第24話 オッサンたち、無双する

 広場には四十人ほどの男たちが完全武装で集まっていた。


 騎士に従士。

 そしてスタッドの街に所属する冒険者たちが、ノースライド王国の元王女フィーラルシアを手に入れようと下卑た笑みを浮かべながら得物の柄に手を掛けていた。


 そんな集団の中から二人の男が姿を見せた。

 一人はスキンヘッドで、もう一人は短髪の厳つい容貌を持つ男。


 『狼帝ろうていけん』の二人だ。


 男たちは手に鎖を持ち、何かを引っ張るように前に進む。

 ジャラリッと金属の擦れる重い音が周囲に響く。

 その鎖は奴隷の首輪に繋がれていた。


 鎖に引かれて集団の中から二人の少女が姿を見せた。

 下着は丸見えで乳房を放り出した扇情的な服を着た少女の登場に、周囲に立っている男たちが下卑た歓声をあげる。


 下卑た歓声の中、少女たちは家畜のように鎖に引かれて前に引き出された。


「おらぁ!」

「そこにひざまづくんだよぉ!」


 鎖を引く男たちは少女たちを蹴り倒すと、獰猛な笑みを浮かべながら洞窟の入り口に向かって大声を張り上げた。


「おい、おっさんども聞こえるか! 今すぐ、フィーラルシアって女を連れて出てこいよ!」

「でないとこの女どもの命がどうなるか。分かってんだろうなおっさん!」


 地面に倒れ込んだ少女たちの頭を踏みつけながら、獰猛な笑みを浮かべた男たちが言葉を続ける。


「あのときの借り、百倍にして返してやる! さっさと出てこい! 女以外、全員ぶっ殺してやるからよぉ!」

「それともビビッて出てこられねーのか? くそダセェな! おっさんども!」


 歯茎を剥き出しにして声を荒げる『狼帝の剣』の二人。

 そんな二人の声に応えるように洞窟からおっさんたちが姿を現した。


「ワイワイうるさく騒がんでもすぐに出て来たるっちゅーねん」

「メンタルがお子様だから大人しく待つってことができないんだよ。ほら、子供も待つのが苦手でしょ?」

「図体ばかりデカくなっただけのガキの相手なんざ願い下げなんだがな」


 脅しの言葉に何ら感慨も抱いた様子を見せず、おっさんたちが面倒臭そうに『狼帝の剣』を睨み付けた。


「どうやらお仕置きが足らなかったらしい」

「おっさんごときにやられてもうたから、今までイキってたのが恥ずかしくなって街から尻尾を巻いて逃げ出した、って聞いてたんやけどなぁ」


「どうやら恥ずかしげもなく戻ってきたみたいだね。いや、そもそも恥の概念を持ち合わせてないんじゃない?」


「うるせぇ! 俺たちは逃げ出した訳じゃねえ! おっさんどもをぶっ飛ばす機会を窺っていただけだ!」

「覚悟しろよおっさんども! オレらのバックには貴族がついてんだからな!」


「なんだぁ? 喧嘩に負けたからって次は権威にすがろうってか」

「先生に言いつけてやったで! とでも言いたいんやろか」

「うわぁ、チンコだけじゃなくて器もちっちゃいんだねえ」

「ケツの穴も小さそうだ」


 『狼帝の剣』の脅し文句に何ら感慨を抱いた様子も見せないおっさんたち。

 そんなおっさんたちの背後からフィーが飛び出した。


「アリーシャ! クレア!」


 『狼帝の剣』に踏みつけられる親友の姿を見て、フィーは苦しげな声を上げる。


「フィー……! あなたはすぐに逃げなさい……っ!」

「わたくしたちのことは捨て置いて良いですから! 早く逃げてください!」

「そんなことできるわけないよっ!」


 友の身を案じ、フィーは声を張り上げた。

 するといきり立つ男たちの後ろから、でっぷりと肥え太った身なりの良い貴族の若者が姿を見せた。


 歳の頃は二十五、六歳といったところだろうか。

 人目で分かるほど質の良い衣服に身を包んだ若者は、男が見ても気持ち悪いと思ってしまうほど下卑た微笑を浮かべながら口を開いた。


「おおっ、フィーラルシア王女! 探したのであるぞ!」


 ねっとりと肌に纏わり付くような声に怖気付いたのか、フィーは小さな悲鳴を漏らして後退あとじさった。

 そんなフィーを守るため、おっさんたちは一歩前に出る。


 すると貴族の若者は敵意を燃やした目を憎々しげにケンジたちに向けた。


「おい、そこの平民のオッサンども! ボクの大切なオンナに触れるんじゃないである! その女はボクの性奴隷としてこれからたっぷり可愛がってやるのであるぞ! 平民が触れて汚すんじゃないのである!」


