第14話 ライバルと親友

「昨日は、悪かった」


朝、教室に入った瞬間思いがけない謝罪を受ける。


「蘆屋くんだっけ?いいよ別に怒ってない」


正直気に食わないが仕方がない。広い心で許そう。大人になるのよ信二。


「そうか、ありがとう。実は昨日突っ掛かったのには理由があるんだ。俺、神宮が温海先輩と模擬戦してるのを見てさ少し羨ましかったんだ」


え?なに?そういう事?!


「もしかして優さんが好きとか?」


「いやそうじゃない。前年度の魔術杯ベスト4の実力者だからだよ。知らなかったのか?」


バッサリと僕の予想は切り捨てられた。ちょっぴり悲しい。


「そもそも魔術杯自体分からないんだけど」


「昨日のお詫びに教えるよ。魔術杯は、毎年11月に行われるトーナメント形式の大会のことだ。この大会の肝は、校内戦は予選に過ぎないとこだ。校内ベスト3が本戦に出ることができる。ちなみに本戦は、各国の魔術学院から校内選抜を抜けた猛者が集まるんだ」


「つまりは、優さんが世界4位ってこと?」


「そうだ」


道理で強いわけだ。それにしても世界4位ってすごいな。そんなすごい人に指導してもらってるのが名家の自分ではなくて庶民出身の魔術師だったのが気に食わなかったのだろう。この界隈ではそれだけ家系が重視されているってことか。


「ちなみに全員参加だ」


「うそ、マジ?」


「マジだ」


蘆屋に勝ったのも初見殺し要素が強かっただけなのに。コレは鍛えなきゃだ。ある程度勝ち抜かなきゃ教えてくれてる優さんの顔に泥を塗ることになるわけだ。


「また、戦おう。今度はトーナメントで。それまで負けるなよ」


彼は気恥ずかしそうに顔をそらしながら告げた。


なんかちょっとうれしいな人に認められるって。だから僕もこう返す。


「こっちのセリフだよ」


きっと彼は不器用なだけで実直で真面目な奴なんだろう。そんなことを考えていると始業の鐘が鳴った。


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午前の授業が終わり昼食の時間。優さんと食堂で昼食をとっていると懐かしい声が聞こえてきた。


「信二!驚いたよ。お前もここに来るなんてな」


そこには、進学校に行ったはずの神宮信二唯一の親友である押火雄二 おしびゆうじが居た。


「え、お前進学校に行ったんじゃなかったのか?」


「逆に聞くが本当に俺が進学校に行けるほど優秀だと思うか?」


その答えに思わず吹き出してしまう。確かにそうだ。雄二は、バカだ。割とマジで。そのくせして行動力だけは凄いんだよな。あの時だって僕を・・・


「それはそうと神宮!お前スゴイ噂になってるぞ!あの蘆屋の鼻っ柱を折ったって」


「あれは、初見殺しだから。正面から戦ったら負ける。確実にね」


「それでも!お前は、初めてでそこまでやれたんだ。次は正面から勝てるかもだぜ?それに今となっては、一年の中で一番の注目株だ。くぅ~羨ましいぜ」


嘘、噂だけでなく注目株か。そこまでになってるとは知らなかった。僕は、注目されるの苦手なんだけどな。


あれ?何か忘れているような。


「ちょっと!私も混ぜてよ~」


置いてけぼりにしてた。ヤバイ、友達の友達って気まずいもんな。


「あ、忘れてました!友達の・・・」


「押火雄二です!よろしくお願いします」


紹介しようと思ったら遮るように自己紹介を始めやがった。いつもはこんな事しないのに、どうしたんだ?何かあったのかなのだろうか。


「信二に色々教えてるって噂本当だったんですね!僕にもお願いしますよ~」


「ごめんね。私も人に教えるのなんて初めてだから一人が精いっぱいなんだ」


「謝ることなんかないっすよ。無理なお願いなのは分かっていたので」


あ、そういう事か。そうだよな。能天気なこいつに限って何かあることはなよな。しかしバッサリと断られたな。


「雄二も一緒に食べない?」


久しぶりに会ったんだ。積もる話もあるから色々話したい。


「ごめんな。先約があるんだ」


「また、女子か?」


「ちげぇよ男だよ」


こいつモテるからてっきり女子だと思ったのだが。イケメンはいいよなバカでもモテる。


「じゃあまたな」


「うん。また」


別れを告げると雄二はスタスタと去っていった。


雄二を見送っていると優さんがムッとした顔でこちらを見ている。放置しすぎたことを怒られると思ったが違った。


「雄二くんについて教えて。君の友人だよ。仲良くしたいし」


「良かった。てっきり怒ってるかと」


「怒ってないと思う?」


優さんの目は笑っていなかった。







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