第6話
みゆりは言われたとおり、学校で花子さんの名刺を肌身離さず持ち歩いていた。すると、気持ちが前よりずっと落ち着いていることに気づいた。昨日までは、小さい花子さんにいつ襲われるかと、いつもあたりを見回していたのだ。今日は、小さい花子さんのことを忘れている時間が多かった。
帰りのホームルームが終わった後、図書館で時間をつぶしてから二階の女子トイレに行った。あいかは先に来ていて、トイレの外で待っていた。背筋の伸びた姿勢が美しく、表情はやや愁いを帯びていて、まるでそこから格調高いモノクロ映画が始まるような雰囲気があった。
「いつ来たの?」みゆりは訊いた。
「ホームルームが終わってからずっとここにいた」
「もっと遅く来ればよかったのに。人がいなくなるまで時間がかかるって言ったじゃない」
「いいんだ。とにかく、早く中に入ろう」
ふたりは女子トイレの中に入った。中には誰もいなかった。あいかが先に立って、その後にみゆりがつづいた。ふたりは奥の個室の前に立ち、そして、あいかがドアをとんとんとんと三回ノックした後、ふたりで「花子さん、花子さん、ここを開けてください」と言った。しかしお互いのタイミングが全く合ってなかった。言い直した方がいいのかな、とみゆりが思っていると、ドアが勝手に開いた。
「今日は素直に開けてくれるんですね」あいかが個室の中の暗闇に向かって言った。
「居座られるのも面倒だからね」暗闇の奥から声がした。「今日で話をつけよう」
あいかが先に中に入った。みゆりも後から入り、ドアを少しだけ開けておいて、ポケットからドアストッパーを取り出して下に挟んだ。試しに閉じようとしてみて、どんなに力を入れてもそれ以上閉まらないのを確かめた。みゆりは安心して、花子さんとあいかのいるシートの方に向かった。
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