第12話 片澤とのショッピング
片澤と約束してから数日後、大学を出た俺達はクリスマスムード漂う街中に来ていた。
「じゃーまずは髪型だね。お店予約してあるから行こ!」
駅から歩く事5分程。片澤がいつも利用しているという美容室に連れられて来たはいいものの、何というか店員さんは勿論、客層も妙にキラキラしているもんだから尻込みしてしまう。
「すいません。予約していた片澤です」
「あ、片澤さん。いつもありがとう御座います。今日はお連れ様のカットでとお聞きしておりますが」
「はい!こっちの…って大地、何で私の後ろにいるの」
「いや、ごめん。何かこういう所ってどこに居ればいいか分からないんだよな」
割と共感してくれる人は多いんじゃないだろうか。どこもかしこも照明で照らされた明るい店内だと、俺みたいなのはなんか落ち着かないのだ。仕方ないので片澤に張り付いていた次第である。
異世界では無駄に人前に立つ事が多かった。お陰で少しは変われたと思っていたけど全くもってそんなことは無かった様だった。
「もうっ…、すいません。こっちの男の子をお願いします」
母親とシャイな息子みたいなやり取りを経て座席へ案内される俺。片澤も付いてきたかと思うと雑誌を片手に店員さんと話し出す。
「ベリーショートの…こういう系でお願いします。あとやっぱり今日はカラー無しで」
「わかりました」
どうやら俺の髪型をどうするかの確認だったようだ。いざ始まるとなると少しワクワクしてきた。これまでは安い所で済ませていたので、人生初の経験である。
「じゃあ大地、私は待ってるからね」
「おう、ありがとう」
散髪…カットが始まってから少しの後。只終わるのを待つだけだと思っていた俺は店員さんが急に始めたトークにあたふたしていた。
「お客さん、お名前は何ていうんですか?」
「え?山田大地です」
「山田さんっていうんですねー、今日は片澤さんとデートで?」
「デート?いやそういうのじゃないですよ」
「違うんですか?片澤さんから男の子連れて行きたいって予約の時に聞いてたので、皆噂してたんですよ」
「噂?」
「はい。片澤さんて地方から出て来た子でしょう?」
片澤が上京してきた身だというのは以前に聞いていた。ふと、何で権藤と付き合っていたのか聞いてみた時の事だ。
「私田舎から出て来たんだけどさ、ああいう男の人も居るから気を付けなーって散々親に言われたのに、正直他人事だったんだよね。親とは遠く離れた場所で、毎日が割と精いっぱいで、友達も少し居るけど、皆は皆で彼氏が居たり家族が居たりで私は3番目4番目…、そんな時ちょっと優しくしてくれた人に気付いたらまんまと騙されてたって感じ」
と言っていた。
「最初ウチに来たときはそりゃもう初々しくて、皆で勝手に妹みたいに思ってたんですよ。そしたら先月位かな?彼氏が出来たって言ってたんで、今日はその彼氏とデートかなーって」
「あはは...、いや、俺は只の友達ですよ」
まさかその彼氏とは別れましたと俺の口から言う訳にもいかず、友達という事で押し通すと、何かを察したという様子で悲し気な目をされた。
「すいません。変な事聞いちゃいましたね…」
「えっ」
少し気まずくなりはしたものの、カットは滞りなく終わり最後に店員さんから謎の激励を受ける。
「勿論片澤さんの幸せが一番ですけど、個人的に応援してます!」
「ありがとう御座います」
カウンターに戻った俺は、片澤を待たせているのでその姿を探すが見当たらない。お手洗いにでも行っているのかなと考えていると最初に受付をしてくれた店員さんが近付いてきた。
「片澤さんでしたら、丁度予約のキャンセルが入りましたのでカットの方を…」
「え、そうなんですか」
待っている間に片澤の分も含めて会計を済ませる。実を言うと先日異世界から送られてきたものをコツコツと換金していたので、懐は滅茶苦茶潤っている。
30分程待ったところで片澤が帰って来た。
「ごめんね待たせちゃって…え!?大地めちゃくちゃカッコよくなってるじゃん!」
「そうか?」
「うん。大地は結構ガッチリしてるから爽やか系が似合うと思ってたけど、予想通りだった」
「片澤も随分雰囲気変わったけど似合ってる」
「そ?ありがと!」
ご満悦といった表情の片澤。どういう髪型なのか聞いたところ、ウルフカットとかいうらしい。髪の先端がうっすらと青くなってたりもするがそれはメッシュなのだとか。個人的に好きな髪型なのでその組み合わせは覚えておこうと思う。
美容室を出た俺達は続けて男物の服を買いにモールへ行く事に。
「大地の雰囲気的に大人しめのがいいのかなー?ちょっと高くなっちゃってもいい?」
「ああ、大丈夫」
事実、お金の心配は一切いらないので〇ッチだろうが何だろうがどんと来いだ。
入店して片澤にあーでもないこーでもないと着せ替え人形にされる事小一時間。
「うーん。個人的にはこの組み合わせが一番しっくりくるかな?」
「さっきのが一番て言ってなかった?」
「さっきのも良かったんだけど、うーん…迷う」
「じゃあさっきの組み合わせと、これも買おう」
「え、大丈夫?」
再度心配されたがどの道数種類欲しかったので問題ない。結局、片澤のセンサーに引っ掛かった服を追加で幾つか買い二桁万円の出費となった。
「うん。最高だね。大人っぽくなってグッとカッコよくなったよ」
「俺も正直驚いた。髪型と服装でこんなに自分の見え方って変わるんだな」
お洒落の楽しさというものが少し理解できた気がする瞬間だった。
「じゃあ次は片澤の服見に行こう」
「え?私?今日は買うつもり無かったけど」
「つもりは無くても欲しいものが無いって事は無いだろ?今日のお礼という事で」
「別に気にしなくていいのに。それを言ったら私こそ大地に恩があるし」
選ぶだけ選んでもらって食事して終わりというのも味気ない。折角だからもう少し楽しみたい気持ちもあるし、何よりも片澤が服を選んでいる間に調達しておきたい物があった。
「……わかった。先にお礼言わせて?ありがとっ」
片澤が納得してくれた所で女性用のフロアへ向かう。
「ふふっ、なんか大地色んな子から見られてない?鼻が高いなー」
「んな訳無いって、格好だけはそれっぽいから一応見られてるだけだろ」
「変な所でネガティブだよね大地。あ、これ可愛い…」
早速服を物色し始めた片澤。しばらくして、夢中になりだした所で近くの装飾品店へ行こうと思っていたが考えが甘かった。
「大地ー、これ見て!」
「なんかモコモコしてて可愛いと思う」
そう、事あるごとに片澤が呼んでくるのだ。丸で一人ファッションショーの様な勢いで次から次へ着替えるものだから、抜け出すタイミングが掴めない。
そんな事を繰り返していた時、不意に後ろから声を掛けられた。
「あのー、もしかして山田君?」
「はい?」
声を掛けて来たのは高校時代、真尋と特に仲が良かった同級生、立川芽衣と当時陸上部に所属していた面々だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます