第3話
「一緒に帰ろーぜ」
「お前何しに来たんだよ」
「…迷っちゃってさ」
「はぁ!?昇降口までの道が分かんないの!?」
「広いじゃんこの学校!!」
「それは一緒に帰ろじゃなくて俺を帰してくださいだろ!!」
白波瀬の口が綻んだ。目を見とけばよかった。
「チアキさんってやっぱ面白いじゃん」
「は?もう少女漫画に憧れる歳じゃないんだけど。おもしれー女って言われても面白くもなんともないんだけど」
「うわー怖ーい!!逃げろ逃げろー!!」
「コラ待て、迷子にするぞ」
「どうかお慈悲を」
リュックを背負い、並んで歩く。
「ねぇ、ここ秋に体育祭あるって聞いたんだけどガチ?」
「ガチだけど?再来週だよ、何か問題あるん?あら、もしかして運動が苦手なのかしらぁ?」
「いや、去年までリレーに選ばれてた子が俺のせいで選ばれなくて可哀想だなと」
「お前一回恨み買って袋叩きにされとけよ」
「6対1?」
「鼻血出してろ」
笑いながら首を捻る。
案内が隣にいるとはいえ、知らない道を喋りながらこれだけ歩けるのだろうか。
「俺さ…」
白波瀬が喋り始めた時、下から人がやってきた。
見慣れたマッシュ。
「爽太くんっじゃあね!!」
「じゃあねー!!」
すごく急いでいたけど忘れ物でもしたのだろうか。
「クラスメイトだっけ?」
「いや違う…好きな人」
言い淀んだのは単に白波瀬に言うかを迷ったのか、爽太くんが好きだと信じれないのか、たぶんどっちも。
「へー」
「めっちゃ興味なさそうだな」
「あー悪りぃ悪りぃ。上手くいきそうなん?」
「最近彼女できたらしいです、イチャイチャ円満カプらしいです」
「ご愁傷様」
「お前一回見えない銃に撃たれまくれよ」
「ほらほらそんなこと言わないで本当のことを聞かせておくれよ」
「キショい」
「ちょ、レトリックな煽り合いから急にストレートにくんなよ。ダメージデカい」
上履きを入れ、ローファーを出す。そして私たちは止まった。
「雨、だね」
「傘、持ってる?」
「持ってない」
「はぁ?なんでだよ。こういうのは相場どっちか片方が持ってて相合い傘だろ」
「お前も持ってねぇくせに言うんじゃねぇよ。あとなんでさっきから少女漫画脳なんだよ」
「チアキさんには俺の傘になってほしいんだ」
「ただ濡れるだけじゃねぇか!!…あとさ、名前」
「名前?」
白波瀬、思春期とかないんか。
「私は浜辺茅秋。前の学校は知らないけど、ここじゃ異性のこと下の名前で呼ぶのはカップルぐらいだから、浜辺って呼んでよ」
「ほう、じゃあ浜辺は『ソウタくん』とは付き合っているのですか」
「爽太くんは小学校から同じだからいいのっ!!」
「出た幼なじみ特権。…へーでもここじゃ下の名前ダメなんだ」
「だいたいそうじゃない?中学生にもなったら。前の学校そんな男女仲良かったんだ」
「うん…みんな仲良かったよ」
あ、間違えた。白波瀬だって3年間共に生活してきた仲間と突然別れて寂しいはずだ。しかも理由は両親の離婚…
「女の子はみんな俺に下の名前で呼ばれたがってね、お望み通りにしたら黄色い歓声が絶えなかったよ。男どもは睨んできたけどね怖い怖い」
「お前一発目は眼球、二発目は鼓膜突き破れよ」
「それは俺の胸をぶち抜きたいって解釈でオケ?」
「…ブルーハーツってかなり暴力的だよね」
「ロックだからな。あと浜辺ブルーハーツとハイロウズごちゃ混ぜにしてるだろ」
「え、ガチ」
青春はブルーハーツだよな?他は…
足音がしたので振り返ると、傘を3本抱えた爽太くんが立っていた。
「2人ともはい。僕も傘持ってなくってさ、うちのクラス担任が予備いっぱい持ってるから借りてきた」
そう言いながら爽太くんはそれぞれに傘を差し出してくれた。
「えー!!私たちの分まで」
「さっき持ってなかったから、ま予報外れてるしね。無理して帰ってなくてよかったよ」
「ありがとな」
「本当ありがと!!」
「うん。じゃあ風邪ひかないようにね」
気遣いが細かく少しドキッとした。こういうところが爽太くんがモテる所以だ。
「爽太くんは帰らないの?」
「僕は
「そっか」
なのに傘は3本しか持ってきてないんだ。
「あーあれだよ。きっとミツリは折り畳み傘を常備している子なんだよ」
「慰めんでいいわ!!」
白波瀬の家は私の家と同じ方向ではあったけど道はかなり違った。遠回りしてでも一緒にいたい、そんな気持ちは湧かなかったから普通に校門の前で別れることにした。
「…俺さ、浜辺が名前同じって言った時」
傘の下から口元だけが見えて、声は雨の合間を縫ってかすかに届く。
「えっ?」
「ちょっと浜辺のこと期待しすぎたんだよな」
「はぁ?」
「俺と同じ、イマイチのれねぇって目してるからさ。こいつなら面白いことしてくれんじゃねぇかなって」
「…勝手に期待して裏切られても自業自得だな」
ちょっと悲しかったけど好かれなかったのはしょうがないと諦めた。
「ちゃんと話してみたら期待裏切られたよ」
傘を少し上げて真っ直ぐこちらを見つめた。
ドキッとした。
「予定あるって嘘だろ」
「昇降口が分からないって嘘でしょ。カラオケ、本当は嫌いだからちょうどよかった」
傘から伝わる雨の振動が、自分の鼓動と重なる。
「またな」
「また明日」
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