第18話 オナホ扱いされるのは嫌じゃない



《砂月紫陽花―視点》



「え……?何で麻莉ちゃんが…………知ってるの?」




 麻莉ちゃんはにっこり笑ってから口を開いた。


「鍵、あたしが隠したんだよ……」

「え?意味わかんない、どういうこと?」

「しおがトイレに行った隙にバックから取ったの」


 薄っすら笑みを浮かべていて悪びれた様子はない。

 麻莉ちゃんを全く疑っていなかった私は混乱した。


「ヒドイよ……何でそんなことしたの!?」

「彼氏と喧嘩して欲しかったんだ……しおって純粋だから、男の嫌な部分も知って欲しかったの」


 意味わかんないよ!さっき、鍵失くしたと思って泣きそうになって……、でも有間さんがずっと頭撫でながら大丈夫だよって言ってくれた。喧嘩なんかしなかった。有間さんはそんなことじゃ怒らなない。麻莉ちゃんは頭いいけどバカだ。


「残念だったね。むしろ優しくしてくれたよ」

「そっか……大人だから他人の体裁を保つのが上手いのかもね」


 そうかもしれないけど……、でも、そうじゃないんだよ。有間さんは私にだけ優しいの!私のこと大好きなの!大輔じゃなくて大好きなの!

 私は「ふっ」と鼻で笑ってから。


「麻莉ちゃんは何もわかってないよ。有間さん超優しいよ」

「そんなの表面だけだでしょ。有間って人、絶対に浮気するから。ナンパなんてする奴、女たらし、遊び人、女の敵……、そういうものなんだよ。裏切られた時、ショックで立ち直れないよ」

「だから、そんなことしないもん……、有間さん童貞だし!」


 たぶんだけど……、でも童貞だよね。普通に考えて童貞でしょ。


「じゃぁ『君が可愛すぎるのがいけなんだー』とか『お仕置きしてやるぅー』とかキモいこと言って、しおに襲い掛かってくるかもよ?」

「そんな変なこと言うわけないじゃん!」


 ――その頃、有間はくしゃみをしていた。


「とにかく、信じちゃダメだよ」

「麻莉ちゃんには……関係ない」


 私は怒っていた。鍵を盗まれたことにもだけど、有間さんがバカにされているような気がして腹が立った。


「浮気されたら自殺するって、しおが言ったから心配したんじゃん」

「だから何?ほんとどうでもいいよ。今すぐ鍵返して!」

「しおは、私と彼氏どっちを信用するの?」


 そんなのどっちも信用してるよ。麻莉ちゃんとはたまに喧嘩もするけどずっと友達だった。選べるわけないじゃん。


「……彼氏」


 でも、私はまた意地を張って嘘を吐いてしまう。麻莉ちゃんはそんな私を冷たい目で睨んだ。


「そっか、じゃあもういい。鍵はしおんちの玄関の花瓶の裏にあるよ」


「……わかった」


 無愛想に返事をして振り返る。麻莉ちゃんの言葉を待たずに歩き去った。

 なんなのあの子……、もう知らない。バーカ!バカバカ!!麻莉ちゃんのバカヤロー!


 急いで帰宅し、すぐに玄関の花瓶をずらす。すると鍵があった。

 取り敢えず鍵が見付かって嬉しくなった。


 胸の前で鍵を両手で握りしめる。口元は嬉しさで笑っている。


「ああ、よかった……。これで有間さんの家に不法侵入できる……ぷ、ふふふ。まぁそんなことしないけどね。ふふ」


「あんた、何笑ってるのよ。キモいわね」


 お風呂から出てきたお姉ちゃんに目撃されてしまった。





下仁田麻莉子しもにたまりね―視点》



 しおと別れて駅の反対口にある居酒屋の前で彼氏にLINEした。


麻莉【着いたよー。もうお腹ペコペコだよーw】

まり彼【少し遅れるー。先入ってて】

麻莉【はーい。早く来てよねー】




 先に店に入りテーブル席に座り、お酒と軽いおつまみを注文した。


 あたしは紫陽花しおかのことを考える。


 彼氏ができるまでは、いつもあたしに頼ってきたのに……。


 鍵を隠したあたしも悪いけどさ。

 ぽっと出の、どこの馬の骨とも知れない男をだよ、この幼馴染、麻莉さんより信用するってどうなの?有間に洗脳されたの?


