第46話 祭を楽しむ
《有間愁斗―視点》
花火の時間まで俺達は出店を回ることにした。
始めてここの祭りに来たけど、店も人もめちゃくちゃ多いな。
子供の頃は地元の祭りでヨーヨー釣りとかやったけど、取れても結局ゴミになるし大人になったらそういうのはやらないよな。紫陽花もCOOL系美少女だからやらないだろう。
たこ焼きでも買って人気のない所で時間潰すか。
隣を歩く紫陽花が。
「私、彼氏と地元の祭りに来るの夢だったんですよ。あっ!有間さんヨーヨー釣りありますよ!」
と彼女は俺の手を引っ張って店の前で足を止めた。
小学生が数人、楽しそうに遊んでいる。
「私達もやりましょうよ」
「え?やるの?」
「当然ですよ!せっかく来たんだから、私上手いんですよ!ふん!」
鼻息を荒らげてめっちゃ興奮してるぅ!
「1つお願いします」
「お金自分で出すのに」
「いいのいいの、俺は応援してるから頑張って」
そう言って的屋のおばちゃんから貰った仕掛けを紫陽花に渡した。
紙紐の先端に小さな針金フックが付いた仕掛け。水に浮かんだヨーヨーの輪ゴム部分が下向きになっていて、水に紙紐を浸けてヨーヨーの輪ゴムにフックを引っ掻ける。紙紐が濡れて弱くなると切れるわけだ。
「よっ!……ほっ!……それっ!」
「うまい、……すご!……上手だな」
「ああーっ!切れちゃった!」
紫陽花は3個ゲット、4個目で紙紐が切れた。
「お姉ちゃんの取ったの、色いいなぁ」
隣で遊んでいた小学校低学年くらいの女の子に声を掛けられた。ヨーヨーはカラフルで色んな模様がある。
この子は失敗して1個も取れなかったようだ。フックは小さいし紙紐をずっと水に浸けているとすぐに切れてしまう。こんなの小学校低学年くらいまでしかやらないんだから、もう少し甘目設定でいいと思うが……まぁ大人もやってるけど。
俺は紫陽花の横顔を見た。
「お姉ちゃん達、2個あればいいから、1個あげるよ。この色かな?」
「え!いいの!?」
「うん、いいよ。ほらこれ」
「わぁーお姉ちゃんありがとう!」
めっちゃ感謝されてるな。付き添いの親御さんも紫陽花に頭を下げてお礼してる。
別れ際、紫陽花は満面笑顔で女の子に手を振った。子供好きらしいし、それに紫陽花って優しいな……。
その後も紫陽花はスーパーボールすくいや射的、輪投げ、くじ引き等を片っ端からやっていった。
こんな遊びで大はしゃぎする紫陽花は結構子供っぽいけど、そんなところが俺にはとても可愛く見えた。
途中麻莉ちゃんから紫陽花に連絡が来て合流。その後、向日葵さんから紫陽花に連絡が来て合流。俺達のパーティーは4人になった。因みに紫陽花と麻莉ちゃんは例のお泊り事件以降も普通に連絡を取り合っているらしい。
紫陽花の地元の友達からも良く声を掛けられた。それで俺のこと彼氏だって紹介してた。
「有間さん、もうすぐ花火始まっちゃうから最後に金魚すくいやりましょ!」
目を輝かせる紫陽花。
「取ったって飼えないじゃん」
どうでも良さそうに浴衣姿の麻莉ちゃん。
「私、焼きそばとたこ焼き食べたい」
さっきからそればっかり言ってる浴衣姿の腹ペコ向日葵さん。
「有間さん、二人はほっといて一緒に行きましょ」紫陽花
「あたし友達いないから一人ぼっちになっちゃうよ?」麻莉子
「私は花火始まる前に焼きそばとたこ焼き買ってくるね。皆も食べる?」向日葵
「「「食べます!」」」
《金魚すくい、的屋のおっちゃん―視点》
