第39話【閲覧注意】紫陽花がバイト先の男に寝取られた



《有間愁斗―視点》


 日曜日13:00頃。


 俺は池袋の街をぶらついていた。


 さっき俺と同じアプリを使った人に会って話を聞いてきた。彼にアプリ画面を見せて同じものだと言っていたから、彼も間違く使っている。

 やはり記憶が消えるのは本当で、消えた後はどうなるのかとか、どの様に消えるのか等、色々な話を聞くことができた。


 因みに麻莉ちゃんは用事が出来たとかで来なかった。


 はぁー、紫陽花に会いたい。

 今日は一人で買物に行くって言ってたな。何を買うか聞いたら俺が喜ぶ物って言ってたけど……、指輪のお返しにプレゼントでもくれるのだろうか?


 せっかく池袋まで来たし服でも買って帰ろうかと歩いていると、人混みの先に見知った顔が……。遠目から見てもわかる圧倒的美少女。俺の彼女、紫陽花だ。


 買物って池袋だったのか?地元で済ませると思っていたよ。

 こんなところ会えるなんて、もう運命だ。彼女に声を掛けて今日は一緒に買物しよう。

 何故池袋にいるのか聞かれたら、ちょっと知り合いに会う用事で、と言えばいいだろう。


 ん?……誰だ?


 紫陽花は知らない男と歩いていた。


 いや、俺はヤツを知っている。一昨日バイト中に紫陽花に告った男だ。

 彼女のバイト終わり、迎えに行った時に裏口で睨まれた。紫陽花を土日デートに誘ってたな……。


 紫陽花は男の腕を掴み、彼が向かう方へ付いて行く。街の騒音で会話は聞こえないが男がショップの紙袋を持っているから一緒に買い物をしているのかもしれない。


 声を掛けようか迷い、尾行すると二人はホテル街へ。

 そして男がラブボに入ると後を追うように紫陽花も入って行く。嫌がる様子はない。自分から進んで入って行った。


 俺は何故かわからないが、その瞬間をスマホで撮った。



 二人が入ったラブホの前に立つと看板に――。

休憩料 金最大3h/¥4,500~

フリータイム料金 最大12h/¥6,000~

宿泊料金 最大15h/¥8,900~


 どう見てもラブホテルだ。

 嘘だろ?見間違いか?


 俺はさっき撮った写真を開き女の顔を拡大する。

 紫陽花だ……。そもそも俺が彼女を見間違うわけがない。


 なんでだよ?朝まで一緒にいてそんな素振りは一切無かったのに……。


 もしかして……、紫陽花は自分が処女でエッチしてあげられなのを気にしていた。だから手っ取り早くヤリ慣れ男に捧げようってことか?

 いや……、そもそも全て嘘だった?

 あの子はたまに嘘を吐く。可愛い嘘でそんなところも大好きだった。でも、事実は今の状況。普段の嘘は氷山の一角で全てが嘘だった……。


 それはいくらなんでもないだろう……。


 ラブホの前でごちゃごちゃ考えていると二人が入って20分くらい経っていた。


 そうだ電話してみよう。メールじゃダメだ、いくらでも取り繕える。


 プルルル プルルル プッ!


 電話を掛けると直ぐに出た。


「もしもし」

『んぁッ… 有間さん…はぁ いま… ちょッ…嫌ッ いま取り込んでて、やめて……ま、またかけますね……はぁ はぁ』

「今何してるの?」

『一人で、ちょッ…買物ですよ……あッ』

 ――プッ!


 電話切られた……。

 つか今の声、絶対にヤってた。

 あいつとキスして、セックスして……ゴムはしてるのか?

 想像したら……気持ち悪くなってきた。頭がくらくらする。




 あれから2時間くらい経った。紫陽花から折り返しはない。


 俺はラブホ前の縁石に座り込んで動くことが出来なかった。まだ出てこないってことは3時間の休憩をフルに使っているか、12時間のフリータイムか……。


 入口の目の前にいるから、出てきたら彼女も俺に気付くだろう。

 それでどうする?何を話せばいい?

 紫陽花に無視されるかもしれない。一緒にいたイケメンに勝ち誇った顔で罵倒されるかもしれない。


 くっそ……。


 頭を抱え蹲ると、俺のスマホが鳴った。

 

 プルルル プルルル プルルル


 紫陽花か?セックス終わったのか?


 スマホを見ると下谷班長からだった。

 日曜日に会社の人から電話が掛かってくるとは先ず無い。つまり……。

 わかったぞ……全ての黒幕は下谷班長なんだな。これはドッキリだ!


「もしもし、有間です」

『あぁ、有間君、あのね……』

「わかってますよ、班長」

『えっ?わかってるの?まだ何も言ってないけど?君凄いね?』

「ドッキリなんでしょ?」

『えっ?ドッキリじゃないよ?マジだよ?』

「ドッキリって言ってくださいよ!?じゃないと俺……」

『え?なに?飲んでるの?わかってるなら説明は省くけど、お願い!広島行ってれないかな?急でごめんね』

「広島ぁ?どういうことですか!?」

『え?わかってないの?明日から一週間、井野君と東山田君が広島の第三工場に応援に行くことになってたでしょ?』

「出張の話ですか……新ラインの立上げですよね?」

『そうそう。それでね。東山田君が体調不良で急遽行けなくなっちゃって……有間君にお願いしたいんだよねぇ』

「そういうことなら……しょうがないですよね……」

『ほんと悪いねぇ〜。今すぐメールで詳細送るから』


 そう言って班長は電話を切った。


 スマホに届いたメールを確認すると、明日の8:30に広島の第三工場に出社と書かれている。それから予約してあるビジネスホテルや持ち物等……。


 明日の8:30ってことは東京駅から広島まで新幹線で4時間以上かかるから……今から一度帰って準備して直ぐに出ないと間に合わないじゃん!


 俺は紫陽花と男が中にいるラブホをチラッと見て首を横に降ると、駅へ向かって足早に歩いた。


 電車に乗ると紫陽花から電話が掛かってきたが……出なかった。





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