第20話 胸の先端が見えそうだ



《下仁田麻莉子―視点》


 その時、あたしのスマホが鳴った。


「ごめん、電話出るね」



「もしもし」


『おいっ!……てめーぶっ殺すぞ!』


 ドスの利いた低い怒鳴声。さっき別れたアイツだ。


「こ、怖いよ。そっちが悪いんでしょ!テストのお疲れ会ドタキャンして、他の女と遊んで。何で麻莉が怒られるのよ?」


『ア゛ァ?女にお前のLINE見られてよ。彼氏は巨根前提だって帰っちまったんだよ。お前のせいだろうが!』


 うわ、短小バレてフラれるとか可哀想。

 あたしは大きさなんて気にしい。ちゃんとあたしのこと好きなら。でも中にはそういう子もいるよね。


「LINE見せたのが悪いんじゃん?バカなの?」


『見られたんだよ。つかさ、今ラブホにいるんだけど、ラブホ代払ってくんね?』


「はぁ?頭おかしいの?湧いてるの?払うわけないでしょ」


『お前のせいでヤれなかったんだぞ、お前が払うのは当然だろ?』


「当然じゃないでしょ!つか、麻莉との約束すっぽかして他の女とラブホ行くって……ほんと最低だよね。もう別れたんだから連絡してこないで!」


『あっそ、じゃぁ今からお前んちに追い込み掛けに行くわ。逃げんなよ!逃げたら大学でダチとお前攫ってマワすからな!?』


 恐い……、どうしよう……、こんなヤバいヤツだったの……?ファミレスで気の弱い店員を虐めたり、煽り運転したり、ちょっとキレやすいとは思ってたけど……。

 このままだと、学校辞めなきゃいけない?親に迷惑掛けちゃう。

 あたしの味方は……、紫陽花に酷いことしたし、誰もいない。


 コイツに謝ろう。体でもなんでも許して、これ以上大事にさせないように……。


「ご……ごめ、」

「貸して」


「え?」


 スマホ、有間に取られた……。


「あーもしもし」


『ア゛ア゛誰だ、てめー!?』


 通話のボリュームが大きいから、スマホから元彼の声が聞こえる。有間もあたしの会話聞いてたのか……。周りを見るとオッサン達も聞き耳と立てていた。


「俺は有間悠斗、25歳。三丸伊勢食品第九工場機械化課に勤めている。出身は宮城県だ」


 有間が名乗ると宴席のオッサン達がケラケラ笑い出した。楽しそうに酒を呷るオッサンもいる。


『何で自己紹介してんだ、きもちわりーなー。麻莉に代わってくんね?』


「それはできない。さっきあんたが言ってた追い込み掛けるとか攫ってマワすって脅しは、十分犯罪になる。これから彼女と警察に被害届を出しに行くともできるぞ?」


『てめーは関係ねーだろうが?ふざけんな!コラッ!いいから代われって!』


「いや、関係ある。麻莉ちゃんは俺の大切な人の親友だからな。あんたが麻莉ちゃんに手を出すなら俺は何度でもこの子に味方する。でだ、被害届を出す前に一言言わせてくれ。……女一人幸せにできないなんてダセーぞ」


 有間……なよなよしてるって思ったけど……なによ、こいつ……。


「有間、代われ」


 あたしの前に座ってる目付きの悪いオッサンが有間に手を伸ばした


「井野さん……はい、どうぞ」


 有間はスマホを渡す。


「あーもしもし、俺は井野忠史いのただふみ、36だ。俺も麻莉ちゃんの友達な。で、あんたいくつ?」


 めっちゃ低い声でイケボ。貫録というか威厳のある声。


「あ?二十歳はたち?ガキじゃねーか。今から追い込み掛けに来るんだろ?居酒屋にいるから来いよ?なんならお友達も連れて来い。話そうぜ?

 ……………………、ん?来ない?なんだよ。来いよ。つまんねーな」


「井野君、代わってもらっていいかな」


「下谷さん……、おう、ちょっと代わるわ、ちゃんと来いよ」


 今度は隣のオッサンにあたしのスマホが渡った。


「もしもし、僕は下谷徹ね。歳は58歳。さっき君が話した有間君や井野君には僕から穏便に済ますよう言っておくから、

 ……………………うんうん、君も大事にしたくないよね?

 ……………………うんうん、警察沙汰になんてなったら人生台無しだもんね。親御さん悲しませるし。

 ……………………うんうん。

 ……………………そうだね。若い時はそれくらい元気があっていいけど、超えちゃいけないラインがあるよ。

 ……………………うんうん、わかってるじゃないか、若いのに偉いよ……」


 それからあたしのスマホは更に3人のオッサンを経由して、あたしの手元に帰ってきた。


「もしもし、麻莉だけど」


『あ、下仁田さん、さっきはすみませんでした。俺、心を入れ替えて、皆を笑顔にできるような社会貢献できる大人を目指します。もう下仁田さんには関わりません。本当にごめんなさい』


「わ、わかればいいのよ?そ、それじゃね。さよなら……」


 あたしは電話切った。すると有間が。


「余計なことだったらごめん。でも放っとけなくて……、何かあったら砂月さん経由でいいら相談してくれよ」


「……ありがとう」


 あたしは勘違いしていた……。有間、かっこいいよ!超かっこいい!!



 それからあたしは、有間にちょっかい出すのを止めて、オッサン達の席を回り皆と飲みながら騒いだ。







 翌朝、日曜日――。



《有間愁斗―視点》



 彼女ができた嬉しさと記憶の消えるアプリの不安から俺は浴びるように酒を飲み、珍しくベロベロに酔っぱらった。家に帰った記憶はないが、目を覚ますと自宅リビングのソファーで寝ていた。


 砂月さん何時に来るんだろ?

 スマホの電源を入れる。

 もう9時か……。ん?LINEが来てるな。砂月さんからだ。


しお【有間さんに報告があります。でも驚かせたいのでまだ秘密です。明日会ったときに話します】


 報告?なんだろう?旅行のことかな?

 更に下にスクロールすると……。


しお【もう寝ちゃいましたか?】


しお【写真撮ったので送ります】


【水着の画像】


【水着の画像】


 全身鏡、スタンドミラーにスマホ向けて撮った写真、撮影したスマホが邪魔で顔は見えないが砂月さんのスタイルの良い綺麗な体が全て収まっている。

 エッロ、いやこれエッロ!凄くエロい体してるぞ!


 あれ……更に下に写真がある……スクロールすると。


【エロ画像】


 水着姿を斜め上から撮った写真。ビキニを指で摘まみ少し捲っている。ビキニがはだけて胸の先端が見えそうだ。柔らかそうな砂月さんおっぱいが谷間を作っている。


 え?こんなの見せて俺をムラムラさせて、俺にどうなって欲しいんだよぉー!?

 と、取り敢えず砂月さんが来る前にこの画像でシコ……。


 と思ったら、隣の寝室からガサッと音がした。


「誰かいるのか?」


 扉の隙間から寝室を覗くと、女の子が俺のベッドで寝ている。それもパンツ一枚……。夏で掛布団がないから肌が丸見えだ。枕を抱いていて胸のとんがりコーンは見えない……つか滅茶苦茶巨乳なんだが。


 あれ?ここ自分の家だよな?

 俺は一旦離れ玄関を開けて表札を見る。「205 有間」とマジックで書いてある。間違いない俺の家だ。


 そして寝室を覗くとやはり女が寝ている。

 俺はこの子を知っている。昨日の飲み会に凸してきた子だ。砂月さんの友達で……名前なんだっけ?



 女は寝てるし、取り敢えず風呂に入ることにした。


 で、シャワーを浴びていると――、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。続けて。


「砂月です」


 ちょちょちょちょちょっと待ってくれー!!!!

 状況を整理するんだ。俺は風呂で全裸、寝室にはパンイチの爆乳!

 詰んだ……?いや、まだだ!まだ終わってない!

 砂月さんは合鍵を無くしている。さっき表札を見た時に、癖でドアの鍵は締めたから部屋には入れない。


 首の皮一枚残っている!




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