第6話 問題はこれから
《有間愁斗―視点》
どうせならこんな可愛い子と手を繋いでみたい!ここは攻めるタイミングでは!?
「あのー、砂月さん、手を……(繋ぎたい)」
「てを?え?どうしたんですか?」
「あー、いやー……」
「んん?」
最後、声小さくなっちゃった!恥ずくて言えないって!
そもそも今日初めて会話した相手だぞ。嫌がるに決まってる。断られてこの後ずっと気まずくなったら地獄だぞ。
いやでも待てよ。洗脳アプリの力で俺の頼みは断れない。どんなに嫌でも従う。でもそれってどうなの?
まぁいい、とにかく言うんだ。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うじゃないか。聞くだけ聞いて嫌そうならやめよう。
あー、めっちゃ緊張するぅ。超緊張する。
昨日スーパーで彼女にアプリ見せた時もこんな感じだったな。
「砂月さん、よ、良かった手、繋がないでみない?」
「えっと…………はい。べ、別にいいですよ」
え?いいの?ヤバ!
俺が手を差し出すと彼女はそれを摘まむ。
俺はその手を軽く握り返す。
すると彼女も俺の手を握った。
「は、恥ずかしいですね。やっぱり有間さんってエロい」
確かに結構恥ずかしいぞ!
しかし、頬染め微笑む彼女は満更でもなさそうに見える。嫌がってないよな?嫌だけど言えないってパターンもあるが。
「嫌だったら速攻放すから。つか乱暴に振りほどいて」
「べ、別に嫌じゃないですよ。あっ、先進んだから行きましょ」
と彼女は俺の手を引き歩き出した。
これ絶対、アプリのお陰だよな。こんな可愛くて性格いい子と手繋いで歩けるとか、あり得ないでしょ。
この後も順調にランド内を回った。
そして何度か手を繋いだ。アトラクションに乗る時や何かを手に取る時、自然と手を放すが、暫く経って、俺が彼女の手を捕まえると彼女も握り返してきた。それで「私の手、熱くないないですか?」とか、「手繋ぐの好きですね」とか「有間さんて大人なのに甘えん坊ですね」とか色々言われたが、「手放そうか?」と返すと「別に手繋ぐの嫌じゃないです」と言われた。
砂月さんは手を握ると無言になり顔を見れば視線を逸らす。
嫌がっているのか恥ずかしいのか判断できない。
ただ、俺の勘違いかもしれないがお互いの雰囲気は良いように感じた。
――――
俺達は一日中遊んでランドを出た。
帰りに何か食べたいか聞いてみると、遅い時間帯は食欲が低下するらしく。でも俺が食べたいなら一緒に行くと言われた。
一人むしゃむしゃ食べるのは気が引けるし、帰ってツマミとビールで済ませたくもありこのまま帰ることになった。
帰りの車――、俺はビルの谷間を抜ける夜の首都高を走る。
横で砂月さんが気持ちよさそうに寝ている。疲れたのだろう。
今日は上手く行ったと思う。砂月さん楽しそうにしていたし、何より俺が楽しかった。
問題はこれからだ。
連絡先を聞いてだらだら関係を続けても長続きしない気がする。彼女から返信がなければ俺もしつこく連絡できない……。
つまり、自然消滅するか、付き合うかの2択になるのか。
今日遊んでみて性格はかなり良さそうだった。というか俺に合っていた。一緒にいても気疲れしない相手。そんな感じだった。
そしてもう一つ、更に大きな問題が。
あのアプリだ。これがアプリの効果なら、俺は不当に彼女の時間を搾取していることになる。
しかし、あのアプリは命令に従わせることはできても思考や感情は操れないらしい。今日の彼女は万更でもないというか、むしろ楽しいそうに見えた。
ならこのまま続けていいのか?
いや、だめだ。
家に帰ったらあのアプリは消去しよう。彼女を騙しているようで、こんなのとても続けられない。
ただそうすると、今日の記憶が消えるかもしれないんだよな……。そんなことあるのか?にわかには信じがたい。
でも、それで砂月さんの記憶が消えたらそれまでだよな。
なら連絡先は聞かない方がいいだろう。記憶は消えてもスマホに履歴は残る。
あと10分くらいで家に着いてしまう。
俺は決断しなければいけない。
《砂月紫陽花―視点》
目が覚めるともう家の近くだった。寝てしまったことが恥ずかしくなり横を見ると有間さんが私に気付いたのか「もうすぐ着くよ」と言われた。言い方が凄く自然な感じで、だから恥ずかしさも消えていった。
今日は思っていたより楽しかった。
有間さんは話し易くて一日中、ずっと自分のことを喋っていた気がする。今思えばウザい女よね……。思い返すと自分が嫌になる。
手を繋ぐのも別に嫌じゃなかった。
有間さんって見た目も性格も大人のくせに甘えん坊だと思った。
連絡先、まだ交換してないのよね。しないつもりかな?忘れてるってことはないよね?
も、もしかして、私が微妙だったからもう遊ぶつもりない?
朝6時に起きて気合い入れて準備したけど……。
服装は普通だし、スニーカーだし、お化粧も下手くそでバイトあるからネイルもしてない……、もっと可愛い感じとか、逆にお姉さんぽい感じが好みだったのかな?
それか、お喋りな女が苦手だった?
私は楽しかったらまた遊んでみたいけど、有間さんはどう思ってるんだろう。
それにもっと仲良くなったら付き合ったりすることもあるよね。
私合コン行かないし、女子大だし、職場で出会いも見込めないからどうしようかと思っていたけど……。
有間さんは、性格優しい、話し易い、ちゃんと仕事してる、ちょっとエロい、見た目かっこいい。
ちょっと待って!……完璧か?実は超優良物件!
そろそろ家に着いちゃう。
すると有間さんは住宅街で急に車を停めた。
私の家からは駅の反対側、徒歩15分くらいの場所。
「近く通ったから一応教えておこうと思って」
と有間さんは窓の外を見ながら落ち着いた感じで言う。
「あの?」
「ここ俺が住んでるアパート、205だから2階の一番奥だよ」
「え?ウチからめっちゃ近いじゃないですか。しかもこの辺友達も住んでるし、小学校の通学路だったから昔からよく来てましたよ」
「あ、じゃぁ花丸小学校だったの?」
「はい、そうですよ。私、生まれも育ちもここですから」
んん?これはまさか家に来いって話?まだ10時前だし、ちょっと寄るくらいなら別にいいけど……、押し倒されたりしたらヤバいよね?
彼氏できたことないからわかないけど、ヤッてから付き合う子も多いみたいだし普通なのかな?でもちょっと恐いかも。
「地元って言ってたよね。俺この町好きだし、最近は第二の地元になりつつあるよ。じゃぁ家まで送るね」
そう言って有間さん車を発進させた。
「あの!どうして家教えてくれたんですか?」
「ん?まぁ何となくだけど、近く通ったし、朝、砂月さんの家を教えてもらったからかな?ごめん、寄り道して」
「いえ、私もっと遅くても平気ですから」
「…………」
って、これじゃ私が誘ってるみたいじゃん!
とんでもないことを言ってしまったことに気付き、有間さんの顔を見ると有間さんもこっちを見ていて目が合った。いや、運転中、前見て!
すぐに視線を逸らしたけど気まずい。
お互い無言のまま、朝寄ったミニストップの駐車場に車は停まった。
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