第47話 出目太郎と白紅花子


《金魚すくい、的屋のおっちゃん―視点》



 にーちゃんは丸々太った赤と白の琉金の前でポイを構えた。


 ふん、そいつはうちで一番デケー金魚だ。圧倒的な重さの暴力で無惨にポイ紙をぶち破る、二つ名は横綱、横綱の白紅花子しろべにはなこよ!



「ほっ」有間

「わぁー!取れた!有間さんすごぉーい!」紫陽花

「ほんとに凄いね。上手すぎ」麻莉子


 はなこぉおおおおおお!オイラの花子が取られちまった!


 ま、まじよ!?出目太郎に続き、白紅花子まで……。うちの主力2匹だぞ!

 くっそう!にーちゃんの動き、最速で正確……完璧だ。しかも、重力を無視したこの技は――。


「今の、ツバメ返し…だろ?」

「あははは、わかっちゃいましたか」有間

「佐々木小次郎、顔負けのキレだぜ。にーちゃん、もしかして全国金魚すくい選手権上位常連かい?」

「中学の時に1位取りました」有間

「成る程な、……見事だったぜ」


「特技金魚すくいって地味じゃない?」麻莉子

「えー、かっこいいよ!」紫陽花

「どこがっ!?」麻莉子


 オイラの完敗だ。まさかこんな祭りで金魚すくい界の大物、いや、深淵に出会うとはな、くくくく、おもしれー。



《有間愁斗―視点》


 俺はおっちゃんから金魚の入った袋をもらった。


「お店の人、親切だったな」

「ほんとですね、オマケしてくれて優しいですよね」

「顔はこわそうだったけど、人は見た目じゃ判断できないってやつね」


 紫陽花は俺に抱き着き、目の前に持ち上げた金魚の袋をつんつんしながら。


「有間さんほんとに凄いですよね!わぁー、可愛いなぁー、帰ったら餌あげましょうよ」


 取れたのが余程嬉しかったのか大はしゃぎだ。


「うーん、先ずは5%の塩水に入れて3日は餌抜きかな……病気の確認もしないと」

「餌あげないんですか?」

「魚は最初が肝心で、環境が変わると体調を崩すんだけど、それで餌をあげると胃腸不良で最悪死んじゃうんだよね」

「へー、詳しいですね……。だから私上手く飼えなかったのかな」

「せっかくだし、大切に飼ってあげよう」

「そうですね。私もお世話したいです。えへへへ」

「明日の夕方、熱帯魚ショップに色々買いに行こうか?水槽は取り敢えず45cmで、あと濾過槽と砂利とライトは小さ目かな……」


 俺達がイチャイチャしてると。


「しおってずっとシュート君にベタベタしてるよね」

「え?今たまたまだよ」

「えー、あたしが来たときからずっとだよ。腕とか腰に抱き着いたりとか、シュート君の手、両手で握ったりとか」

「そ、そうかな……」


 確かに、今日は特にスキンシップが多い。歩いていてもどんどん俺の方に寄ってくるから真っ直ぐ歩けなかったりする。

 そんなところも凄く可愛いんだけど……。


「なに?ムラムラしてるのぉ?おじちゃんに話してごらん?」

「ムラムラしてないよ!麻莉ちゃんと一緒にしないで」

「まぁ、あたしはムラムラしてるけどね、常に…」

「この前ちょっと怒られたから優しくしてもらってるだけ……」

「なになに、怒られたの?いいなぁー。あたしもメス豚って罵られながらケツ叩かれたいよ、あはははは!」


 いや、めっちゃ変態!

 そうか、まだ気にしてたのか……今日はたくさん甘やかさないとな……。



 それから俺達は河原の土手に移動して、向日葵さんが買ってきた露店フードを食べながら花火を見た。


「綺麗ですね」


「うん……凄いな」


「来年も一緒に来れますかね……?」


「来年も再来年もずっと一緒に見たい……」


「私も……」


 花火を見て感動する紫陽花は、やっぱり俺にべったりで、そんな彼女を愛おしく思った。





 祭りの後は一旦お互いの家に帰った。

 紫陽花が明日の準備をするためだ。明日は日曜日で朝から海水浴に行く。


 紫陽花の準備が終わったら迎えに行って、今夜は俺のアパートに泊まり、早朝車で一緒に出かける流れだ。


 この前広島で一泊しちゃったから、紫陽花のお母さんも諦めたのか了承してくれた。


 取り敢えず金魚はプラスティックの衣装ケースに入れて購入した水と塩5%を足しておいた。




 紫陽花を迎えに行ってアパートへ帰る途中、夜道を歩きながら彼女が言う。


「有間さんの家ってコンドームあるんですか?」

「いや、……な、ないけど?」


 家に泊まるとこを想定していなかったから買ってなかった。


「一応、か、買っておきます?」

「途中のコンビニで買おうか……の、飲み物も欲しいし」

「の、飲み物!そそそそうですね!うんうん!」


 自分で言っておきながら焦る紫陽花。

 コンドームを買って今夜ナニが起こるのか期待せざる終えない俺。


 俺達は並んで夜道を歩く。


 深夜だというのに夏の暑さも相まって二人が繋いだ汗ばんだ手には熱がこもるのだった。




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