第8話 尾行
来る週末、ついに片澤の彼氏を調査する日が来てしまった。俺としてはサークルの噂を聞くだけでも限りなく黒に近いと思うのだが、片澤はその目で直接確認するまでは信じたくないらしい。
まあ確かに、SNSに掲載されていた写真も集合写真ばかりで浮気を匂わせるような写真は無いと言えば無かったが…。
待ち合わせ場所についた俺が片澤が乗って来たというピンクの軽自動車を探していると、それっぽい車の前から手招きしている片澤が見えた。
「大地ー、こっちこっち!さ、乗って」
促されるまま車に乗り込み片澤も運転席へ着く。
「改めて先に言っとくけど、ごめんね大地。こんな事につき合わせちゃって」
「いいって。予定があったら普通に断ってたし、暇してたから大丈夫」
先日の是が非でも付いてきて欲しいといった様子からは一変、謝罪をしてきた片澤。特に趣味の無い俺としても暇を潰せるので何の問題も無い。
「そう言ってくれると助かるなー」
「それで、何か怪しい所はあった?」
実は今日、片澤は先程まで権藤の家で過ごしていた。何か思うところがあったのか、権藤の方から半日だけでも一緒に居ないかと誘いがあったらしい。
「仁人がトイレ行ってる間に寝室を覗いてみたんだけどさー、準備中のキャリーバッグが置いてあった。しかも…あの、おもちゃもあったし……」
おもちゃ…大人の玩具という事だろうか。
「それは何というか…、もう確定でいいんじゃないのか?」
「うん、私もそう思う。帰る時もなんかめちゃくちゃ急かされたし」
随分と詰めの甘い男だなと思った。
「ここまで来てなんだけど、どうする?まだ追いかけるのか?」
「うん。仁人にも勿論ムカつくけど、私を追い出してまで会いたい女がどんな奴なのかとか、その女は私が彼女だってこと知ってるのかとか、モヤモヤしちゃって」
「それをスッキリさせたいと」
「そ!改めて考えたら余計ムカついてきた。ごめんね大地。私こそ今更だけど、今なら一人でもいけそうだから、大地はやめとく?」
とても大丈夫そうには見えないしこのまま片澤一人行かせたら現場に突撃しかねない勢いだ。
「折角来たんだし付いていくよ」
「…ありがと。あーも―腹立つなー、まだ付き合って一月なのに舐められすぎてムカつく!」
待つ事およそ30分。時刻は午後16時を迎える頃、予想通り権藤の車がマンションの駐車場から出てきた。自身が後を付けられている等とは夢にも思わないだろう権藤を、俺達二人は付かず離れず追いかけていく。
片澤詩織が権藤のマンションを出て少しの後、権藤は荷物を纏めマンションの駐車場へ来ていた。するとそこへ一台の車がやってくる。
「権藤先輩!お疲れ様です!」
自称権藤の友人であり実際は舎弟扱いの男、山本大輔。山本は権藤に先んじて伊藤真尋、藤堂姫華と合流。その後権藤から呼び出しがあるまで近場で待機していた。
「仁人ぉー!会いたかった!」
待ってましたとばかりに山本の車から飛び出してきたのは藤堂姫華。如何にも現代のギャルといった容姿でお金とイケメン好き、権藤に心酔しきっている彼女は、その実権藤にとっては都合の良い女の一人でしかない。
「仁人先輩。お疲れ様です」
藤堂に続いて出て来た伊藤真尋。一見して美人である事以外はどこにでも居そうな女だと思われていた彼女だが、一度事が始まれば見せる彼女の退廃的な雰囲気、ある種の破滅願望からくるその乱れた姿は、権藤の一番のお気に入りたる素質を秘めていた。
「おう、悪いけど二人とも荷物を俺の車に入れ替えてくれ。山本の車はいつも通りそこに置いとけばいい」
「ういっす!」
「で?あれは買えたのか?」
女二人が権藤の車へ乗り込んだのを一瞥し、権藤は山本へ問いかけた。
「はい、兄貴の伝手で割と簡単に。権藤さんに渡しときますね」
手渡されたのは違法薬物。権藤は伊藤という女にこれを使えばどうなるのかと思い立ち、今晩二人に一服盛る事を決めていた。
「よし、これ金な。じゃあ山本も乗り込んだら行くぞ」
こうして男女4人を乗せた高級車は旅館へ向けて出発した。
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