第15話 オッサンたち、腹を割って話す

 クランハウスの中は相変わらず快適だった。


 水道もガスも電気も通っている部屋が快適でないはずがない。


 リビングのソファーに腰を下ろしてくつろぐおっさんたちとは対象的に、フィーはクランハウスの中を物珍しげに観察していた。


「すごい……何もない空間のはずなのに、こんなにも立派なお部屋があるなんて」


「フィーは前にも見ただろ?」


「それはそうですけど……でも前はいつのまにか知らない場所で寝てて、起きたときに少し混乱していましたから」


「それもそうか。改めて、これが俺のユニークアビリティ【クラン】で作った、俺たちだけのクランハウスだ!」


「あびりてぃ……あの、ご主人様たちが時々口にされるあびりてぃって、一体何のことなのでしょう?」


「ん? この世界に【アビリティ】は無いのか?」

「このせかい、ですか? ええと……」


 ケンジの言葉に要領を得ず、フィーは首を傾げる。


「その辺りも含めてキチンと話をしよか。フィーっちはソファーに座ってな」

「は、はい!」


「さて、どこから話したもんか……」

「別に隠す必要ねーだろ? 全部話せば良いんじゃねーの?」

「うん。隠し事は無しで良いんじゃないかな?」


「……せやな。ならフィーっちにオレらのことを全部話すわ」

「はい! ちゃんとお聞きします!」


 両手を膝の上に置いたフィーは、ケンジたちの言葉に集中するように背筋を伸ばした。


「まずは俺らのことだな。俺は浅草健司。アカウントネームはケンジ・ザ・グレートオッパイ。三十七歳独身! 三人の中ではアタッカーを担当するおっさんだ」


「んでオレが天王寺竜一。アカウントネームはリュー@ちっぱい最強。ケンジと同じく三十七歳独身。三人の中やと支援職バッファーやらIGLインゲームリーダーをやっとるおっさんやで」


「僕は新潟豊成。アカウントネームはマダムスキー・ホーセイ。三十七歳独身。三人の中ではタンクを担当しているおっさんだよ」


「なる、ほど?」


「ま、今更名乗られても意味が分からんわな」

「でもちゃんと自己紹介するのは大切なことだよ」


「自己紹介したところで俺たちの正体、というか、俺たちが何者だって話なんだが。フィーには信じてもらえないかもしれないが、実は俺たち三人はこの世界の人間じゃないんだよ」


「元居た世界でユグドラシルファンタジーってゲームで遊んでいた時に、アイコちゃん……アイコニアスによってこの異世界に連れてこられたって訳や」


「だから僕たちはこの世界のことを何も知らないんだよね。異世界に来て早々、フィーちゃんに出会えて本当に助かったよ」


「い、せかい……」


「この世界とは全く別の次元にある世界ってイメージやねんけど……分かる?」


「天界とか冥府のようなところですか?」


「うん。僕たちは冥府のような地獄から来たんだよ!」

「ええっ!?」


「おいホーセイ、余計なこと言いな! 全く違うやろがい!」

「自分の勤めていた会社が地獄やったからって、変なこと言ったらフィーが勘違いするだろうが!」

「でも地獄みたいな世界だったのは本当じゃないか!」


「いやいや荒ぶるな。ときに落ち着けホーセイ神!」

「どこの荒魂あらみたまや。オッコトヌシ様もびっくりの荒ぶりようやん」

「変なこと言ってフィーが誤解したら次の説明がしづらくなるだろ」

「ごめん……」


「えっと、あの? 違うんですか?」


「天界とか冥府、というのがこの世界でどんな世界なのかは分からんが、多分違う。俺たちは普通に仕事して普通に生活をしていた普通の人間だ」


「せや。そんな普通の人間やってんけど、アイコちゃんにこの世界に連れてこられて難儀なんぎしとったんや」


「そんなとき、フィーちゃんと出会ったって訳」

「フィーが居なけりゃ俺たちは異世界で途方に暮れてただろうな」

「異世界のことなんてなーんも分からん状態やったしなぁ」


「だからフィーにはこれからも一緒に居てほしい。一緒に居て俺たちにこの世界のことを教えてほしいんだ。あ、もちろんいつか奴隷から解放するって言ったのも嘘じゃないからな!」