 歯茎を剥き出しにして醜い顔を浮かべた貴族が、中途半端にハゲ散らかした髪を掻きむしりながらおっさんたちに罵倒を浴びせた。

 そして掌を返すようにフィーに猫撫で声で話しかける。


「フィーラルシア王女はさっさとボクの下に来るのである。

 これから毎日毎晩、ボクがじっくり可愛がってあげるから感謝してボクに仕えるのである。


 それが性奴隷としてボクに売られた元王女の役目なのであるからな!」


 貴族は地に這いつくばらされた二人の少女に近付くと、汚れきった髪を掴んで顔を上げさせた。


「でなければこいつらがどうなるかもちろん分かっているであろう? グフフッ……首輪よ締まれ!」


 下衆な笑い声を漏らしながらジャックオが宣言すると、


「ひぐぅ!?」

「くはっ!?」


 その言葉に反応して少女たち細首を奴隷の首輪がギリギリと締め付けた。


「ああ、ああ、可哀想に! 首輪が締まって息ができないのであるぞ? グフフッ、これは全てフィーラルシア王女のせいであるなぁ~」


 ニタニタと笑った貴族は、囁くように首輪を緩めるように命令を出した。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

「ゴホッ、ゴフッ、ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ……!」


 苦しげに涎を垂らしながら少女たちは新鮮な空気を求めて喘ぐ。

 そんな二人を見て満足げに笑った貴族の若者は、フィーに向かっていやらしい顔を向けた。


「さぁ、フィーラルシア王女。この性奴隷たちをこれ以上苦しませたくなかったら、さっさとボクのところに来るのである」


 唇をつり上げた醜悪な微笑。

 貴族の下卑た顔にフィーは悔しげな呻きを漏らしながら前に出ようとする。


 だが、そんなフィーを庇うようにおっさんたちは更に一歩、前に出た。


「金持ったエロボケのガキってのは醜悪過ぎて見てられへんわ」

「性欲のことしか頭にない男ってほんとキモイよね」


「ウチの可愛いフィーをテメェみてーなエロガキに渡すかよ。こいつは俺たちの大切な仲間なんだよ!」

「そうやそうや!」

「仲間を売るようなこと、僕たちは絶対にしないよ」


「皆様……っ」


「フンッ! 平民のくせに生意気なことを言うのである! そもそもフィーラルシア王女の身柄はアイウェオ王国伯爵であるこのボクが正式な手続きを踏んで奴隷商から購入したものである! 


 つまり王女の所有権はボクにあるのである!

 これはアイウェオ王国の法令に則った正当な権利なのである!

 その正当な所有権に対して平民如きが異を唱えようとは、はなはだ不愉快であるのだな!」


 ジャックオ・ドスケイブ伯爵は不快そうに鼻を鳴らすと、足を踏みならして自分の正当性をがなり立てた。


「正統な所有権、ね。もし人間に対して所有権なんてものがあるのなら、その持ち主は間違いなく自分自身だ! 金でどうこうできるものじゃねーんだよ!」


「ルールは確かに守らなアカン。せやけどルールを守って誰かが不幸になるのなら、そんなルールはクソッ食らえや!」


「それに知ってるかい? 権力の不当な行使に対して市民には革命権が存在することを。おまえが正当な権利を主張するのなら僕たちも正当な権利を行使するだけだ。つまりおまえを殺して革命完了! ってことだよ」


「うはっ、ヘリクツここに極まれりだな」

「異世界で革命権とかわろてまうわ。そんな言葉、社会の授業で聞いたっきりやで」


「権利だ資格だ義務だって声高に言うやつ、嫌いなんだよね。この貴族のボンボンを見てると会社の二代目のクソボンボンを思い出して腹が立つんだ」


「とんだ八つ当たりやな」

「それもまたヨシ!」

「エエんかい!」


「フィーを守ることができるのなら何だって良いさ。見知らぬ誰かの都合よりも、近くの仲間の安全のほうが大切だ。違うか?」


「ぐぅの音も出ないほどの正論や。まったくその通りやで」

「うん。さすがケンジだね。良いこと言う!」

「――と、言う訳だ」


 言いながら、おっさんたちは腰にいた剣を抜き放った。


「ぐぬぬ……な、ならばお望み通り、貴様らおっさんどもを皆殺しにしてやるのである! 冒険者ども! さっさとおっさんどもを殺すのである! おっさんを殺した者には金貨二十枚をくれてやるのであるぞ!」


