呪いと魔女の下僕(2)
エイナードの寝室へと入る。彼はベッドで横になっており、いつもは入室後すぐに来る声掛けもなかった。
サイラスさんに目で問う。それに無言で頷かれ、私はエイナードがいるベッドの側へと歩み寄った。
「……ユマ様?」
高熱が出たり逆に体温が
息を吸って吐く、生きるものにとって当たり前のことが、今の彼には大きな試練として立ちはだかっている。そう思えてならなかった。
「こんな場所までご足労いただき……」
「エイナード、無理に話さないで下さい」
「症状の進行に……波があるのです。経験的に……明日はまた、座って話せるように……なるかと」
苦しげに話すエイナードは、それでも私に微笑みを向けていた。そんな彼の気遣いに、余計に胸を締め付けられる。
彼は経験的にと言ったけれど、これまでそうだったとしてそれは絶対ではない。そしてそのことは、誰よりエイナード本人がわかっているだろう。このまま悪化する可能性もある……いや、寧ろその可能性の方が高いのだということを。
エイナードの様子から行って、私がここへ案内されたのはおそらくサイラスさんの独断。彼もまた最悪の事態を想定し、『最期の願い』を意識したからこそ、私をこの場へと連れてきたのかもしれない。
「ユマ様?」
「今日は……私の方でエイナードが好きそうな動物を選びますね」
サイラスさんに椅子を用意してもらい、私はそのままエイナードの
彼が好きそうな動物にすると言った時点で、喚び出す動物は決まっていた。
書庫で一番読まれた形跡のあった絵本。少年が主人公の冒険もので、その相棒となっていた動物が意外だったため、私も強く印象に残っていた。
(一角兎が実在する世界なんて、さすがに異世界ね)
ペン先を紙に付ける。
兎のふわふわ感に細心の注意を払いつつ、それでいてなるべく速くペンを動かして行く。
エイナードが好んで読んだ本、そう考えるとつい特別に思えて。他の本とは違ってその本は、私も数回読んでいた。
そのうち彼が絵本の存在を思い出して、リクエストしてくれるのではないか……そんな想像もしていた。だから見本がこの場に無くても、描ける自信がある。
迷いなく描き進め、最後に一角兎の特徴である角を額に描き入れて、私は紙からペンを離した。
いつものように私が描くところを眺めていたのだろう、こちらを見ていたエイナードと目が合う。
美しい、アイスブルーの瞳。初めて出会ったあのときから、いつでも真っ直ぐな眼差しで私を見ている瞳。
呪いに苦しむ今もなお、その瞳は決して
この瞳が好きだと思う。何度見ても見慣れなくて、胸が高鳴るから。
そしてその理由はきっと、私がこの瞳を持ったエイナードを好きだと思っているから……なのだろう。
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