、こら、もう離れなさいよ!」

「いーや!」


「ふふっ、何だか懐かしいですね、お二人のやりとりを見るのも」

「だって一年ぶりなんだもん!」

「ああ、もう……相変わらず甘えん坊なんだから……」


 フィーを引き剥がそうと四苦八苦していたアリーシャは、何をやっても離れそうにないフィーの様子に諦めたように溜息をついた。


「で、誰がアタシたちの新しいご主人様になるのかしら?」

「それな。誰がなるんだよ?」


「誰って……なぁホーセイ」

「うん。ケンジしか居ないよね」

「ハァッ!? また俺かよっ!?」


「そらまあフィーっちのご主人様やし?」

「一人に集約させたほうが管理の効率も上がるしね」

「管理って仕事かよ!」


「ハハハッ、まぁ管理っていうのは冗談だけど、色々と効率が良いのはケンジだって分かってるでしょ?」

「そりゃまぁそうだが……」


「船頭の多いゲーム制作はクソゲーを生み出す土壌ってな。大人数で生活するには誰か一人、柱となるリーダーを据えて指揮系統を統一しとかんと。絶対グダるで」


「はぁ~……分かったよ。新しいご主人様に俺はなる! あ、だけど奴隷として扱う気はねーぞ? おっさんたちの助手みたいな気持ちで居てくれれば良いからな!」


「もう何でも良いわよ」

「ふふっ、よろしくお願い致しますわ、新しいご主人様」


「お互いに挨拶を交わしたところで、ほな早速、新規契約といこか」

「ケンジ、早く血を出してよ」

「血を出してって、そんな簡単に言うなよ、怖いなぁ」


 仲間たちに不満を零しながらケンジは短刀で指に傷を付けた。


「痛ぇぇぇぇぇぇっ! 加減間違えたぁぁぁぁぁ!」

「あーあ、噴水みたいに血が噴き出しちゃった」

「ステータス上がってるのを忘れてたんやろ。まぁ二人分やしちょうどエエやん」


「おまえらなぁ。少しは心配しろよなぁ……」

「そういうのエエから、さっさと二人の首輪に血ぃ塗りい」

「へいへい」


 仲間たちの冷たい反応にぼやきながら、ケンジは少女たちの首輪に自分の血を塗りつけた。


「これで良いか? あとはフィーに任せるぞ?」

「はい。あとは私が……!」


 ケンジの求めに応じてフィーは契約更新の詠唱を始めた。

 その詠唱が終わる頃には首輪はケンジの血を吸収されていた。


「終わりました、ご主人様!」


 詠唱を終えたフィーがにこやかな顔でケンジに近付く。

 その頭を優しく撫でて感謝を伝えたあと、ケンジは蹲っている少女たちに手を差し伸べた。


「今日から俺がおまえたちの主人だ。とは言ってもそれはただの建前だ。これからは俺たちの仲間として気楽に接してくれよ」


「仲間? ふーん……異世界の人って変な考え方をするのね」

「でも素敵な考え方ですわ」


「だろ? こう見えておっさんたちは紳士だからな」


「フツー、そういうことは自分で言わないんじゃない?」


「自分の良さを積極的にアピールしていくことにしてんだよ。でないとおっさんの良いところなんて誰にも気付いて貰えないからな」


「あっそ。まぁ良いわ。よろしくしてあげる」

「ふふっ、よろしくお願いします、ご主人様」


 そういうと二人は思い思いに頭を下げた。


「よし。契約の更新もしたし、さっさと動くか」

「動くってどこに? 拠点に戻るんじゃないの?」


「いや、それは避けたほうがエエやろ。なんせオレらは貴族に手を出してしもうとるしな。スタッドの街の周辺やと活動しづらくなると思うわ」


「俺たちには目的がある。フィーをノースライド王国に連れて行くって約束がな」

「じゃあ目指すは――」

「北だ!」


 言いながら、ケンジは空を指差した。


「そっちは南だけどね」

「ぐっ……方向音痴なんだからしょーがねえだろ」


「格好つかんなぁ。ま、北に向かうのはエエとして、ひとまず『獣の森』を抜けた先にあるセカンの街に向かおうや」

「でも二人は大丈夫かな? どう? 動ける?」


「体力は落ちてるけど、ちゃんと付いていくわよ」

「できるだけ頑張りますわ」


「うーん……あまり大丈夫じゃなさそうだね。ケンジ、僕たち二人で背負ってあげたほうが良くない?」

「そうしよう。フィー、体力向上のバフを掛けてくれるか?」


「はい!」


 ケンジの指示を受けてフィーがスキルを使用した。

 魔法を使うフィーの姿を見て少女たちが目を丸くする。


「え……フィー、そんな魔法、いつ覚えたのっ!?」

「わたくしと同じで魔法が苦手だったはずですのに」


「えへへ、ご主人様たちのお陰なの。きっとアリーシャたちも私と同じように、これからたくさんの魔法を覚えることになると思うよ」


「おう。二人とも落ち着いたらパーティーの一員として働いてもらうから、そのつもりで居てくれ」


 そういうとケンジはアリーシャを、ホーセイはクレアを背負って歩き出した。


「さあ新しい冒険の始まりやで!」

「みんなで力を合わせてノースライドまで行こうね」

TOLIVESトゥライブス、新天地に向けて出発だーっ!」

「おーっ!」


 ケンジの宣言にフィーは片手を空に突き上げて応えた。




 新たな仲間と共におっさんたちは歩みを進める。

 行く先はフィーの生まれ故郷、北方の王国ノースライドだ。


 だがこのフォルスエデンの世界は、創世の女神アイコニアにしてベリーハードな世界と言う。

 ノースライドに向かうまでの旅路は決して安心できるものではないだろう。


 モンスターとの戦いがある。

 野盗たちに襲われることもあるだろう。

 だけどおっさんたちの心は弾んでいた。


 新しい景色を楽しみ、新しい人々と出会い、新しい出来事を経験できる。

 新しい何かを夢見て、おっさんたちは一歩、前に足を動かした――。



 異世界に来たオッサンたちはスローライフの夢を見る。


 その夢に向かうおっさんたちの物語が今、始まる――。


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