第45話 使用済みゴム


《有間愁斗―視点》


 土曜日の夕方――。


 俺は紫陽花の実家で彼女の着替えを待っていた。これから地域の祭りと花火大会に行くのだ。


 今週の木曜日――、ラブホに泊まった翌日の朝はイチャイチャして会社に遅刻してしまった。紫陽花は一人で広島観光してその日もラブホに泊まるか悩んだ末、知らない土地を一人で回るのは不安だと言って先に千葉へ帰っていった。わだかまりが消えて俺達のラブラブLINEも再開した。


 同日夜、井野さんに例の不良グループについて相談してみた。一緒に風呂に浸かりながら井野さんは言った。


「池袋のキャッチかぁ。……後輩に顔が広い奴がいるから聞いてやろうか?」

「いいんですか?」

「ああ、それくらい構わないさ」

「ありがとうございます」


 最近池袋で起きた少年グループの犯罪。ネットで調べても情報はなかった。大きな事件ではないのかもしれない。でも、どんな連中なのか知っておきたかった。


 翌日金曜日――、昨日の話だが、広島での仕事は午前中に終わり、18時頃千葉の自宅アパートに帰宅できた。それからホームセンターに行って護身用の自作携帯武器の部品を購入した。


 そして今日――、土曜日は朝から会社に行って仕事をした。今週までに提出する図面の修正作業で、それも昼過ぎには終わり、紫陽花との待ち合わせまで時間が空いたから会社で携帯武器を作った。

 廃材置場に使える材料が捨ててあったり、専用工具なんかも使用できて武器製作は完了した。



 紫陽花とは毎日、LINEと電話をしている。昨日も寝る前に2時間話した。

 

 不良グループの話題も話している。奴等はあれからマンションに来ていないそうだ。来ても居留守することになっているから家にいれば安心だが、来週からバイト帰りが危ない気がする。

 紫陽花に警察や親に相談することをを勧めてみたが、彼女的には悪友の悪ふざけという認識で大事にはしたくないようだ。

 しかし、本当に危害が出そうなら警察に相談した方がいいだろう。小中学校同じ地元だから保護者経由で注意喚起する手もある。

 一応、万が一に備えて使えそうなアプリを彼女のスマホに入れてもらった。

 奴等、もう来ないかもしれないが、警戒するに越したことはないだろう。



 土曜日の夕方、そんなことを考えながら紫陽花の実家リビングで待っていると着替え終えた彼女が姿を見せた。


「お待たせしました」


 薄紫色をベースにした浴衣姿。髪は後ろでお団子にしていて、細く綺麗な首が露わになっている。


「ど、どうですか?」

「凄く綺麗だよ」

「有間さんなんでも褒めるからなぁ。適当に言ってますよね?」

「いや、ほんとだって!めちゃくちゃ可愛いよ!」


 黒髪でキリッとした顔のCOOL系美少女に和服はよく似合う。スリムでスタイルも最高だし。こんな綺麗な子が俺の彼女でいいのだろうかと思ってしまう。


「……行こうか。今日はたくさん楽しもう」

「そうですね。えへへへへ」


 キュン――。清楚で綺麗な顔が笑うと本当めちゃくちゃ可愛い。



 祭り開場は近所の商店街。出店がズラッと並び人でごった返している。


 俺達は手を繋いでゆっくり歩きながら。


「そう言えば、この前のゴム捨てたの?」


 この前ラブホに泊まった時に彼女がゴムを被せてみたいと言い出して……、恥ずかしいから嫌だったけどバカ女呼ばわりした手前、無下に断れずやってみた。

 まぁそれで……、彼女も初めて見た松茸に興味津々で色々悪戯されてゴムの中にパトラッシュしたわけだが……。その使用済みゴムを彼女は持って帰ったのだ。捨てるが勿体ないと言って。


「え?捨ててないですよ?小さな箱にしまって大切に保管していますけど?」


 歩きながらキョトン顔で当然のように答えるCOOL系美少女紫陽花。


「いや、あれゴミだからね!」

「ゴミじゃないですよ。まだ生きいてる子がいるかもしれないですし」

「いや、もう死んでるでしょ」

「じゃあお墓作りますか?」

「えっ!?」


 こんな美しい容姿でなんという狂気。そこまで行くとある種のサイコパスだ!


「嘘ですよ。なんか、有間さんのだと思うと捨てられなくて……私のことヤバい女って思いました?」


「お、思ってないよ」


 例えば俺が彼女の使用済みパンツを持っていても別にいいと思う感覚と同じなのかもしれない。なかには御神体と言って部屋に飾る無職の異世界転生者もいるらしいし。


「俺も紫陽花の使用済みパンツもらおうかなぁ」

「えぇーっ?」


 ドン引きする彼女。


「絶対ダメ!有間さんって……変態ですね……」


 と可哀想な人を見る目で俺を見てくる。

 いや別にそんなに欲しくてないからね!もらっても、ちょっと嗅いだら洗って返すと思うし!


「紫陽花はゴム持ってていいの?」

「だって私、本当に捨てられなくて……」


 祭りの混雑で足が止まる俺達。

 俺は彼女の華奢な腰に腕を回し抱き寄せた。


「紫陽花は可愛いなぁ」

「何ですか……急に?」

「俺の子ども達が人質に取られてるから優しくしないと」

「ふふ、丁重に保護してるから大丈夫ですよ」


 彼女が俺を好きなのはよくわかった。

 愛されていると思うと、そんな狂気的なところが魅力的に感じてしまうのだから俺は既に洗脳済なのだろう。


 で、でも、できれば今すぐにでも使用済みゴムは捨てて欲しい……。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る