第52話 また西が来た
《有間愁斗―視点》
日曜日の18時頃、海から地元へ帰ってきた俺達は熱帯魚ショップに寄って金魚の水槽セットや餌を購入した。
それから近所の焼肉屋へ向かう途中、向日葵さんから紫陽花にLINEが来た。
「また西君が来たみたいです」
LINEに添付された写真を信号待ちの俺に見せながら紫陽花は難しい顔で言った。
ドアフォンモニターを映した写真には西が写っているが今回は一人で来たようだ。
「しつこいヤツだな」
写真の下のメッセが目に入る。
向日葵【暫く家に帰らない方がいいって伝えてだって】
「家に帰らない方がいいってどういう意味だろうな?」
「なんなんですかね?西君に指図されることじゃないですけど……、じゃあ、暫く有間さんの家に泊まろうかな?……なんちゃって」
「うちに泊まったら毎日エッチなことしちゃうよ?」
「べ、別にいいですよ。どうせいつもしてるし……」
「紫陽花ってエッチだもんね。いつも濡れてる」
「有間さんだっていつもカチカチじゃないですか!この前なんてピュッピュしちゃったしッ!」
「ぐぬ、俺の負けです……」
くっそう、俺も紫陽花をイかせればおあいこになるのか?指だけじゃなく舌も使えばいけそうだが!
実際に彼女はエロい方だと思う。裸で抱き合ったりキスしたり……愛撫したり、いつも積極的に受け入れてくれる。エッチはまだしていないけど、できるようになったらどうなってしまうのだろう……。
いや、それより西だ。何を考えているんだコイツ?
「エッチは……まぁ、ゆっくりやるとして、お母さんの了承をもらえたら暫くうちに泊まる?」
「泊まりたい!いいんですか?邪魔じゃないですか?」
「いや、全然邪魔じゃないよ。つかむしろ一緒に居られて幸せです……」
「ふふっ、私もです。じゃあ、今日聞いてみましょうか」
「そうだね」
そんな話をしていると焼肉屋に着いた。
黒毛和牛ハラミをペロっと食べた紫陽花は幸せそうな顔で「美味しい〜」と言ってから。
「浮き輪とか、片付けは何時やりますか?」
「今日は疲れたから明日やるよ」
明日は月曜日で仕事だが、19時頃に帰宅できると思う。紫陽花のバイト終わりが23時でそれまで時間があるからのんびりやろう。
「明日は一緒に片付けできないから今日やりましょ!」
「疲れてないの?」
「まぁその……車でずっと寝させてもらったので……す、すみまん、一人で運転させっちゃって」
「ははは、全然いいよ。気を使われるより眠いなら寝てもらった方が俺は助かるかな」
「ふふふ、有間さんって優しいですね」
俺は基本的に自分から話しをしないから話題を振られなければずっと無言だったりする。
それでいいと思ってるし、お互い無言の静かな時間も好きだ。だから彼女が寝てても十分楽しい。
その後焼肉を食べながら今日撮った写真を見たり、沖に流された話で盛り上がった。
焼肉を食べたらどっと疲れが出て、俺のアパートに着いてから海の片付けは紫陽花が殆どやってくれた。
それから紫陽花のマンションに行ってお母さんを説得。
お母さんに娘を任せて大丈夫なのかと聞かれ、俺は真剣に「絶対に大切にします」と答えたらあっさり了承を貰うことができた。
ただ時間も22時を過ぎていて色々準備もあり、明日から泊まることになった。
俺は朝から仕事だから自分のアパートに帰った。今日はお互い自分の家で寝る。
◇
翌日、会社の昼休み、食堂で昼飯を食べていると井野さんが隣の席に座った。
「カキフライか」
「はい。好物なんですよ。井野さんはうどんですか……」
「腹にいいからな」
井野さんはうどんを啜ってから。
「こないだのヤツな、後輩に聞いたぞ」
先週木曜日、ビジホで井野さんと大浴場に入って聞いたんだった。例の池袋事件。
「何かわかりましたか?」
「ああ、キャッチ共のバック、俗に言う半グレグループが女を誘拐しているらしいな。察が躍起になってる」
「ヤバいですね……」
「関わらないのが一番だ。誘拐なんてやったら足付くから、そのうち捕まるだろ」
「わかりました。……気を付けます」
井野さんはニヤリと笑ってから。
「それで浮気した彼女とは仲直りしたのか?ん?」
「それがですね。浮気は勘違いで――――」
食事の間、井野さんと雑談した。
井野さんは食後いつものように昼寝。俺は紫陽花のことを考える。来週からお盆休みが始まり、俺達は宮城へ行く。取り敢えず、それまで彼女を全力で守らないと。
◇
19時頃、家に帰るとポストにお届け物が……、注文していた防犯グッズが届いたようだ。
そいつを回収して、さっき紫陽花のスーパーで買った弁当を食べる。
そう言えば、今日から紫陽花がうちに泊まるけど、飯はどうしたらいいんだろう?調理器具や食器はあるから自炊できるけど……、後で相談してみるか。
23時頃、スーパーに車で迎えに行き、マンションに寄って準備済みの大きなスーツケースを二人で回収して、俺のアパートに帰ってきた。
部屋に入ると紫陽花は目を輝かせて言う。
「クロちゃんとハナちゃん、水槽に移しましょう!」
「……やるか」
リビングに設置済みの水槽には昨日入れた水と砂が入っていて濾過槽も昨日から稼働させている。
本当は明日まで塩水消毒したかったが見た目病気はなさそうだし大丈夫だろう。と言うか紫陽花が早く水槽に入れたくて俺を煽ってくる。
パシャ
パシャ
二匹を手で取って水槽に移した。
「わぁー、可愛い~。お尻フリフリしてますね。餌あげていいですか?」
「ダメだよ。金魚は夜寝るからこんな時間にあげたら目を覚ましちゃうだろ」
「そうなんですね……ううぅ~」
そんなにがっかりするなよ。餌あげたくなっちゃうじゃん!
「明日の朝、餌あげていいよ」
「やったぁー!わかりました、ふふっ。じゃあ私、お風呂入っちゃいますね!」
「うん」
機嫌を直し微笑んだ紫陽花は脱衣所へ入って行った。
今日から彼女の実家ではない、完全に二人きりで毎日一緒に寝る。俺は我慢できるのだろうか……。
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