第24話 ブラホックを外す
《砂月紫陽花―視点》
この家に入ったとき、麻莉ちゃんが裸で寝ていて、有間さんがお風呂から出てきたから二人はエッチしたのだと思った。問い詰めたら麻莉ちゃんはそれっぽい感じで有間さんも否定しない……。
私の頭は疑問でいっぱいになった。
二人はどこで知り合ったの?何でそういう関係になったの?ずっと騙されていたの?私達は別れるの?
私と別れた有間さんが麻莉ちゃんと仲良く寄り添う姿を想像して泣いてしまった。
でも、ボイレコを聞いて事情はわかった。
私達はリビングのテーブルを前に、私がソファー、有間さんは床に座っている。
麻莉ちゃんが帰ると、有間さんは急に正座して私に向かって深く頭を下げた。
「砂月さん、ごめん!」
麻莉ちゃんのことは名前呼びなのに私は砂月さんか……。
「……」
私は謝罪を無視してプイっと背を向ける。
「俺はほんとダメなヤツだよ。砂月さんを傷付けた……」
「名前……、砂月さんって呼ばれるの嫌です。麻莉ちゃんは名前呼びなのに」
「……し、紫陽花……さん」
し、紫陽花さんだって……!名前で呼ばれると全然違う。
「さ、さん付けも、いらないです」
「
有間さんの低い声で名前を呼ばれ、私の体はビクリと反応した。
「い、一度だけですか?」
「え?どういう意味……?」
「名前、呼ぶの」
「えっと……、紫陽花……紫陽花、紫陽花……紫陽花、紫陽花……」
ヤ、ヤバい、名前呼ばれるの嬉しいかも。結構ドキドキする……。
「イカの……」
え?イカの?
「しおから」
しおからって!美味しいけど!
「バカにしてますか?……はぁー、じゃあ、カレー作りますね」
「……怒ってるよね?」
そう言われて有間さんを見ると凄く申し訳なさそうな顔をしていた。
「怒ってますよ。私が浮気したらどうするんですか?」
浮気なんかしない。そこまで男好きじゃないし。有間さんだけいればいいから。
なのに、なんでそんなこと言うの……私。
それにもう怒ってないし、ほんと素直じゃない、可愛くないよ。
「紫陽花が浮気したら……たぶん……情けなく焦って、喚いて、
情けない有間さん……ちょっと見てみたいかも。いつも冷静で大人だし。
「ふ、ふーん……じゃあ、やってみてください?」
「えっ?今やるの?」
「そうですよ」
「わ、わかった…………、俺とアイツどっちが良かったんだ?」
「意味がわからないです。ふざけてますか?」
すると有間さんは立ち上がり私の隣に座る。そして私に抱き付いてきた。体の大きい有間さんにすっぽり収まる。
暖かくて抱っこされると安心する。
「ごめん、浮気なんて想像したら胸が苦しくなって、君を俺だけのものにしたくて……、ほんと情けないよ……」
有間さんも私と同じで独占欲強いのかな?私はもう、あなたのものだけど……。
「私、浮気なんてしないですよ。有間さん次第ですけど……」
「これからは気を付ける」
「ほんとですか?」
「うん」
それから暫く抱き合っていると有間さんが。
「……キス、してもいい?」
「別に…いいですよ……」
そう言ってから顔を上げると有間さんと目が合った。優しくも真剣な瞳。目を閉じると。
「ちゅ……ちゅ……ちゅ…んっ……」
何度か唇を重ねると、有間さんの舌が私の中に入ってきた。
でも、昨日みたいな激しい感じではなく、私の気持ちを確かめるような優しい動き……。
私がまだ怒ってると思ってる?浮気するって思ってる?不安なの?
言葉を交わしていないのに、有間さんの気持ちが伝わってくるような気がした。
だから、私も有間さんを抱きしめる。大きな体を……。私も自分から舌を絡める。すると有間スイッチがONになった。
彼の動きが激しくなった。
「んっ、んんん」
激しいよ、有間さん、でも……好き。……大好き。どこにもいかないで……、私の気持ち伝わって!
《有間愁斗―視点》
砂月さん改め紫陽花が俺に抱き付き、積極的にキスをしてくれる。
俺のこと許してくれたのか?それとも気を使ってる?