「――と、そういう訳や。ちなみにアビリティっていうのは異世界転移したオレたちにアイコちゃんがくれた、言うなれば贈り物やな」


「創世の女神様からの贈り物ギフト……」


「そのアビリティがあるから、こないなクランハウスも作ることできたって訳や。ほんまケンジ様々やで」


「だからそこはアイコちゃんに感謝しとけっつーの」

「アイコちゃんって本当に神様だったんだね。実感湧かないなぁ」


「それな。そこ、フィーに聞いておきたいんだけどよ。アイコちゃん……アイコニアスってのはこの世界ではどういう神様なんだ?」


「アイコニアス様は遥か昔、一万と二千年前に私たちが住まうこの世界、フォルスエデンを創った創世の女神様です」


「フォルスエデンちゅうのがこの世界の名前なんか」


「はい。フォルスエデンは人、エルフやドワーフ、獣人などの亜人や魔族などの人類種が住まう世界です。


 この世界が生まれた当初、人と亜人と魔族は仲良く暮らしていたのですが、アイコニアス様の寵愛を一人占めしようとして種族間で大きな戦争が何度も起こりました。


 戦争が起こる度にアイコニアス様は使徒を派遣して平和に暮らすように説いていたのですが、四千年前に起こった大戦のあと、アイコニアス様は姿を消してしまったんです」


「姿を消した?」


「言い伝えでは平和を説いても戦争を繰り返す人類種たちに愛想が尽きてフォルスエデンを捨て去ったとも、


 世界を平和に導ける力を持った創世の使徒を探すため、フォルスエデンから別の世界へと旅立ったとも言われています。だから……」


「なるほど。それでアイコちゃんと関係のある俺たちが、その創世の使徒とやらじゃないのかと思った訳か」


「あの……やっぱり違うんですか?」


「残念ながらオレらは創世の使徒って訳やないと思うわ」

「アイコちゃんからは好きに生きれば良いよって言われただけだしね」


「確かこの世界が次の段階に行くために、とか言ってたよな」

「確かに言っとったな」

「ログ、確認してみようか。えっと……あった」


 ジェスチャーでシステムメニューを開いたホーセイがログを口に出した。


「『良く来てくれたねおじさんたちー!


 ここは私が創った世界なんだけど、次の段階に進むためには異世界から誰か連れてこないといけなかったの。


 これで実績解除もできたしおじさんたちの役目はもう終わったからあとはこの世界で好きに生きてね♪


 それとちょっとしたお礼もしておいたから、難易度ベリーハードな世界だけど頑張って。それじゃーね♪ チュッ♪


 創世の女神アイコニアより』だって」


「おっさんが女の子の声真似すんなよ。萎えるわ」

「えー。意外とイケてると思ったんだけどなー」


「ただの高音こうおんのおっさん声やったで」

「おっさんだしね」


「なぜ声真似しようとした……」

「ま、それは置いておいて」


「置いておくのかよ!」

「だって次はフィーちゃんの番かなって」


「私の番、ですか?」


「せやな。さっきも言うた通り、オレらはアイコちゃんからアビリティってのを貰ってるんや。オレは【分析】と【加工】のユニークアビリティ」


「俺は【指揮】と【クラン】だ。【指揮】はパーティーメンバーへの永続的なバフ。【クラン】はパーティーに関係する能力だ」


「僕は【地形操作】と【抽出】。【地形操作】は洞穴を創ったのを見ていたと思うから分かると思う。ちなみに【抽出】はまだ試してないからどんなアビリティなのかは分からないんだけどね」


