第8話 得た未来と失ったもの


「あ!もちろん、君に拒否権はあるよ。入学するかは決めていい。君が決めることだ」


「僕、行きたいです。魔術学院へDAHR≪ダール≫に対しての対抗策を知るために

それに、侵攻がこれだけで終わると思えませんし」


そうだ、いつまた侵攻が来るか分からないのだ。次に侵攻に巻き込まれた時に生き残れる保証は無い。それに僕は、魅入られてしまったんだ。優さんがあいつらを一掃する姿は僕には、英雄に見えた。それに、僕を助けてくれた彼女の助けになれる。動機はそれで十分だ。


「強いね、信二さんは。襲われて、怪我もしたのに」


「強くはないよ・・・怖いから行くんだ。今度襲われたときに死なないために行くんだよ」


「いい覚悟よ!若いねぇ!」


「姉さんもまだ17歳でしょ」


真希さんが呆れたように呟いた。


プルルルルプルルルル


突然、優さんの携帯が鳴った。そそくさと携帯を取り出してスピーカーにして電話にでた。


「どこにいるんだ!待機の命令が出てたはずだろ?」


あまりの大声に耳がキンキンする。しかし、怒っているのではない。心配していることが声色から分かる。


「優、お前は!」


「いやーこれには事情があって~」


「はぁ、あらかた予想はつく。どうせ誰かを助けに行ってたんだろ?」


「流石望月さん!よくわかってるじゃん」


「取りあえず避難所をもう設営してるからその助けた人たちを連れてこっち来い」


「あ、魔術使った子を一人連れて行くから」


「は?え?おま!ちょ」


ブツ


あ、切った。


「というわけだから行こう!」


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それから僕たちは、望月さんとやらの立てた避難所に向かうことにした。避難所に向かう途中崩れた建物を見たり鼻が曲がるような髪や肉の焼ける臭いをかいだりして優さんは悲しそうな悔しそうなどちらともとれるような顔をしていた。しかし僕はその時感じたことは、可哀想だとか悲しいとかそんな感情は無かった。生きていることへの安堵と喜びや先への期待、ただそれだけだった。僕は、薄情な人間なのかもしれない。顔も知らない人の不幸よりも自分のことが大事なのだ。崩れた学校、燃える車、何も乗っていないベビーカー、中身の散らかった買い物袋、それらがこの街に当たり前のように会った日常がなくなったことを再認識させる。


「こんなことになって私、これからどうなるのかなぁ」


「真希は、私の寮に部屋を用意してもらえないか掛け合ってみるよ。それに、望月さんから無理やり聞き出したんだけど真希も魔力があるっていうし」


ボソッと真希さんがこぼした言葉に優さんが答える。


「「えーーーーーーーーー!?」」


「うるさいよ二人とも!まーた見つかるよ?」


「「だって!」」


そうだ、こんな事驚かない方が不自然である。それに、と言いかけたとき避難所が見えてきた。


「ほら!ついたから話はあとで!」


僕たちは無理やり納得させられかけていると。


「やっと来た!望月さん呼んでくるよ」


小柄な少女がチョコチョコと駆けていった。それからしばらく待っていると優男と表現するのがぴったりな青年が穏やかに笑いながら近づいてくる。だが、その笑顔からは明らかに怒りが見て取れる。彼が望月さんだろうか?


「優、来たか。ちょっと後で来てくれるか?」


「あ、はい」


あ、呼び出し喰らってる。うわーだいぶ怒ってるよコレ。南無三


「で、そっちが例の二人かい?僕は望月天神 もちずきてんしん


「温海真希と言います」


「あ、神宮信二です」


僕の名前を聞いた時、望月さんが笑ったような気がした。


「それでどっちが魔法を使った子だい?」


「信二くんよ!うちの妹を守ってくれたのよ!もうね、こう!ビューって速かったわー」


「あのな、お前には聞いてないんだよ。でも、そうなのかい?信二君」


あの時を思い出す。何体ものヤツメウナギや犬トカゲ、思い出すだけで治ったはずの左腕が痛くなる。


「そうです。優さんが言うには身体強化だって」


「望月さん、信二くんを鍛えてあげてよ。多分同じ戦い方ができると思うから」


「いや戦い方は、信二君自体の魔力総量や体格さらには性格や考え方が関係してくるからね。それに、こちら側に来るかも聞いてないし。まだ何とも言えないよ」


「あ、それは大丈夫。確認は取ってます!」


確かにそうだ。優さんが僕の先生として望月さんを選ぶってことは彼も強いのだろう。でも、正直知らない人にいきなり色々任せるのは怖い。


「あ、それと寮に妹の部屋用意してください。家が無くなっちゃったんで」


「じゃあ両親と・・・そうか用意しておくよ」


真希さんと優さんの顔を見て察したのだろう。望月さんの顔も暗くなる。


「そうだ。信二君も親が生きてるかどうか確認してきな。生存者リストは貼ってあるみたいだから」


沈黙を破るように優さんが提案をしてくれた。僕は、提案に従い確認をしに行く。正直怖い。両親の生死について今まで必死過ぎて考えてもいなかった。もし名前が名が無かったらと考えると震えが止まらない。生きていてほしいと願いながらリストに目を通す。


名前は、無かった。


それからのことはよく覚えていない。だが、確かなのは第一魔術学院という学校に転入することになったということだけだ。
















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