第18話 進化した人類


「正直、教科書に載っていること以上の情報なら何でもいいんです。機会があるなら聞いてみようと思ってただけなので・・・」


「知ろうとする姿勢。私は好きだよ。私も知的好奇心の塊だからね。でなきゃこんな閑職についてまで・・・」


彼女は、途中まで言いかけた言葉を飲み込んで「何でもない」と誤魔化した。先ほどの言葉について考えさせないようになのか即座に「どこから始めようか」と切り出した。


「まず、前提としてダールによる侵攻は、200年前に一度。そして10日ほど前から世界各地で同時に侵攻が開始された。ここで、200年の間に侵攻が無かった理由がある。分かる?」


突然の質問に面食らっていると待ちきれなかったのか彼女は、話を進め出した。


「魔力という存在が初めて認知されたのはのダールの侵攻から10年後だ。しかも、いきなり湧いて出てきたようだったそうだ。この事からそれまでは、この地球に魔力自体が存在しなかった可能性が極めて高いつまり」


「魔法を主な攻撃手段にしている魔族には地球での戦いは辛いものになった。だから一度撤退した。ここまでは、知ってます」


「ここからは推測が混じるが魔力は、ダールの居た世界から持ち込まれた可能性が高い。つまり彼らは、私たちの世界とは別の法則を持った世界から渡ってきた存在。俗っぽく言うとパラレルワールドの住人という説が現在の主流だ。異質な来訪者の意味を込めてフォーリナーと呼ぶ奴らもいる」


「一部の学者の中で流行ってるだけだけど」そう付け加え魔力検査機に手を突っ込めと促してくる。


それにしても別の法則を持った世界、パラレルワールドか。SFみたいになってきてる。ファンタジー的なものかと思っていた。


「じゃあ侵攻が再開したのは魔力が満ち始めたからですかね?」


「その可能性は高いが、そもそも最初の侵攻は偵察のためだった可能性もある。未開の地に最初から全戦力を投入するバカがトップであるとは考えにくいでしょ?」


それもそうだ。そんなしょうもないことで全滅したらシャレにならない。ましては違う次元への遠征だ。帰れる保証が彼らにあったのかもわからない。


「魔力の検査、終わったよ。検査結果は、特に問題は無かった。次は、脳波とか全身のCTスキャンとかするから」


「全身のスキャンは分かりますけど、脳を調べる理由はなんです?」


ペタペタと頭に電極をつけているジュリアスさんの顔が引きつる。完全に虫でも見るかのような目をしている気がする。


「そもそも能力自体が初めて発見されてから20年しかたっていない。さらに現状で能力を持っている人間は、この日本で私と望月を除い13分隊の2人だけだった。その二人とも脳の一部分が異常に発達していたんだよ。そんなサンプルが不足している状態で3人目の能力者が現れた。だから君の脳も同じなのか調べなきゃならないんだ。能力持ちは進化した新人類といわれているから」


新人類。確かに現在の人間を超越した身体機能であることは否めない。だとしたら何でもっと大々的に研究が行われていないんだ?など、色々と疑問が湧くが研究員とはいえ末端の構成員。聞いたところで何かわかるわけもないと自分に言い聞かせ話を続ける。


「能力は脳を由来としていたものとは聞いていたけど、そこまで明確に変わるもんなんですね」


「当たり前だじゃないか。多少の変化で超能力を発現できてたまるか」


よく考えればわかることを聞いてしまった。


「そういえば能力って人によって違いますよね。それも脳の発達している場所の違いが関係してたりするんですか?」


僕が当たり前のように投げかけた疑問で、今までどんな質問にもスラスラと答えていた彼女の顔が歪む。


「発達している部位は同じなんだけどね。どんな差があって能力が変わるのかは一切分かっていない。20年という歳月をかけても人間は能力について無知であると言わざる負えない。ほとんどの新技術も20年あれば一般にも普及するというのに」


研究者の性なのだろうか。悔しそうに親指の爪を噛みながら「サンプルがもっとあれば」と愚痴をこぼす。


てか、ナチュラルに人をサンプル扱いしている。やっぱりマットなサイエンティストだ。


ふと思った。進化だとしたら何に適応した結果なんだ?進化は、環境に適した特徴を持つ個体が繁栄することで起きる。


「能力者って魔力に適応した人類の進化なんですかね」


ジュリアスさんが少し驚いたような顔をして「良かったバカではなかったんだね」と言ってきた。この人苦手だ。


「そうだよ。能力者は、今のところ全員必ず体内に魔力を生成する器官を持っている。つまり一つ、臓器が増えているんだ。今までの魔術師は外部の魔力を使用するのが常識だったからね。ちなみにCTスキャンはその臓器の有無を確認するためだ」


健康状態を確認するためだと思ってた。でも、よく考えればこの人がそんな理由で検査をするわけないか。


そんなこんな話していると脳波の計測が終わったらしく電極をはがされる。


「あとは、CTスキャンだけだから。隣の部屋に行って説明の紙を読んでその通りに寝そべって。こっちのパソコンにデータが来るから。あ、終わったらリビングに戻っていいよ」


なんて不親切な!CTなんて初めてなんだぞ!そんな気持ちをぐっと飲みこみ僕は、部屋を後にした。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る