第23話 オッサンたち、敵と対峙する
次の日から
二手に分かれて森の中で派手にレベリングしつつ、できるだけ多くの冒険者にその姿を発見させることにしたのだ。
ドスケイブ伯爵の依頼を知っているであろう冒険者たちは、おっさんたちの姿を見れば必ずや拠点を探し出そうとするはず――それがリューの見立てであり、作戦の骨子だ。
森の中で派手に動いたあと、おっさんたちは拠点へと戻る。
その後ろに冒険者の尾行があるのは承知の上で、だ。
そうやって姿をさらすことで、ドスケイブ伯爵の手勢を拠点前の広場におびきだそうというのだ。
「大人数を相手に森の中でゲリラ戦、ってのも考えたんやけど、そもそも森の中での大乱戦なんて経験の無いオレらには無理な話や。
せやからここはステータス差でゴリ押す戦法が最適やと思う」
「僕たちのステータス、ちょっとおかしい数値になってるもんね」
フォルスエデンの全ての生命はこの七つのステータスが設定されている。
生命の強さの基準だ。
街の中でリューが【分析】して判明したこの世界のステータス平均値は、生命力、魔法力を除くと一般人や新人冒険者で一項目につき10から20。
中堅冒険者なら30から40。
経験を積み、レベルが上がった熟練の冒険者でも50前後だ。
「戦闘を
「レベルアップごとにステータスが+1されてるし、ステータスアップ系のアビリティを最大ランクで取得してるからステータスが大幅に底上げされてるもんね」
「しかもリューの【加工】で作った装備は上質だからな。負ける気がしねえよ」
「ケンジのユニークアビリティ【指揮】のバフの恩恵もあるし」
「せやけど慢心は禁物やで。前回の買い出しで調達した鉄はタンクを務めるホーセイ用の鉄鎧に全部つぎ込んでしもうた。オレとケンジは奴隷商の被害現場で調達した皮の鎧のままやし」
「鉄の盾があるだけで充分だ」
「相手は最低三十人。もしかすると金に目が眩んだ冒険者が追加されるやろ。
それに対してこっちは四人。その内、フィーっちには人質を助ける役を担当してもらうから実質三人で戦うことになる。色々油断はできへんで」
「へへっ、良いじゃねえか。
「テンション上げすぎて蛮族特攻しないでよ?」
「気をつけとくよ」
「心配だなぁ」
決戦に向けて士気が高まるおっさんたちの横で、フィーだけが不安げな表情で俯いていた。
「フィー。大丈夫か?」
「……え? あ、はい! 大丈夫です!」
「今日は充分に餌を撒けた。早くて明日にはドスケベ伯爵がこの拠点にやってくるだろう。決戦は近い。緊張すんなとは言えないがあまり思い込み過ぎるなよ?」
「……(コクッ)」
ケンジの慰めの言葉に頷きはしたものの、フィーの表情から固さが取れることは無かった。
「精神的に辛いのならお風呂に入ってきたらどうかな?」
「だったらネット通販で入浴剤を買ってやろうぜ」
「お、エエなそれ。調べてみるわ。……天然アロマバスソルト『
「お、良いじゃん。それにしようぜ」
「ほな購入や!」
リューが購入ボタンを押すと一瞬のうちに購入した商品が届いた。
「ほい到着。相変わらずチートやなケンジの【クラン】は」
「湯船の中に入れると良い香りがする入浴剤だよ。これで少しは気が紛れると良いんだけど……」
「でも、私は――」
「良いから良いから。そんな風に思い詰めていたんじゃ、明日の作戦にも影響が出てしまうぞ。今日はゆっくり休んで英気を養え」
「……(コクッ)」
バスソルトを受け取ったフィーは、沈んだ表情のまま風呂場へ向かった。
「大丈夫かな、フィーのやつ」
「大丈夫かどうかで言えば間違いなく大丈夫ではないやろなぁ」
「大一番に向けて緊張するのは、あの年頃なら当たり前のことじゃないかな」
「そりゃそうだけどよぉ。心配なんだよ」
「いくら王女とは言え、オレらみたいなおっさんと違ってフィーっちはこういう追い込まれた状況の経験は少ないやろしなぁ。せやけどこればっかりは本人が克服するしかないで」
「フィーちゃんが場慣れするまでは僕たちが前に出て時間を稼ぐ。それが僕たちの仕事ってことだね」
「それは分かってる。俺も今まで以上に気合いを入れるさ。フィーの友達を助けるためにもな」
「その意気や」
「頼りにしてるからね、リーダー」
「任せろ!」
いつ敵がやってくるか分からない――。
そんな緊張に包まれながらおっさんたちは淡々とルーチンをこなす。
森に出てレベリング。
【気配察知】で冒険者の気配を感じ取れたら、クランハウスに戻ることで拠点の場所を発見させる。
それを繰り返す内におっさんたちのレベルは60を超え、フィーのレベルも40を超えた。
フィーの緊張は相変わらず解けておらず表情は固いままだ。
だがおっさんたちは何も言わずに見守ることにした。
(おっさんたちが色々言ったところで何も変わらへん。結局は自分自身で心に折り合いつけて乗り越えるしかないんや)
(僕たちにできることはフィーちゃんがじっくり考えることのできる時間を確保してあげること。それだけだね)
(もどかしいな……)
(若者を導くのはいつだって、どこでだって、もどかしいもんなんやろな)
(俺らが若かった頃もこうやっておっさんたちに見守られていたのかもなぁ)
(いや、それはないね! 少なくとも僕の会社ではそんな良いおっさんなんて居なかった! 偉そうに文句を言うだけの老害しか居なかったよ!)
(まーたホーセイが荒ぶっとるわ)
(良いおっさん、悪いおっさんも居るなら、フィーにとって良いおっさんになってやりてえな)
(そのためにも今は見守ってあげようよ)
(……そうだな!)
(あまり時間は無いやろから正直もどかしいわ)
(リューの見立てじゃそろそろって感じか?)
(報告を受けて準備を整えて……って考えるとそろそろやろな)
そんなことを話している間にも時間は過ぎ――スタッドの街でドスケイブ伯爵の姿を見かけた日から四日目の朝。
事態が動いた。
「どうやら来たらしいで」
外の様子を映す監視カメラの映像を見ていたリューが事態の進展を告げた。
モニターには拠点の前にある広場に武装した男たちが立ち並んでいるのが映し出されていた。
「とうとう来たか。おまえら準備はどうだ?」
「こっちは準備万端。いつでもいけるよ」
「こっちもや」
「フィーはどうだ? いけるか?」
「は、はい……っ! 多分……ううん、きっと大丈夫です!」
ケンジの問い掛けにフィーは覚悟を決めた顔で応えた。
「現実を見なくちゃ……真っ直ぐ前を向かなくちゃ、自分の望む未来を掴み取ることなんてできないんだって。そう気が付いたんです」
「そうか。フィーはまだ若いのにそこに気が付けたのはすごいぞ!」
「ほんとだよ。僕らなんておっさんになるまで気が付けなかったからね」
「現実は現実。頭の中でどれだけ妄想を繰り広げたとしても事態は好転せん。どれだけ目を逸らしても現実は容赦なく襲いかかってくる。
真っ正面から物事を見て、前を向いて一歩一歩、足を動かして……そうして、ようやく自分が望む未来を掴み取ることができる。
人生なんざそれ以外に進む方法はないんや」
「それに気が付くのに、おっさんたちはえらく遠回りしちまったが。どうやらフィーは違うみたいだ」
「だったら行くしかないで!」
「自分の未来を掴み取るためにね」
「はい!」
「よし。気合い乗ったところで行くぞてめぇら!」
「おっさんたちの役目はフィーちゃんを親友の下に送り届けること」
「ほんでもってドスケベ野郎をぶっ飛ばす! それがオレたちの仕事や!」
「おうよ。おっさんたちの力、見せつけてやろうぜ!」
ケンジの言葉に仲間たちが気合いの乗った声で応えた。
ホーセイは力強く。
リューは力いっぱいに。
そしてフィーは必ずやり遂げるんだという覚悟を乗せて――。
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