「うおおおおおおおおーーーーーーっ!」


 貴族の宣言に冒険者たちが一斉に雄叫びを上げた。


「まったくバカどもが」

「金に目が眩んでバカなことをするやつが居るのは、この異世界でも変わらんみたいやなぁ」


「若い子だと特に目先のお金に飛びついちゃうしね。ここに来てる冒険者は若い子が多いみたいだし」

「みんなお金無いんやろな。気持ちはよー分かるわ」


「分かるが、やられてやるつもりはねえよ。しっかり痛い目に合わせてやる」

「二度と同じ過ちを繰り替えさんようにしてやるのもおっさんの役目やからな」


「できるだけ怪我させないようにね。特にケンジ」

「できるだけな! できるだけ! 保証はできねえ! したくねえ!」


「ほな戦闘開始や。各自作戦通りに、やで!」

「鍵はフィーちゃんが握ってる。がんばってフィーちゃん!」

「何かあったらすぐに俺たちを呼べよ! 何があっても駆けつけるからな!」


「はいっ!」


 おっさんたちの激励にフィーは決意の籠もった声を返した。


「てめぇらにそんな暇があると思うなよ!」

「オレたちを前にして好き勝手言いやがって! ナメてんじゃねーぞコラァ!」


「相変わらず語彙ごいが少ないのぉ。御託ごたくはエエから掛かってこいや」

「野郎! ぶっ殺してやる!」


 リューの挑発に乗ったスキンヘッドの声が合図となって、冒険者たちが一斉におっさんたちに襲いかかってきた。


 武器を持って駆け寄ってくる冒険者たちを睨み付けながら、おっさんたちも臨戦態勢を整える。


「やるぞ、てめぇら気合い入れていけよ!」

「ケンジこそ」

「こいつらさっさとぶっ飛ばして本命に集中や!」

「おうよ! 戦闘開始だぁ!」


 ケンジが雄叫びを上げると共にユニークアビリティ【指揮】が発動し、仲間たちに強力なバフが掛かる。


「うわっ! すごいねこれっ! 身体の奥から力が溢れ出してくるよ!」


「【分析】で見るとステータスが五割増しになっとるわ」

「そんなに? もしかして僕たち人間辞めちゃってない?」


「全ステータス二百越えは異世界に来る前に戦ってたデウス・マキナに近いで」

「俺らがラスボスってか! 景気良いじゃねーか! 派手にやろうぜ!」


 ケンジの声がスタートの合図だ。

 タンクを務めるホーセイが最前線へと飛び出すと同時に、タンク専用『アーツ』を繰り出す。


「『戦士の雄叫びウォーリアーハウル』!」


 戦場に響くホーセイの雄々おおしい咆哮。

 その咆哮を耳にした冒険者たちが、何かに引き寄せられるようにホーセイに向かってくる。


「な、なんだぁ!?」

「身体が、勝手に……っ! おっさんのほうに引き寄せられる!?」


「タンクが使う『戦士の雄叫び』は、一定の範囲内に居る敵の注意を一定時間引きつける【アーツ】だよ。これで君たちは僕のことを無視できない。例えどれだけ他の人に攻撃されようともね! ケンジ!」


