第7話 異世界のハーレム王
王女様からの急な報せを受けた翌日。その日の講義を終え帰宅した俺は『支援物資』とやらがいつ届くのかと待つ事二時間。ようやく送られてきたそれは予想よりもちょっと、いやかなりの物量だった。
「床が抜けるかと思った…」
まず現れたのは俺が向こうで主装備として使用していた武器『
次に現れたものは俺の好きだった葉巻。魔力が豊富な土地に自生する植物を葉巻に加工したものである。燃やす事で植物に含まれる魔力を煙として接種し、魔力回復もしてくれる一種の嗜好品だ。当然タールやニコチンは含まれていない。
そして最後、これが一番の問題だった。俺が向こうで集めたお宝、恐らくその全てが送られてきた。放っておいては床が抜けそうな勢いだったので急いで『保管庫』を発動し突っ込む。20分程詰め込み続けたところでようやく止まったので全て換金すればその総額は計り知れないものになるかもしれない。
ちょっとした想定外はあったが無鎧と葉巻が送られてきたのは素直に嬉しい。葉巻に火を点け久々の香りを楽しんでいると全身に魔力が滾り、懐かしいその感覚に異世界での幸せな時間が鮮明に蘇る。
―これは異世界で野営をしていたある日の事―
「ガハハハハ!ワッハッハッハ!!」
「笑いすぎだろ!」
「いや、だってよーダイチ、そんなバカみたいな話聞いた事ねえぜ」
勇者パーティの一員にして異世界のハーレム王と呼ばれるこの男の名はガストン。世界各地でナンパしては現地妻を作り、場合によっては旅に同行、そこら中でイチャイチャし始めるもんだから質が悪い事この上ない豪快な男だ。
寝ずの番をしている間何か話してくれと言われた俺は、この男に日本でのあれやこれやを話した。その結果が今しがたの大爆笑である。
「まさか俺以上に悲惨な経験をしてる奴が居るとは思わなかったぜ。まだまだ俺も視野が狭いってこったな」
「俺以上って、ガストンも似たような経験を?」
普段のガストンからは想像も出来ない。昔から異性には困ってないとさえ思っていた位だ。
「ああ、俺にも幼馴染みてえな関係の奴が居たんだが、俺が長期の出兵任務から帰って来て家まで直行。いざ結婚を申し込もうとしたら、アイツ家で他の男とヤッてやがった」
「それは…なんというか」
「その男がまたいけ好かねえ商人の息子でよ、俺とは正反対な奴だったから堪えたぜ」
「それで、その後は?」
「より一層鍛錬には打ち込むようになったな。今思えばそのお陰でここまで成り上がれたのかもしれねえ」
「その…恨んだりはしなかったのか?幼馴染の事を」
「その瞬間は二人纏めて斬り殺してやろうかと思ったさ。でもな、女が一度ああなっちまったらちょっとやそっとじゃ気持ちは動かねえ。俺がどれだけアプローチしようと、他の男が現れようと、アイツはあの男に夢中になってたろうよ」
「そんなもんか...」
「でもよ、絶対に心変わりしねえ訳でもない。不満が積もって愛想が尽きたり、年取って相手に求める事が変わったり、意外な事で熱が冷める奴が居る。アイツの場合は男の方が商会ぶっ壊した事が原因だったな」
「てことは、もしかしてその後に?」
「と思うか?んな訳ねーだろガハハハハッ!」
「えぇ...。ハッピーエンドじゃねえのかよ」
「もしそうなってたらアイツにとってはハッピーエンドだろうな。商才の無かった馬鹿と縁を切り、俺程の英雄と結婚できるんだ。でもよ、当時の俺は金にも困らねえしこんな俺を精一杯癒してくれる愛しい妻が大勢居た。正に幸せの絶頂期だ。そんな所に今更アイツは必要ねえよ」
「確かに。分からないでもない」
「そもそもの話だ。当時や今出会った女なら過去にどんな男と付き合ってようが、結婚してようが関係ねえ。でも俺はアイツの事をガキの頃からどうしようもなく好きで、その先がどうなろうとその時その一瞬を、アイツと過ごしたかったんだ。その時間が他人に奪われた時点でもうありえねえな。こればっかりは理屈じゃねえ」
「……」
「だからなダイチ。お前に見向きもしなかった女なんざ放っておいて大勢の女に好かれるようになれ」
「こっちと向こうじゃ異性に求めるものも違う。俺如きがそんな事できるかよ...」
「根本は違わねえだろ。お前はその陰気くせえ所を直せば中々ハンサムな面してやがる。後は金と力と頭、最後に自分の女を如何に大切に出来るかだ。な?そう違うもんでもねえんじゃねえか?」
「…そうかも」
「自然界でもそうだが、男なんて大抵は選ばれる立場だ。だが選ばれる側の更にその上、そこへいきゃあ今度は好き放題選ぶ側になる。勿論そんな立場が生ぬるい努力で手に入る訳はねえ。でも俺はお前が死ぬ気で戦ってくれてるのを毎日見てる。その俺が断言してやるよ、お前ならそんな過去の女なんざ吹き飛ばすくらいの色男になれるってな。なんなら王女様とフレイシアも連れてっちまえ!ガハハハハッ!」
俺の過去を遠慮の一つも無く笑い飛ばし、その後には温かく俺という人間を認めてくれる。そんなガストンという男が俺は大好きだった。
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