「はぁ……」


「で、や。言うた通り、オレには【分析】のアビリティがある。これはどうやら鑑定の上位版らしいんや」

「え……っ!?」


 リューの説明を聞いてフィーが顔色を変えた。


「せや。オレらはフィーっちの正体についてもう分かっとるんや」


「……いつから、ですか?」


「フィーっちと最初に出会ったときにちょちょいと調べさせてもらってん」


「そう、ですか……」


 落ち込んだ声を漏らしながらフィーが顔を伏せた。

 そんなフィーの様子にケンジが慌てて声を掛けた。


「誤解するなよフィー! 俺たちはフィーが元王女様だろうが何だろうが、絶対に見捨てたりしないからな!」


「え……?」


「フィーはもう俺たちの仲間なんだ! 仲間を見捨てるなんてこと俺たちは絶対にしない!」


「うん。フィーちゃんは僕たちの大切な仲間だからね」


「せやけどフィーっちの状況を正確に把握しとかんと、不測の事態があったときにうまく対処できへん。だからおっさんたちにフィーっちのことを教えて欲しいんや」


「……」


 リューの問い掛けを受けてしばらく考え込んでいたフィーは、やがて意を決したように顔を上げた。


「分かりました。皆様に全てお話します」


 そう答えたフィーが自分の境遇を話し始めた。


「私の名はフィーラルシア。フィーラルシア・ノースライド。

 イレブニア大陸の北方に位置する小国、ノースライド王国の第一王女です。


 元王女、というほうが正しいですけど……」


「フィーラルシアってのが本当の名前なのか。フィーってのは愛称か何かか?」


「親しい人たちにはそう呼ばれていました。一年ほど前、同盟国だった隣国トリアゲス王国がノースライドに宣戦布告してきたんです。帝国と共に」


「その帝国っちゅーのは?」


「バンガス帝国はイレブニア大陸の西方に位置する軍事大国です。


 版図を広げるためにイレブニア大陸のあちこちに戦争を仕掛けていたのですが、その軍事力を背景にノースライドの同盟国であるトリアゲスを脅してノースライドを急襲させたのです。


 不意を突かれたノースライドは為す術もなく……」


「戦争に負けたって訳か」


「……(コクッ)」


 小さく頷いたフィーが言葉を続ける。


「お父様の命令で王都を脱出したノースライドの王族は散り散りになって逃げました。私自身、親友たちと共に王都を捨てて南方に逃れましたが、


 その途中で人狩りの一団に襲われて仲間とは散り散りになり、やがて奴隷商に捕まってしまって奴隷の首輪をはめられてしまったのです。


 どうやら奴隷商はアイウェオ王国の貴族に私を性奴隷として売りつける算段をつけていたらしく、私は馬車に乗せられてこの国にやってきました」


「女の子を性奴隷にして売るなんてふざけた野郎だ……!」

「そこで森狼の群れに襲われた奴隷商が死んで、オレらと出会ったって訳やな」


「はい。皆様にお会いしたとき、私はチャンスだと思いました。私の正体を知らない皆様と行動することで追っ手や貴族の目を眩まし、何とかして首輪を外して皆様の下から逃げ出してノースライドに戻ろうと……」