「応よ!」


 ホーセイの呼びかけに応えたケンジが、群がる冒険者たちの中をスイスイと泳ぐようにすり抜けながら、


「【フレンジー】!」


 音声認識によって【アーツ】を発動させた。


 フレンジーは一度の攻撃で三度の斬撃を放つアーツだ。

 強制的にホーセイに意識を向けさせられている冒険者たちは、無防備になった脇腹に繰り出された攻撃を避けることができずに大怪我を負った。


「ううっ……なんでおっさんの攻撃が防げないんだ……!?」

「くそっ、なんだよこれ!? いったいどうなってんだよ!?」


 ある者は切り裂かれた脇腹を押さえ、ある者は血が噴き出した腕を抱えてうずくまり手にした武器を取り落とす。


「金に目が眩んでおっさんに喧嘩を売るからそうなるんだよ。今日は見逃してやる。これに懲りたら実力差をしっかり見極めてから依頼を受けるようにしろ」

「ううっ、悪かったよ、くそっ……っ」


 怪我を負って戦意を喪失した若い冒険者たちは、互いに互いを庇いながら広場から後退した。


 だが森から立ち去っていく若い冒険者たちとは対象的に、獰猛な雄叫びを上げながらホーセイに攻撃を繰り出す若者がいた。

 『狼帝の剣』の二人だ。


 二人はホーセイのアーツの影響を受けながらホーセイを叩きのめそうと滅多矢鱈めったやたらに攻撃を繰り出す。


 だがその攻撃はホーセイの身体には届くことはなかった。


「力任せに攻撃してきたって僕の防御は抜けないよ」


 敵の攻撃を見極め、見切り、ホーセイは冷静に盾で受け流す。


「ちくしょう! なんでだ! どうしてオレたちの一撃を受けて倒れないんだ!?」

「オレたちはスタッド最強のCランクパーティー『狼帝の剣」なんだぞ!?」


「オークやジャイアントボアだって速攻で討伐できるオレたちが、どうしておっさんの防御を抜けないんだよぉ!」

「クソッ! 死ね! 死ね! 倒れろよおっさんぅぅぅぅぅぅ!」


 悲痛な声を上げながらホーセイに攻撃を浴びせる『狼帝の剣』。


 だがホーセイが構える盾は少しも揺るがず、時に受け流し、時に弾き飛ばしてその場を動くことはなかった。


 その姿はまさに何人の侵入も許さない不落の要塞だ。

 大地に根が生えたように一歩も動かないホーセイの下に、他の冒険者たちを一掃したケンジが駆け寄る。


「待たせたなホーセイ!」

「タイミング合わせて、ケンジ!」

「応よ!」

「【シールドバッシュ】!」


 狼帝の剣の攻撃を盾で受け止めたホーセイがアーツを発動した。


 ホーセイの持つ盾が光を放つと同時に衝撃波が発生し、狼帝の剣が振り下ろした剣を大きく弾いた。


「うわぁぁ!?」

「なんだとぉ!?」


 ホーセイの盾から発生した衝撃波をモロに食らった狼帝の剣が、上半身を大きく仰け反らせる。

 その隙を見逃すおっさんたちではなかった。


「【ソードライジング】!」

「【ソードライジング】!」


 ケンジとホーセイ、二人の声が広場に響く。

 それと同時に光を帯びた剣の軌跡が狼帝の剣の上半身を捉えた。


 ドンッと鈍い衝撃波の音とほぼ同時に、若者たちの巨体が宙に浮く。

 そして――。


「【バーストインパクト】!」

「【バーストインパクト】!」


 空中に浮かんだ若者たちに向かってケンジたちは同じアーツを発動した。

 剣は真円の軌跡を描き、空中に浮かんだ狼帝の剣の腹部を捉える。


 その瞬間、爆発するような衝撃波が発生して空中に浮かぶ男たちの身体は大地に叩きつけられた。


「ゴフッ!」

「グボッ!」


 全身を強打した狼帝の剣は苦悶の呻きを漏らすと白目を剥いて気絶する。


「ふぃー、あぶねえあぶねえ。全力で叩きつけるところだったぜ」

「ケンジ、うまく手加減ができたみたいだね」


「いくらテンションが上がると見境いなくなるからと言って、俺だって人が真っ二つになって血を撒き散らすところなんてみたくねーしな」


「僕たちとこの子たちじゃ、ステータスに差がありすぎて簡単に一刀両断できちゃうもんねえ。ケンジに常識があって良かったよ」


「失礼な。俺ほどの常識人はそうそういないぞ?」

「あははっ、面白いジョークだね。腹筋崩壊しちゃうよ。それよりリューは?」


「リューならあっちで騎士たちを相手にしてる」

「じゃあ僕たちも合流しよう」

「おう!」




 ケンジたちが冒険者たちと戦っているタイミングで、リューは貴族の若者――ジャックオ・ドスケイブ伯爵が率いる騎士たちの前に立ち塞がっていた。


