第12話

 そこは一階の女子トイレだった。白い照明にみゆりは目がくらんでいたが、少しずつあたりが見えるようになってきた。誰かが壁にもたれている。あいかのようだった。そして顔がまだ見えなくても、その姿勢だけで、泣いているのはわかった。


「ばか……」あいかは声を震わせながら言った。


「あいか」


 みゆりはあいかに近づいていった。目が慣れてきて、ようやくあいかの顔が見えてきた。その顔を見るのが、みゆりにはつらかった。


「わたしの手を引いてくれたのはあいかなの?」みゆりは訊いた。


「そうしろって、あの子が言うから」


「妹さんが?」


「ふたりだけでも逃げてくれって。あの子に背中を押されて、気がついたらあたしはあんたの手を引いて外に出ていた」


 みゆりはかける言葉が見つからなかった。自分があいかを助けに行かなければ、あいかは妹とずっと一緒にいられたのではないか。


「あんたのせいじゃないよ」あいかはみゆりの心を読んだように言った。まだ泣いていたが、なんとか気持ちを抑えているようだった。「あの暗闇の中で妹に再会したとき、妹は怒っていた。あのいつもは弱気な妹が珍しく、あたしに食ってかかってきた。なんでこんなところに来たんだって。あたしはあの子に助けられたんだ。あの子のもとにいることは許されなかった。あんたのせいじゃないよ」


「あいか」


 みゆりはあいかの手を握った。冷たい汗で濡れていて、小刻みに震えていた。


「あいか、もうここを出よう」


 あいかは黙ってうなずいた。そしてふたりでトイレを出た。

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