第5話
来週に迫る体育祭。小学校の時はもっとたくさん練習していた気がするが気持ちの問題だろうか。
上昇し続ける平均気温に合わせて9月にずらされたわけだが、日中は依然として30度を超えている。
マスクの中はサウナ状態だ。
外したい。
コロナが流行り、マスクをつけることが習慣化した学生生活。落ち着いてきた現在では『顔パンツ』などという言葉も生まれ、思春期の、特に女子には外せないアイテムとなった。
一華も莉里愛も部活の時しか外さないらしい。
「障害物競争のやつ並べー」
ハードル、縄袋、ネット、全てマスクが外れそうな障害物。当然人気はない。そんなことを気にしないバチバチに体育会系の人間は配点が高い100メートル走に取られてしまっているし。
争いが嫌いと言えば聞こえはいいが、要は面倒ごとが嫌いな私はお得意の「人数が足りないならやってもいいよ」を発動させた。
「頑張れー」
列に並びながら100メートル走の応援をする。
女子は足が地面につくたびに胸が揺れている。
ああズルいな。
あの子たちにとってはタイムを落とす邪魔ものでしょう?なら私に移してよ。体育がある日は大きめのブラをつけて見栄を張る。それでも胸の張りはあの子たちの半分にも満たない。
「オンユアマーク、セット」
バン。
スタートを毎回遅れてしまうのは、ピストルの音が幻聴じゃないかを確かめる術がないから。
ハードルなんて、全部蹴り倒せばいいのに。
縄袋なんて、ゴールにぶん投げればいいのに。
ネットなんて、上を踏み歩けばいいのに。
障害物を乗り越えていくのが素晴らしいことなの?
走らなければいいのに。
「あっ」
体は埃臭いネットを抜けたが
どうしよう。このまま走り抜ければ奇跡的に一位だ。だけどゴールにはたくさん人がいるし…
あれ?
私はマスクの内側を見られたくないの?
それともマスクをしていない私を見られたくないの?
私の内側を見られたくないの?
「痛っ」
土が近い。
人が遠い。
口が苦い。
地面に圧迫される感触が、胸があることを実感させた。
膝や肘をさすりながら、マスクを回収し、破るはずだったゴールテープが次のレーンのために準備されるのを眺める。
傷口を水ですすぎ、保険委員に絆創膏をもらい、校庭にわざわざ運んだ応援席に戻る。
膝はいいけど肘は貼りづらいな。
こんなこと頼むのも面倒だ。なんとかつかないかな…よれないように…
「おつかれ。俺貼ろっか?」
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