 あの子、ほんと純粋だからすぐに人を信用しちゃうんだよなぁ。男なんて、からかって適当に付き合うくらいが一番楽しいのに……。まぁそんなこと、紫陽花に言っても「麻莉ちゃんは何もわかってないよ」とか言うでしょ、どうせ。あー面倒くさ。


 紫陽花は人の話聞かないところあるからな。そう言えば昔から頑固なとこ、あったよね……。



 30分くらい一人で飲んでた。彼氏からは連絡が来ない。

 アイツ何時に来るんだよ。LINEしてみるか……。


麻莉【もう飲んでるよ。いつ来るの?】


 暫く待っても返事が来ない。あたしは彼氏に電話を掛けた。


「もしもし」キレ気味

「やべっ!電話出ちった。(誰ぇ〜?元カノぉ〜?)し!……ああ、麻莉?ごめん。今日行けなくなった」


 電話の向こうでメス声が聞こえる。コイツ女といるの?

 つかさ、来れないならもってと早く言えよ。店入らなかったのに!


「ねぇ?どうして来れないの?どうして?なんで?」キレ気味

「ああ、いやー、ちょっ、今立て込んでて(あははは、うっける〜、電話切っちゃえ〜)」


「誰といるの?」


「えっ………………、新しい……、彼女だけど……?」


 ふざけんなよ!

 あたしの彼氏はカッコいいって有名で女の子に凄く人気があった。でもコイツ、最悪だ。あたしにしつこく言い寄ってきたら付き合ったのに。


「さよなら、先輩」


 問答無用で電話を切った。

 すると彼からLINEが来た。


まり彼【俺、巨乳好きだからお詫びに今度セックスしようぜ】


 女をオナホとでも思ってるの?まぁあたしドMだからオナホ扱いされるのは嫌じゃないけど、これはないなー、無理だわ。でもカッコいいから付いてく子もいるんだろうな……。


「はぁ……もういいよ」


 コイツが一番気にしてること言って縁切ろう。


麻莉【今まで遠慮して言わなかったけど、先輩の短小包茎ち〇こ微妙だからエッチ気持ち良くないんだよね。なので無理です】


 返信は来なかったけどブロックした。

 エッチの時にいつもザコち〇こ隠してたし、小さいのかなり気にしてるぽかったから傷付いたかな?

 大学で見掛けても距離を取ろう。


 紫陽花の彼氏は優しいらしいし、コイツよりははるかにマシだと思うけど、でもこれが男の本質だよ。絶対に浮気心はある。子供を産む女と産ませる男、生物的に違うんだよ。



 一人落ち込んでいると奥の座席で「うおおおおおおお」というオッサンの叫びが聞こえた。

 さっきから煩い席だ。


 男同士って楽しそうよね……。


「有間ッ!酒頼んでくれーッ!」

「はい!」


 耳を澄ますと有間という単語が聞こえた。

 あたしは聞き耳を立てる。すると騒ぎ声の中に有間って呼ばれてる人がいる。


 席を立って座敷を見に行くと、さっきショッピングモールで見掛けたしおの彼氏、有間がいた。男15人くらいで宴会をしている。有間以外全員オッサンだ。

 会社の集まり?


「へぇー、面白う。今ヤケになってるし……、凸っちゃおっかな」


 男なんてちょっとその気にさせればすぐに浮気する。有間が簡単にあたしとヤったらしおだって眼覚ますでしょ。


 あたしは念のためボイレコの電源を入れた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る