第6話 急な報せ
「そりゃあ今日知り合ったばかりの大地に頼む様な事じゃないのは分かってるんだけど...他に頼めそうな知り合い居なくてさ」
先程から手を合わせて何度も「ね!」と頭を下げてくる片澤。これ断っても無限ループするやつでは?と思わせる必死さだ。
片澤曰く、彼氏のスマホに届いたメッセージをチラ見した際、女性のアカウントから「週末どうすんの?」的なメッセージが来ていた事、加えて彼氏本人が週末は忙しいとしか言わないので、どこで何をするのか、せめて場所だけでも突きとめたいとの事だ。
直接聞けないのか...と言うのは違うか。その選択肢が無いからこうして俺のような初対面の男に頭を下げているんだろうし。
午後。帰宅し即自室に籠っていた俺はベッドの上で片澤のミニスタグラムをチェックする。ミニスタのアカウントなんて作ろうとも思わなかったが、片澤がしつこく誘ってくるのでその場で作る羽目になった次第だ。
画面をスクロールしていくと、友人と撮ったであろう写真やスイーツの投稿が多い。しかしその中の一つ、丁度一月程前の投稿を目にして指が止まる。
「コイツか...」
権藤仁人というらしい片澤の彼氏は、どうもヤリサーと名高いある運動サークルの部長を務めている男だった。あまり良い噂を聞かないこの男と片澤が何故付き合いだしたのかは分からないが、片澤は傍目に見ても美人なので目をつけられたのだろう。
どんな奴なのか少し興味が出て来たので片澤のフォロー欄から権藤の名前を探すと、その名前はすぐに見つかった。権藤の投稿は如何にも裕福な学生という感じであり、権藤自身の身だしなみもそうだがその背後に写っているものも悉くブランド物の雰囲気を醸し出している。
いけ好かない印象を抱きつつ更に遡って行くと一つの投稿が目に入る。恐らくサークルメンバーとの飲み会で撮られた写真だろうか...、その中に真尋の姿があった。真尋と数名の女性が権藤含む大勢の男に囲まれている集合写真。サークルの噂を聞くに彼等彼女らの関係はまあ、そういう事なんだろう。
真尋が好きでやっている事なら俺に口出しする権利は無いし、そんな事をしてやるつもりもない。むしろ真尋と関わるのが嫌になってわざわざ離れた大学を選んだのだが、真尋は聞いても無いのに伝えてきた進学先には行かず、俺と同じ大学へ進学してきた。因みに真尋がどうやって俺の進路を知ったのかは大学入学後に嫌でも知る事になる。
不意にフラッシュバックを起こし、イライラしてきたので風呂の準備でもしようかとベッドから起き上がる。すると部屋に置かれた姿見が淡く光っている事に気付いた。
「あれ、どうしたんだろ」
この姿見は異世界から帰ってきた際、俺といつでも話せるようにと王女様が『投影』の魔法を施してくれた。莫大なリソースを必要とする為最低でも半年に一回程度しか使えないとの事だが何かあったのだろうか。
「ダイチ様、お変わりないご様子で安心致しました」
「ああ、お久しぶりです。何かあったのですか?まだ帰ってからそんなに経っていないですが...」
もじもじと申し訳なさそうな仕草をし、一拍置いて口を開いた王女様。
「はい。急ぎご報告しなければと思い、少々無理をさせて頂きました。先に本題から申し上げますと、ダイチ様が帰還される際、魔族が紛れ込んだ可能性があります」
「はぇ?」
結構な大事であった。
「申し訳ございません!ダイチ様を『転送』した後、何者かが強引に魔方陣へ乗り込み消えていったのですが、最低でも三つの影があったとの事です...」
「最低でも三つ...、でもこっちに帰って来てからは特に何も起きていませんよ?」
「そちらの世界は此方と比べてかなり自然が少ないと聞いております。であれば力の源になるマナもそれに比例して減少、弱体化しているのかもしれませんね」
言われてみればそんな気もする。異世界に居た時はもっと力が滾っていたというか、ぶっちゃけ『索敵』等も精度が悪くなっていた。てっきり人が多すぎるとか、そもそも魔物がいないからだと思っていたけど...。
「という事ですので、これ以上ご迷惑は掛けられないと思い至急支援物資の『転送』準備をさせて頂いております。明日には届けられるかと...」
異世界に別れを告げて数日、残念ながら勇者の仕事はもう少し続きそうな気配である。
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