第13話

 みゆりは大きい花子さんに会いに行くことにした。あいかが助かったことを、とりあえず報告したかった。もう帰らないと親が心配するが、あのホストクラブでしばらく心を落ち着けたいというのもあった。


 あいかはもう大丈夫だと言っていたが、深いショックを受けているのは明らかだった。みゆりはあいかの背中に手を当て、手を引いてゆっくりと歩いて行った。


 ふと気づいて、スカートのポケットに手を入れた。ドアストッパーは入っていなかった。あの暗闇の世界に置いてきてしまったのだろうか。


 二階の女子トイレにつくころにはあいかも少し落ち着いてきているようだった。大きい花子さんのテリトリーに入って、名刺の効果が現れてきているのかもしれない。


「もう大丈夫だから」とあいかに言われて、みゆりはあいかから手を離した。あいかは無表情になっていた。元気になったのではなく、自分の周囲に壁をつくっているようにも見えた。


 ふたりで奥の個室の前に立つと、みゆりはノックなしに「花子さん。ここを開けてください」と言った。ドアはゆっくり開いた。


 みゆりは中に入りかけたが、あいかが動こうとしないのに気づいた。


「あいか。一緒に行こう」みゆりは手を差し出した。


「いいよ。あたしはここで待ってる。誰かがドアを押さえてないといけないでしょ?」


「でも……」


「花子さんと話すことなんて、あたしにはもう何もないから」


 みゆりはしかたなく、ドアをあいかに任せると、薄暗闇の向こうで待っている大きい花子さんのところに歩いて行った。何度か振り返ったが、あいかはドアのところに立ったままうつむいているだけだった。

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