「ま、何も知らん俺たちなら良い隠れ蓑になっただろうな」


「ごめんなさい……」


「謝らなくて良いぞ。目的を達成するために何かを利用するのは当前のことだ」

「うんうん。フィーちゃんは何も間違ってないし気にする必要はないよ」


「とは言え、や。黙って利用するよりも連携した方がトラブルには対処しやすいのも真理ってやつや。これからはホウレンソウはしっかりしていこな」


「ほうれんそう、ですか?」


「報告・連絡・相談。この三つがしっかりできていれば、大概のトラブルには対処できるはずやで」

「今後、フィーをノースライドに連れて行くためにも連携は必須だからな」


「え……?」


「何を驚いてるんだよ? 仲間のやりたいことを助けるのは当然のことだろ?」


「でも、私は皆様を利用しようとして……っ!」


「さっきも言ったが、何かを為そうとするときに何かを利用するのなんて当たり前のことだぞ?」


「しかもフィーちゃんは奴隷の身分に落とされて、目的を達成するためには大変な努力が必要だったろうし」


「大変やと分かってても祖国に戻りたかったんやろ?」


「それほどの覚悟があったのならおっさんたちを利用したことなんざ、これっぽっちも気に病む必要なんてねーよ」


「そんな……皆様はお人好し過ぎます……!」


「んなこたぁない」

「せやせや。オレらかて騙されて好き勝手利用されたら怒るで」


「だけど僕たちを利用しようとするのがフィーちゃんだったら、別に利用されても良いかなって」


「気に入ってるやつ、好きなやつ、認めてるやつ。そういった関係のやつらが俺たちを利用しようって言うのなら、利用されてやっても良いんだよ」


「ま、ただの感情論やけどな」


「感情論でも良いじゃん。論理的じゃないし首尾一貫してるわけでもない。でも人生ってそんなものだよっておっさんたちは悟りを開いているからねぇ」


「フィーの境遇を考えれば何かを利用してでも祖国に戻りたいって思う気持ちも理解できる。でもこれからはちゃんと相談してくれ。俺たちはもう仲間なんだから」


「クッサ」

「仲間とか試練とか好きだよねぇケンジ。なんか田舎のDQNドキュンみたい」


「うっせ。青臭いおっさんで悪いか」

「悪かぁ無いが若干メンドイ」


「まぁ僕たちは慣れてるけど」

「ぐぬ……っ」


「皆様……ありがとう、ございます……」


 自分の思惑を伝えたことで怒りをぶつけられると考えていたフィーは、おっさんたちの慰めの言葉と、自分の寄り添ってくれる姿勢に涙を溢れさせた。


「気にすんな」

「うんうん。それに僕たちはこの世界でのんびり生きるってこと以外は特に目的もない身だし」


「この世界を知るために旅をするのも面白そうだよな」

「せやけど今すぐにノースライドに向かうのは反対やで」


「え……」


「最終的にフィーっちの祖国に戻るのはエエ。せやけどそれまでにやらなアカンことがあるんとちゃうか?」


「やらなくてはいけないこと、ですか?」


「うん。まずはフィーちゃんのレベリングが必要だね」

「せや。今後のことを考えればオレらだけやなく、フィーっちも強くならんとアカンと思うねん」

「そのためにギルドでフィーをパーティー登録したんだしな」


「それやねんけど……ギルドだけやなくてケンジの【アビリティ】でもパーティー登録しておいたほうがエエと思うわ」


「そうか。フィーはまだ登録してなかったな。色々ありすぎてすっかり忘れてたぜ。フィー、俺たちのパーティーに入ってもらって構わないか?」


「私、これからも皆様と一緒に居てもよろしいのですか……?」


「ん? 何かダメなのか?」


「だって私、皆様のことを利用しようとして――!」


「何度も言ってるぞフィー」

「フィーちゃんの立場だったら仕方ないことだし、それを理解しているからこそ、おっさんたちは気にも止めてないんだよ」


「もちろんオレらを騙して罠に嵌めようとするようなやからを許すつもりはこれっぽっちも無いで? せやけどフィーっちは違うやろ?」


「フィーの置かれていた状況を考えれば、俺たちを利用しようとするのも仕方の無いことだ。それは理解しているからもう気にするな」


「……(コクッ)」


 おっさんたちの言葉にフィーは感動で瞳を潤ませながら頷きを返した。


「フィー。おまえを俺たちのパーティーに登録する。いいな?」

「……(コクッ)」

「よし。じゃあ――」


 ケンジは【クラン】アビリティを起動してフィーをパーティーに登録した。


「完了、と。これでフィーは正式に俺たちのパーティーの一員だ!」

「これからよろしくね、フィーちゃん」

「よろしゅうやで」

「はい……っ!」


 涙を拭ったフィーがおっさんたちの声に元気いっぱいに答えを返した。


「フィーっちをパーティーに登録したら何かあるとは思うんやけど」

「何かってなんだよ?」


「オレもホーセイもケンジにパーティー登録されたからクランハウスの扉が可視化されたやろ? この世界の人間にもパーティーメンバーになったことで追加される機能っちゅーか、そういう特殊なもんがあるかもしれんやん」