わからない。わからないけど、砂月紫陽花という18年間生きてきた女の子が、こんなどうしようもない俺を受け入れようとしてくれている。それが嬉しかった。
愛おしい……なんて愛おしいんだ。
キスをしながら彼女の背中に回した手をTシャツの下から忍ばせる。
直に肌に触れた、この子の背中はすべすべで柔らかくて……、少し汗ばんでいた。
そのまま奥へと入っていくと手先が紐に当たった。ブラジャーの背中部分。ホックが付いていて触るとその形状がわかる。
「んっ」
俺は指でブラホック摘まみ、捻って外した。邪魔物がなくなり、背中全てを直に触れる。
紫陽花は嫌がるどころかキスが激しくなる。
このまま押し倒して、昨日送ってきたちょっとエッチな水着写真を見せて「これをネットにばら撒かれたくなかったら……分かるだろ?」とか言って襲い掛かれば拒否されない気がする。
俺はソファーに紫陽花を押し倒した。
「有間さん……」
紅潮した頬、潤んだ瞳、はぁ…はぁ…と漏らす吐息、ぷっくら膨らんだ彼女の唇の周りが俺の唾液で濡れている。そして、ブラがズレて
「エッチしたいの?」
「うん」
「んっ……、でも……今日は……ダメ」
「どうして……?」
「…………麻莉ちゃんが……裸で寝たベッドで、するの嫌」
そう言われて俺は冷静になった。
麻莉ちゃんのことで、今さっきこの子を傷付けたのに、俺は自分の欲望を抑えきれなくなっていた。……なんて都合のいいやつだ。最低のクソ野郎だ。
「ごめん。……シーツ洗うね」
俺はソファーに座り直した。紫陽花も起き上がる。
「……私、お昼ご飯作りますね」
「う、うん。洗濯終わったら手伝うよ」
「わかりました」
立ち上がった彼女は髪を束ねポニーテールを作る。
「そう言えば、借りたボイレコって後で聞くの?」
「それもあるんですけど……、有間さんの発言を保存しておこうかなって、えへへへへ」
俺の発言って、「孕ませる」とかそういうやつだよな……。
「ほ、保存してどうするの?」
「んー、喧嘩した時に聞いてもらったり、親に聞かせたり?」
「……」
……終わった。
「う、嘘ですよ。その……、嬉しかったので、後で何回も聞けるように……」
「そ、そっか……」
どの辺が嬉しかったんだ??キモいだけだったが……。
それから俺は洗濯を、紫陽花はカレーを作った。
彼女、料理は普通に上手くて肉は鶏もも、人参、玉ねぎ、じゃが芋の他にトマトやしめじが入ったカレーを作っていた。途中俺も手伝って皮むきや調理器具を洗ったりと二人並んで楽しく笑いながら作業した。
できたカレーも激うまで感動した。
なんだかんだでバイトの時間になり、家を出る時、玄関で。
「有間さん……んっ」
すっかり機嫌を直した紫陽花は唇を差し出す。
「ちゅ」
俺は軽くキスをする。
「バイト頑張って」
「はい!また連絡しますね。ふふふ」
真夏の暑い日差しに照らされた昼過ぎ、彼女は太陽の様な笑顔と共に出掛けて行った。
つか、外暑過ぎだろ。熱中症とか心配だな……。
◆
これで一件落着と思いきや、それから暫くして俺のスマホが鳴った。
開くとLINEが来ている。だれからだろ?
麻莉【しお帰った?】
麻莉ってあの下ネタさんだよな?
有間【なんで俺のLINE知ってるの?】
麻莉【――音声データ――】
麻莉【この部分は昨日寝る前にカットしたんだぁ~。シュート君が途中で座っちゃったときの会話だよ】
送られてきた音声データを再生する。
――ボイレコ――
『でも俺は砂月さんを幸せにできない……かもしれない』
『どうして?』
『記憶が消える……アプリ』
『アプリぃ?なにそれ?』
『俺はバカだ。砂月さんの記憶が消えたら……どうしよう』
『ふーん。よくわからないけど、シュート君LINE交換しよ』
――――
麻莉【これってもしかして、アメリカでちょっと話題になった催眠アプリ?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます