第19話 Gカップの破壊力


《下仁田麻莉子―視点》



「あれぇー、有間さんじゃないですかぁ〜?ええ〜すご〜い、偶然ですねぇ〜」


 あたしはキュルキュルのメス声で座敷の端に座る有間に話し掛けた。


「え?だ、誰でしたっけ?」


 何で覚えててねーだよ!アホなの?三歩歩くと忘れる鳥人間なの?


「えぇ〜、いやだ〜、さっき〜ショッピングモールで会ったじゃないですかぁ〜?」


 そう言えばコイツ、殆どあたしのこと見てなかったな。


「ああ、砂月さんの友達の……」


「しおちゃんの親友でーす。覚えてないとか、酷いですよぉ〜。麻莉ショックで泣いちゃいますぅ。そんな有間さんに麻莉がここに座って意地悪しちゃいますね〜」


 で、強引に有間と隣のオッサンの間に体をねじ込んだ。狭いからぴったり密着している。


「えっ?ちょっ、困るよ」


 有間ヒヨっててウケる〜、ざーこ。よく顔を見ると普通だな。どこにでもいる陰キャっぽい感じ。しおって短大に入ってかなり可愛くなったと思うけど、何でこんな顔面偏差値平均なヤツと付き合ったんだ?理解できん。


 あたしが座ると、この座席の男達全員があたしの顔を見て、それからこのGカップの胸を凄く熱い視線で凝視しした。

 ふふっ、さっき男にフラれたけど、こう見えてあたし、学校で1位2位を争う美少女だったし、そしてこのパイオツよ!今日は谷間が見えるVネックのノースリーブ、体のラインがもろにでる服。……有間終わったな。


「ええ?いいじゃないですか~。今日ドタキャンされちゃって麻莉、一人なんですぅ~。寂しいなーって思ってたら知り合いいて嬉しくてぇ~。麻莉、可哀想ですよねぇ?」


「いや別に」

「は?」

「と、とにかく困るから、自分の席に戻って」

「やだな~、ちょっとくらい大丈夫ですよ~。すぐ帰りますから~」

「いやダメだよ」


 こいつ、しばいたろか?


「もぉ~有間さん冷た~い。麻莉泣きそうになってきたぁ〜」


「おい有間!いい加減にしろよ!」


 反対の席に座るオタクっぽい30代が有間を睨んだ。男は続けて。


「麻莉さんが可哀想じゃないか?ちょっとくらい相手してやれよ!」


「東山田さん……でも」


「有間君ッ!」


 続けて上座に座る60代っぽい禿げたオッサンが叫ぶ。


「はい!椎茸課長!」


 課長?ふーん、この人が一番偉いのかな?


「今日は無礼講だから大丈夫だよ」


 と課長はにっこり笑って言う。

 勝った。あたしの完全勝利。有間ざまぁ~w


「いえ、流石に申し訳ありませんので、帰します」


 いや、なに断ってんの?意味わからん!お前あれか?心が氷で覆われたタイプの冷酷人間なのか?

 と、その時――。


「お飲み物お持ちしました」


 店員さんがお盆に大量のお酒を乗せて持ってきた。


「あっじゃぁ麻莉がぁ、皆さんに配膳しますね~」


 あたしは有間を無視して席を立ち、お盆を受け取ってオッサン達に酒を配って回る。


「ゆっくりしていってね~」「ありがとうございますぅ~(笑顔)」

「有間の彼女なの?」「違いますよ~(笑顔)」

「彼氏いるの~?」「さっきフラれちゃいました~(笑顔)」

「おっぱい大きいね~何カップ」「Gカップですぅ~(笑顔)」

「おっぱい触っていい~?」「死んでください(笑顔)」


 で、あたしは席に戻る。


「有間さーん。これで麻莉の相手しきゃいけなくなりましたね?」


 すると有間は溜息を吐いた。


「はぁー先輩方がいいなら、まぁいいか」


 なんでお前が上から目線なんだよ。

 あたしは有間の隣に座り、体をぴったりくっつける。それから彼の耳元で周りに聞こえないよう囁く。淫らなメス声で。


「有間さんだけぇ、特別に麻莉の胸、触ってもいいですよぉ?触っちゃいますぅ?」

「え?あ、いや……」


 おっと、動揺してるぞ有間。あたしは更に追加攻撃を加える。


「ここじゃ恥ずかしいからぁ、トイレで触りますぅ?」


 ここで一気に畳み掛けてイニシアチブを握ってやる。


「いや、ごめん。……俺、全く興味ないから触らなくていいよ。せっかくだけどごめんね」


 あ、なんかもう、面倒くさくなってきた。


「有間さんって下の名前はなんて言うの?」

愁斗しゅうとだけど……」


 シュート?だから紫陽花しおかにシュートしたわけか。コノヤロー!


「じゃぁ愁斗君」

「馴れ馴れしいなぁ、いてっ」


 あたしは有間の頭を軽くどついた。


「なに?愁斗君はさ、貧乳好きなの?このデカパイを前にして冷静過ぎでしょ。普通、ひざまずくんだけど、普通のムラついたオスならば」


「話し方変わってない?お、俺はCカップくらいが、好きなんだよ」


「それ紫陽花じゃん」


「砂月さん、Cカップなの?」


「高3のときはね。今はもう少し成長してるかもだけど。つか、何であたしに冷たいのよ?意味わかんない。あたしこれでも結構モテるんですよ」


「ああ、そうなんだ。いや俺、女の子が苦手だから」


「ホモなんですか?あたしBL好きですよ。BL読んでいつもムラムラしてるんで」


「まぁ、あれだよ。俺が好きなのは砂月さんだからさ」


「ふーん。キッモ。あたし結構モテるから、学校でも特にモテる男とばっかり付き合ってて、だから女からはめっちゃ嫌われてるんですよ。ぶっちゃけあたしの女友達、紫陽花しかいなんですよ。わかります?」


「いや全く」


「はぁー、バカなんですか?とにかくあたしのデカパイ揉んどけってことですよ。そしたら紫陽花に秒でバラして、そしたら流石に愁斗君フラれるでしょ?」


「え?そんなこと考えてたの?胸には全然興味ないけど、間違えて触らくて良かったー」


「興味ないって、あのですね!このデカパイは、物凄く破壊力があるんですよ?昔付き合ってた男がこの乳でひっ叩いてくれって言うから、体をこう捻ってね、こう遠心力を利用した鋭い動きです。で、バチンって顔に乳をぶつけたら、ソイツ吹っ飛んで。あはははは。思い出したら笑っちゃった。あはははは」


「破壊力って物理的にって意味なんだ。凶器じゃん。こわ」


「満員電車とかでオッサン吹っ飛ばしますからね、ふふふふ。あぁー面白い」


「まぁでも、砂月さんに君みたいな明るい友達がいて安心したよ」


「君?あたしのことは麻莉ちゃんって呼んでください」


「苗字は?」


「下ネタみたいな名前だから秘密。ほら、麻莉ちゃんって呼んで」


「いや、今名前呼ぶタイミングじゃないし」


 有間は嫌そうにしている。


「いいから、ほら早く、ほら、言っちゃえよ。いやらしい声でさ」


「そんな声出せないって、ま、まま、麻莉ちゃん」


「いや、動揺しすぎでしょ。ザコシュート、よわ。ふふふ」


 まぁ悪い奴じゃなさそうね。信用はしないけど。


「つまり、俺と砂月さんが仲良くしてると、麻莉ちゃんが砂月さんと遊べなくなるってこと?」


「ちょっと違うかな。精神的な話。紫陽花は今まであたしに依存してたのに今は愁斗君に依存してる。あたしは絶対にしおを裏切らないけど、愁斗君は裏切るかもしれないでしょ?」


 その時、あたしのスマホが鳴った。


「ごめん、電話出るね」



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