第22話 オッサンたち、敵の情報を集める
おっさんたちとフィーが心を一つにしてから一週間が過ぎた頃。
スタッドの街では小さな騒ぎが発生していた。
街の大通りを意気揚々と進む武装集団に街の住人の視線が集中していた。
集団は騎乗した騎士が十人に徒歩の従士が二十人、総勢三十人に大集団だ。
「おいおいなんだありゃ。どこの貴族様のお出ましだぁ?」
「王都からドスケイブ伯爵が私兵を連れて来たんだとよ」
「ドスケイブってあれか。女好きで有名なあの好色伯爵か?」
「そうだ。買った性奴隷が逃げ出したらしくて、その捜索に来たらしい」
「性奴隷を捜索ぅ? そんなもん捨て置いて新しい性奴隷を買えばいいじゃねーか。伯爵ならその程度の金は持ってんだろうに」
「それが伯爵のやつ、その性奴隷にかなりご執心らしいぜ」
「へえ……。なら逃げ出した性奴隷ってのを見つければ褒美をたんまり貰えるんじゃねーか?」
「その可能性はあるな。おい、ギルドで依頼が出ていないか見てこようぜ」
「おう! へへっ、運が向いてきたぜ!」
冒険者たちが金の匂いを嗅ぎつけて素早く行動を起こすなか、街の住人の大半が眉を顰めながらヒソヒソと言葉を交わしていた。
その視線の先には二人の少女の姿があった。
二人は今にも下着が見えそうなほどの短いスカートを履き、乳房だけが露出するような服を着させられていた。
それだけではない。
瑞々しい身体は荒縄によって緊縛されており、縄が少女たちの大切な部分に食い込んで容赦なく締め付けているのだ。
少女たちは歩きづらそうにしながら、首輪に繋がった鎖を持つ冒険者風の男たちの後ろに付き従っていた。
「なにあれ……もしかして性奴隷を連れて歩いてるの?」
「いくら性奴隷だからって、あんな破廉恥な格好をさせて大通りを歩かせるなんて。あの伯爵、頭がおかしいんじゃないかしら?」
「可哀想……」
「性奴隷を人の目にさらすなんて悪趣味過ぎるわね……」
衆目に晒された性奴隷の少女たちに住人たちは憐憫の視線を向ける。
そんな中、目深にフードを被った人物が駆け出そうとして――隣に居る同行者に止められていた。
(アリーシャ……! クレア……!)
(待て待て! 今、動くのはマズイ! 落ち着けフィー!)
(でも……っ! 二人は私の親友なんです!)
(親友っ!? あの女の子たち二人がか!?)
(そうです……アリーシャもクレアも幼い頃から共に過ごした、私の大切な親友なんです……! 王都から脱出するときはぐれてしまって……二人があんな扱いを受けてこのままにしてはおけません!)
(ま、待てフィー! 俺だってフィーの親友を放置するなんてことはしたくない! だけど今、奴らに見つかるのはマズイ! だから落ち着いてくれ、フィー!)
(ううっ、でも……でもぉ!)
ケンジの言葉を理性では理解しているつもりだが、フィーの心は親友の二人を助けたいがために暴走していた。
そんな少女の暴走をケンジは必死になって落ち着かせる。
今にも駆け出しそうなフィーの小さな身体をしっかりと抱き締め、落ち着かせるために優しい口調で少女の激情を宥めた。
(フィーの大切な友達に、あんなひどいことをしている奴はおっさんたちがこっぴどく懲らしめてやる。だが今はグッと我慢してくれ。絶対に、絶対に俺たちがフィーの友達を助けてやるから……!)
(ご主人様ぁ……!)
耳元で囁かれる主人の力強い言葉に、フィーはどうしようもない現状を悔やむように涙を流した。
悔しさと無力さに苛まれる痛みに堪えるように、フィーはケンジの服をヒシッと掴んで嗚咽を漏らす。
ケンジは悲しみにくれる少女の肩を抱きしめながら、パーティーチャットで仲間たちにメッセージを飛ばした。
『そっちはどうだ?』
『あらかた情報は集まったで』
『わかった。こっちはフィーが限界だ。先に拠点に戻る』
『フィーちゃん、何かあった?』
『親友が性奴隷として連れてこられて、街の大通りで見世物にされてるんだ。すまんがそっちについても情報を集めておいてくれ』
『了解だよ。気をつけてね』
『そっちもな』
短いやりとりを交わしたあと、ケンジは少女を連れてその場を後にした。
他者の尊厳を踏みにじるような下衆な行為を目の当たりにして、おっさんの胸の内にグツグツと煮え滾るような怒りが湧いた。
その怒りをグッと堪えてケンジは足早に街を出た――。
「情報、集めてきたで」
拠点に戻ってきたリューの報告を聞くため、クランハウスのリビングにTOLIVESのメンバーが集合する。
「敵のボスはジャックオ・ドスケイブ。アイウェオ王国の伯爵で、私設騎士団を連れてスタッドの街に来たらしいわ。
総勢は三十人ちょっと。騎士が十人、従士が二十人と結構な人数や」
「伯爵の探し物はやっぱりフィーちゃんみたいだね。冒険者ギルドにフィーちゃんの姿絵を渡して破格の懸賞金付きで捜索依頼を出してる。
ギルドに所属する冒険者たちもこぞって捜索に参加するみたいだよ」
「ちなみにフィーっちのことやけど、さすがにティントベリーちゃんにはバレてしもうとったわ」
「冒険者登録の時にフィーの顔を見てるからな」
「せや。進んで密告はせーへんって確約してくれたけど、状況によっては秘密にしておくのは不可能になるかも、とも言っとったわ」
「貴族絡みだからね。権力を振りかざされたら抗うことはできないと思うし、そこは仕方のないことかも」
「分かった。ティントベリーちゃんについてはそれで良いとして、俺たちがどうやってドスケベ伯爵に対抗するか、だな」
「まずはフィーちゃんの親友っていう二人を解放しないとダメだろうね」
「人質を取られてるようなもんやしな。せやけどどうやって救出するよ?」
「【
「それは無理やろ。奴隷には首輪が付けられとるやろうし」
「姿を消したことに気付かれた段階で、主人が首輪に命令して締め殺そうとするんじゃないかな?」
「じゃあクランハウスの中に匿うってのはどうよ? そうすりゃ首輪が主人の命令を受け付けなくなるんじゃね?」
「うーん、行けそうな気もするけど、ダメだった場合は二人とも死んじゃうよ?」
「魔法がどれほどの力を持っているか分からん以上、賭けになるようなことはせんほうがエエて」
「あの! それなら私で試してください!」
主人たちの会話にフィーは必死な表情を浮かべながら割って入った。
「その手もあるにはあるが……悪いなフィー。それは止めておく」
「そんな、どうして……! 私、二人を助けるためなら何だってします!」
「その覚悟は受け止めるけど、万が一、首締めを解除できなければフィーに危険が及ぶだろ。それこそそんな賭けみたいなことはできない」
「でも……!」
「落ち着けフィー。結論を急ぐな」
「ケンジの言う通りやで。物事を成し遂げるには
「おっさんたちも昔は拙速タイプだっんだけどねえ」
「色々、痛い目を見たこともあったからな。だけどそこまで長く時間を掛けるつもりはないから安心しろ」
「長くても三、四日って感じやろな」
「ギルドにも捜索依頼が出ている以上、僕たちのことが伯爵に伝わるのも時間の問題だろうね」
「ギルド、か……。せや。一つ思いついたことがあるねんけど」
「なんだよ?」
「何か良い案でも思いついたの?」
「良い案っつーよりもかなり強引な手段を取ることになるけど、うまく行けばフィーっちの親友たちも救えて奴隷からも解放できる案や」
「解放ってことは……」
「ドスケベを成敗するってことだな」
「今更、怖じ気付いたとか言わんやろ?」
「舐めんな」
「覚悟はもう決まってるよ」
「それでこそ、や。なら細かい作戦を話すわ。まずは――」
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