「さぁて。オレらの大切な仲間フィーっちを悲しませるやつらにゃ、それ相応のオシオキをしたらんとなぁ!」


「フン、たった一人で何ができると言うのだ! やってしまえおまえたち!」

「ハッ!」


 ジャックオに命じられた騎士たちが剣を抜き連ねながらリューに接近する。


「あいにくオレはケンジたちと違って肉弾戦は好きやないねん。そんな訳やから遠くから卑怯にチクチクやらせてもらうでぇ!」


 迫り来る騎士を睥睨して全員を視界に収めたリューが声高にスキル名を唱えた。


「【拘束する茨ソーン・バインド】!」


 リューの声に反応するように地面から魔法で生成された茨が出現した。

 その茨はリューの指示に従って騎士たちの両足を拘束する。


「な、なんだこれは!?」

「魔法だとっ!? 魔法が使えるなんて聞いてないぞ! 剣士のおっさん三人組って話じゃなかったのか!? 先行していた偵察班は何をやってたんだっ!?」


「それは移動を阻害するついでにスリップダメージを与える、支援職では定番の初級スキルや。おまえらの生命力、じわじわ削り取ったんでえ!」


「くそっ、卑怯だぞ!」

「だからちゃんと言うたやん。卑怯にチクチクやらせてもらうって。という訳で状態異常のお替わりをプレゼントや。【毒の霧ポイズンミスト】」


 リューが発動地点を指定してスキルを発動すると、その地点を中心に紫色をした濃霧が発生して騎士たちを包み込んだ。


「ぐわぁ!」


 【茨の棘】が足に絡んで移動することもできず、騎士たちは【毒の霧】の中で苦しげに藻掻もがく。


 しかし藻掻けば藻掻くほど息が荒くなり、体内に毒の侵入を許すことになる。


「くっ……負けるかぁ!」


 一部の騎士が雄叫びをあげて茨の棘を力任せに引き千切ると、リューに向かって突進してきた。


 厳しい訓練を乗り越えて鍛え抜かれた足腰の力を存分に発揮し、騎士はリューに肉薄する。


 ギラギラと凶悪に輝く鋭い大剣をリューの頭に振り下ろそうとしたその時――。


「スイッチや!」


 騎士が振り下ろす剣を冷静に見つめていたリューが、最小の動きで一撃を交わして後ろに飛び退いた。


「任せろ!」

「リューは支援をお願い」


 冒険者を退けて合流したケンジとホーセイがリューに代わって前に飛び出す。


「なにっ!?」

「本命のご登場ってな! 剣士同士、ガチンコ勝負と行こうぜ!」


「馬鹿にするなよ! 正々堂々の勝負なら貴様ら如きに……っ!」

「そっちこそおっさんの底力をナメんじゃねーぞぉ!」


 力任せに押し出してくる騎士の剣を同じように力任せで押し返すと、ケンジは鋭い蹴りを放った。


「ゴフッ!」


 鎧の上から腹部にヒットしたケンジの蹴りは、騎士を広場の縁まで一気に吹き飛ばした。


「うはっ! すごいやんケンジ!」

「これでも蹴りで腹が破裂しないように手加減してるんだけどな」


「やっぱステータス差は正義やな。圧倒的やないかオレら」

「慢心してる場合じゃないよ! こいつら全員、さっさと押し返さないと!」

「おっと、そうやった!」

「前に押し出すぞ!」


 ホーセイの叱咤を受けてケンジとリューが盾を構えて前に出た。

 タンクのホーセイが挑発して周囲の敵を集め、ケンジが攻撃を繰り出してダメージを与えていく。


 それでも敵は三十人も居るのだ。

 どれほどステータス差があろうと一斉に襲いかかられると手こずるのは明白。

 それをコントロールするのがリューの支援スキルだ。


「【泥沼マッド・スワンプ】!」


 リューが使用した【スキル】は、対象の周囲五メートルの大地を粘度の高い泥の沼に変化させるアーツだ。


 泥の沼に足を取られた従士たちは移動できずに藻掻く。

 その間にケンジとホーセイは騎士たちを力任せに押し返した。


「ええい! たかが平民のおっさん相手に何をやっておるのであるか! 貴様ら、もっと真剣にやるのである!」

「し、しかしジャックオ様! こやつら、かなりの実力です……!」

「うるさいうるさいうるさい! 早くなんとかするのである!」


 子供が癇癪を起こすように手足をジタバタさせながら、ジャックオは配下の騎士たちに無茶振りする。

 その無茶振りに困惑した騎士たちが一瞬、動きを止めた――。



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