第13話 同級生

「やっぱり山田君だよね?」


「そうだけど…」


 片澤の試着を待っている傍ら、手持無沙汰になっていた俺が店の入り口付近で突っ立っていると突然声を掛けられた。


 メイクや服装のせいか随分雰囲気が変わってはいるものの、色黒の肌に特徴的な八重歯。気温はもう冬並みだというのに惜しげも無く露出された脚や腹部からは、一切無駄な脂肪を感じさせない。この如何にもスポーツ少女然とした彼女は、間違いなく真尋の友人である立川芽衣だった。その背後には当時陸上部だった女子も居る。


「やっぱり!?ちょっとだけ面影あるなーとは思ってたんだけど、正直雰囲気変わり過ぎてて勘違いだと思ってたんだよねー」


 やや興奮した様子で立川が話すと、それに続いて後ろに居たメンバーも口を開く。


「そしたら試着室から大地大地って聞こえるからさ、やっぱり山田君だ!って」


「はぁ…。それで?何か用でもあんの?」


 立川達と俺はぶっちゃけ仲が良いという訳でもなかった。彼女たちはその持ち前の溌剌さと、運動部であるという事も相まって学年でも人気者の部類に入っていたのだが、一方の俺はどこにでも居るなんか冴えない男…、というタイプだった為、真尋を介しても特に接点は無く、特段話した記憶も無いしむしろ避けられていた様な気さえする。


 そんな奴に街中で会ったとしても態々声を掛けるだろうか?等と考えていると、先程の発言から何かを察したのかやや気まずそうに立川が言う。


「いや~そう言われると痛いんだけど、イケメンを見つけたらたまたま山田君だったって感じでさ、確かに昔は話したことも殆どなかったよね」


 昔は眼中にも無い。といった様子だったがこうも一転すると複雑な気持ちになるのは俺が捻くれているからだろうか。


「ねね!さっき山田君呼んでた子って彼女?」


「いや、友達だよ」


「え、そうなんだ。デートっぽかったしてっきり彼女かと…、この後はどこか行くの?」


「まあ普通にご飯食べに行ったりとかかな」


「二人っきりで?」


「大地ー?」


「悪い。呼んでるからもう行くよ」


「え?あっ…」


 片澤から呼ばれた為会話を切り上げてその場を離れる。


「何か話しかけられてたけど、もしかしてナンパ?」


 目を鋭くして立川達の方向を見る片澤。


「いや、高校の同級生だよ。たまたま会ったから話しかけられた」


「そうなんだ。私も挨拶しといた方がいいかな?」


「気にしなくていいって、仲が良かった訳でも無いし。それよりいい感じの組み合わせ見つかった?」


「うーん。三つくらいまでは絞れたんだけど…」


 どうやらコートの色をどれにするかで悩んでいる様だ。確かにどれも似合いそうなのだが、俺個人の好みで言えば茶色かなと伝えたところ、ではなくだとお叱りを受けた。


 結局片澤はチョコ色のコートに決めたようで、会計を済ませてから戻ると着替えた姿で待っていた。


「どう?」


「バッチリ似合ってる」


「えへへ。良かったー」


 片澤に呼ばれ会計を終えてここまで10分程。店を出る俺達を待っていたのか、立川達の姿はまだ店先にあった。


「あ、さっきの…?」


「なんか邪魔しちゃってゴメンね?あ、私は山田君の同級生の立川っていいます!」


「片澤です」


 各々自己紹介を済ませる立川達。


「それで、折角会えたんだし連絡先教えて欲しいなって思って」


 どうやらその為に俺達を待っていたようだ。特段話すような事があるとも思えないが、まあそれくらいならと連絡先交換。ついでにミニスタ用の写真も撮らされた。


「それじゃ、またねー山田君」


 雑談を挟んだ後、満足した様子で去っていった立川一行。その姿を見つめながら片澤が不満を漏らす。


「なんか、ちょっと強引な人達だったね」


 どうやら水を刺されたのが少し気になったようだ。かくいう俺も少し鬱陶しく感じていた。


「まあ結構時間取られちゃったしな。そろそろご飯行かない?」


「行こ!」


 予想外のイベントはあったが気を取り直して夕飯へ。その前にお手洗いに行くと言った俺は、トイレの個室に入り『保管庫』から一つのネックレスを取り出した。


 それを手に取りある魔法を慎重に組み込んでいく。RPGなんかでは良く色々な効果の付いた装飾品が出てくるが、俺が今作っているのはそれに近い。片澤の身に何か危険が迫った際、その危険から身を守ってくれる物を用意する為にちょっとしたイヤリングでも渡そうかと考えていたのだが、純度の高い宝石の方が効果が高まる為急遽これに変更した次第だ。


 時間にして5分程。戻って来た俺は早速片澤にネックレスを渡す。


「片澤。これ、お守りと思って身に着けておいて欲しいんだけど…」


「お守り……?って、え!?なにこれ!なんで!?」


 驚きも当然の事、大地が手渡したそれは単なるネックレスでは無かった。異世界にてとある盗賊団を壊滅させた際に戦利品として得た物だ。亡国の姫が代々受け継いできた由緒ある一品だとされているそのネックレス。連なるように装飾が施された5色の宝石が、小粒ながらも一級品足る存在感を放っていた。


 本来送る側としては胸を張って渡せる様な品ではあるが、渡された側の片澤としてはその意図を汲み取れずあれやこれやと妄想に耽ってしまう。厄除けだの風水だのと下手糞な言い訳を並べる大地。それに加えムードもへったくれも無いタイミングでのプレゼントではあったが、彼女はその全てを大地なりの照れ隠しなのだと誤って受け取った。


 渡したはいいもののいきなりアレはまずかったかと焦りだす大地と未だ勘違いによる妄想が覚めないといった様子の片澤。その後の夕食は、周囲が不憫に思う程ぎこちなく初々しいものになっていた。





同刻、大地達が居たモール近くの飲食店にて、先程大地と再会した女性陣がテーブルを囲んでトークに花を咲かせていた。


「それにしてもびっくりしたね。山田君があんなに化けるとは」


「最後に見た時はもっと細かった記憶があるんだけど、全体的に大きくなってなかった?」


「なってたなってた!顔付きもシュッとして男らしくなってたね」


「とりあえず連絡先はゲットしたけど、あれは競争率高そうだなー」


「彼女じゃないって言ってたけど、あの子も山田君狙ってるっぽかったし」


「てかあの子もレベル高かったなー」


 時折食事を挟みつつ、彼女たちの話は大地や過去の彼氏、そしての事で盛り上がっていった。


「てか真尋最近ミニスタ更新してないね。どうしたんだろ」


「さあ?また男関係で揉めてるんじゃないの?」


 かつては友人、親友と言っても過言では無かった彼女達の関係だが、真尋の行動が主な切欠となりその関係性は既に形だけの物となっていた。その体とルックスを武器にして様々な男子と一足飛びに関係を結ぶ真尋の存在は、当然女性陣からの顰蹙を買う。


 当時は彼女達も何故そんな事をしているのか、絶対にやめた方がいいと真尋を説得し続けた時もあったが、それも虚しく真尋の行動が収まる事は無かった。挙句の果てには破局直後の元恋人が、真尋と行為に及んだと噂で聞かされる羽目である。


「まあどうでもいっか。それよりも今日の写真ミニスタにあげとこー」


 







 

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