「どうだろ? 試してみるしかないんじゃない?」

「じゃあフィー。ちょっと指をこう、動かしてくれ」


 ケンジは空中に指で”S”の文字を描いた。


「えっと、こう……ですか? わっ!?」


 ケンジの言う通りに空中に”S”を描いたフィーは、目の前に展開された半透過ウィンドウに驚愕の声をあげた。


「何か不思議な板が目の前に現れましたっ!?」


「もしかしてと思っとったけどやっぱり出たやんけ」

「ケンジの【クラン】でパーティー登録したからかな」


「ちゅーことは、や。もしかして獲得経験値十倍と獲得スキルポイント十倍のアビリティもフィーっちに適応されるかもしれへんで」

「その可能性は高いかもな」


「あ、あの、これって一体?」


 目の前の板――ステータスウィンドウ――を指差したフィーが、説明を求めるようにおっさんたちに視線を向けた。


「それはステータスウィンドウって言って自分の情報が表示されてるんだよ」

「私の情報が、ですか?」


「せや。力がどれだけ強いとか、どれだけ魔力が高いとか、そういったものが数値化されて表示されとるんや」


「それだけじゃなくて所持してる【アビリティ】とか【アーツ】や【スキル】なんかも表示されるんだよ」

「重要な個人情報だからパーティーメンバー以外には見せるなよ?」


「個人情報……つまり私が身に付けている技術や知識がここに表示されているってこと……で合っていますか?」


「そういうことだ。フィーは頭が良いなぁ!」

「あぅ……ありがとう、ございます……」


 ケンジにストレートに褒められたフィーは頬を染めながら表示されている自分の情報を確認する。


「こんなことができるなんて……」


「こっちの世界やとステータスウィンドウとかステータスボードみたいなもんは無いんかいな?」


「ありません。鑑定スキルはありますがそれも頭の中に対象の情報が浮かんでくるというもので、こんな風に明確に表示されるなんて聞いたこともありませんでした」


「ふむ。ということはユグドラシルファンタジーのシステムが適応されている俺たちとこの世界の人たちは違うってことか」


「その可能性は高いやろな。ちょっと検証させてもらおか。フィーっち、スタータスウィンドウの端っこにメニュー表――なんか色々書かれた列が見えるか?」


「えっと……はい、ありますね。アイテム、能力、クエスト、チャット、フレンド、システム……他にも色々書かれています」


「書かれてる文字も理解できるんか。そんじゃ、その文字の中の、能力って文字を指でポチーッと押してみて」


「押す、えっと……わっ!? また新しい板が出てきました!」


「うん、それが取得可能な能力の一覧表や」

「取得可能? えっ? 技術を選べるってことですか?」


「レベルアップの時に貰えるスキルポイントを消費することで、任意の能力を取得できるんだよ」

「任意っ!? え、そんなことができるんですかっ!?」


「こっちの世界の人はできないのか?」


 ケンジの質問にフィーは首を横に振って答えた。


「私たちは長い年月を掛けて日々研鑽けんさんを積み、それによって魔法を覚えたり技術・・・・・・スキルを手に入れます。


 それでも才能が無ければ積み重ねた努力は水泡に帰し、全てが徒労に終わってしまうこともあるのです」


「魔法と技術……つまり【スキル】は勉強しなけりゃ覚えられないってことか」


「ごく稀に、生まれながらにしてスキルを所持する人もいます。そう言った人は稀少スキルを所有していることが多いですね。鑑定も稀少スキルの一つです」


「アイコちゃんがベリーハードって言ってた理由が分かった気がするな」


「フィーちゃんは【アビリティ】や【アーツ】についても知らなかったもんね。やっぱり僕たちはこの世界では特殊……いや、異質な存在なのかな」


「異世界転移してきたオレらがこの世界の住人と同質な訳はないわな」

「今更そんなことを言っても仕方ねーよ。それよりもパーティー登録することがフィーにとって良かったのかどうか……」


「……ケンジ様。ううん、ご主人様! 私は皆様のパーティーの一員になれて良かったと感謝しています! だって強くなれると分かったんですから!」


 そう言ったフィーの瞳は希望に満ちていた。


「私はノースライドの第一王女として教育を受け、それなりに魔法や技術を取得しました。だけどそれだけでは国を守ることはできませんでした。だから私は強くなりたい。強くなって、ノースライドの民たちを守りたい……!」


「つまりフィーは、トリアゲスだかバンガスだかに奪われた国を取り戻したいってことか?」


「……いいえ。いくら奇襲されたからといって国土を奪われてしまった王家に再び国を統治する資格はないと思います。


 ですが、もし民が圧政に苦しんでいるのだとしたら私はその圧政から民を解放したいんです」


「そうか。……もし圧政じゃなかったらどうするつもりだ?」

「民たちが安全に、幸福に暮らせているのであれば私はそれで構いません」


「それって国を取り戻す気はないってこと?」

「はい」


「ま、国土を戦火に巻き込んだ統治者が戻ってきたとしても、それを喜ぶ国民は少ないやろしな」

「おい、リュー!」


「なんやねん、本当のことやろがい」

「そうかもしれんが言い方ってものがあるだろ!」


「言い方を変えたとしても事実は事実や」

「ぐぬっ……だけどよぉ……!」


「リュー様の仰る通りです。私たちノースライド王家は国土を戦火に巻き込んだことで王族たる資格を失いました。

 それは分かっています。


 でももし民が苦しんでいるのであれば私はその民を救いたい……!」


「歓迎されんかもしれんのに?」


「歓迎されないのであれば身を引くまでです。でも助けを求める民がいるのなら私は手を差し伸べたい。


 それが私の……ううん、ノースライドの王族として育ったフィーラルシアとしての使命ですから。


 それを知るためにも私はノースライドに戻り、民たちの生活をこの目で見たいのです」


 フィーは顔を上げて真っ直ぐにおっさんたちと目を合わせた。


「覚悟は決まってるってこっちゃな」


「……(コクッ!)」


「了解や。そこまで言うんならオレはフィーっちの目的が達成できるように手伝ったるわ」

「偉そうに……」


「相手の真意が分からん内から仲間ってだけで全面肯定するようなおっさんはケンジだけで充分や。オレは元々うたぐり深いタチやしな」


「本当はケンジと同じぐらい暑苦しいおっさんのクセに良く言うねえ」

「アン? オレをこんな熱血だけのおっさんと一緒にすな!」


「毎回、黙って憎まれ役を買って出てくれることに僕たちはいつも感謝してるよ」

「ちっ……なんか訳分からんこと言うとるわこのおっさん……」


 そう呟いてそっぽを向いたリューの耳は赤く染まっていた。


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