今日の売上も上々だな。魚も殆ど減ってねぇ、ここの祭りはガキんちょが多くてやり易いぜ。
「ほんとにやるのぉ?取ったらどうすんのよ?」麻莉子
「うちで飼うもん!」紫陽花
「しお、前もそんなこと言ってすぐ死んじゃったじゃん」麻莉子
「それは……そうだけど」紫陽花
「俺が水槽用意して飼うよ」有間
「ほんとですか!有間さんちに行った時に餌あげたい」紫陽花
「じゃぁ、1つお願いします」有間
「もう!お金は自分で出すって言ってるじゃないですか!」紫陽花
「シュートくぅーん、あたし、リンゴ飴食べたぁーい♡」麻莉子
「あっそ」有間
「え?え?それだけ?この巨乳美少女に対してそれだけなの?」麻莉子
「何で麻莉ちゃんが有間さんにたかるのよ!」
冴えない兄ちゃんがハーレムか?たく、だがこんなボンクラじゃ大してすくえねぇだろう。くくくく、全く鴨ネギだぜ。
「あいよ!」
「ほら、紫陽花頑張って」
オイラがあんちゃんに
なんだ、てめーがやんねーのかよ。情けねーな。
「しお、どうせなら大きいの取ってよ。丸いヤツ」麻莉子
「えぇー、できるかな?」紫陽花
「しおならできるって!ほらあれ、黒くて太くて大きくて硬いの!って金魚は硬くないか、あはは」麻莉子
「丸くて体高があって良い金魚だね」有間
「よし!やってみるね」紫陽花
素人が。うちのポイは6号だぜ。余程の達人じゃなきゃ出目金は取れねー。しかも、てめー等狙ってるのは紙破の二つ名を持つ百戦錬磨のうちのエース、紙破の出目太郎だ!
綺麗なねーちゃんがポイを水に入れて出目太郎に近付けると……。
「わっ!破られた」紫陽花
「この金魚、逃げないで紙に突っ込んできたね」麻莉子
オイラは拳を握り締める。
これよこれ、この凶暴性!普通の金魚はポイを見たら逃げる。だがコイツは逆に襲い掛かってくるんだ。
紙破の出目太郎、コイツはもはや金魚の皮を被ったサメだ!
「他のお客さんも渋いみたいだし、この紙たぶん6号だから出目金は無理かもな」有間
「6号?」
ふんっ!よく見てるじゃねーか。カラクリはわかったようだな。とっとと諦めな。
「この子、欲しかったのに……残念」紫陽花
「じゃぁ俺が取るよ」有間
くくくく、バカかこいつ。せっかくカラクリを見破ったってのにかっこ付けやがって。
「すみまん。1枚ください」有間
「あいよ!」
たく、金の無駄だぜ?
出目太郎、ぶっ壊せ!
「おじちゃん、破れちゃった」客の子供
「おっ、一匹取れたな。持って帰るか?」
「うん」
「袋に入れてやるからな」
オイラが作業してると。
「わー!凄い!有間さん取った!」紫陽花
「シュートくん凄いわね!あたしビクってなっちゃった!テクニシャンなんだから」麻莉子
冴えないにーちゃんが持つ椀の中には出目太郎が入ってる。
な、バカなっ!?何をやった?壁挟み?椀流し込み?ポイ重ねか?うちじゃ全部反則だぜ?
「でも、今ので紙破れちゃったな……」有間
「にーちゃん凄いな。さっきそっちのお嬢ちゃんが取れなかったからポイ一枚サービスしてやるよ」
オイラはポイをにーちゃんに手渡す。
「え!いいんですか?すみません、ありがとうございます」有間
「有間さん、あっちの赤と白の丸いのも取ってほしいです」紫陽花
「
くくくく、琉金も出目同様難易度はたけぇ。次はにーちゃんのイカサマ見逃さねぇぞ!場合によっては出目太郎も返してもらう!
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