第6話 憧れと目標の対象
夢を見た。失う夢を。願いも守ると誓った人も希望も善意を失う夢を見た。
夢を見た。得る夢を。呪いや殺すと誓った奴や絶望を悪意を得る夢を見た。
夢を見た。何かが流れ込む夢を。失った善意、得た悪意。自分の、他人のどちらとも思える心が流れ込んでくる。欠けた何かを満たしていく。そんな夢を見た。
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あれ?後頭部が柔らかい?何かと思い重い瞼を開ける。すると、夕日に照らされた幼さの残る彼女の笑顔に意識を取られていると彼女が問いかけてきた。
「起きました?」
涼やかな声に一瞬動揺してしまった。相手は中学生だぞと自分を律する。僕は、動揺を隠すように問いかけた。
「頭、重くなかった?」
少しの間を置きニコッと笑いながら答えた。
「正直、少し重かったです」
うーん!素直!いいね!
ほどけ緊張の糸を再び張る。まさかの連戦だった。そもそも一般人が化け物相手に勝てたのが異常なのだ。次も生き残れる保証はない。それに、もう日が暮れている。何時間立ったのだろう。いい加減ここに奴らが集まってくるだろう。
「行こう」
そう言って地面に左手をついた時に左腕に巻かれた包帯に気づいた。
「これ、温海さんが?」
「素人ですけど止血した後に包帯巻いときました。母が看護師だったんですよ」
俺も、彼女の両親に間接的とはいえ助けられたことになるのか。感謝してもしきれない。
「生き残れたら俺にもお墓参りさせてよ」
「はい、お願いします」
あれ、今俺ってなんで?
「神宮さん!周りに!」
叫び声に我に返り周りを見渡す。周りに犬トカゲとヤツメウナギが集まってきた。流石にかなりの時間がたってる。敵が来るのも当たり前だ。
「これ、逃げ場ないじゃん」
逃げろと叫ぶ本能を何かが書き換えていく。奴らを殺せと何かが叫ぶ。こいつらを皆殺しに!
僕は、何を考えているんだ?でも今はヤルしかない!
「包丁とハサミ、貸してくれる?今は、とにかく手数が欲しい」
「は、はい!」
僕は、二つの得物を温海はゴルフクラブを構える。あれ?なんだろう。不思議な感覚だ。アドレナリンの興奮によるものではなく左腕の痛みが引き始める。どうしてだろう。でも関係ない!今は!最善を尽くすだけだ!
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さっきの爆発、おそらくは生存者だろう。少し遠い。でも、助けを待ってるはず。
「なら、助けに行くのが道理!救援が来るまではあと2時間ぐらいかな?それまで私がみんなを守らなきゃ!待ってて!今助けに行くよ!」
私は爆発現場へと駆けだす。
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「うおおお!」
とびかかってきた勢いを使い犬トカゲ切る。血が噴き出し体中にべっとりとへばりつく。あれから何体倒しただろうか。左手もなぜか完全に使えるようになっている。さらに、温海さんは、息切れし始めているにもかかわらず僕は一切息が上がらない。普段は少しの運動でバテてしまうのに、疲れるどころかむしろ。
「うわ!」
飛び掛かってきたヤツメウナギを避け右手の包丁でで後頭部を一突きする。考え事をしている暇はないか。どんどんと動きが洗練されていく。まるで、今まで戦ってきていたように強く、速くなっていく。
「ごめんなさい!そっち行っちゃいました」
「大丈夫、倒したから」
「はあ、はあ、強いですね、神宮さん何かやってたんですか?」
「特に何もやってないな!」
化け物どもを捌きながら返事をする。にしてもこいつらゴキブリかよ。
「キャ」という短い悲鳴が聞こえ振り向くと折れたゴルフクラブとともに右腕に傷を負った温海と彼女を襲おうとしている犬トカゲとヤツメウナギが見える。
「温海!!」
足に体中の力を籠め、駆け出した。速く!もっと速く!まだ!足りない!
力をもっと速く駆け付けられる。そんな力を!
「うおおおおおおおお!」
瞬間、今まで感じたことのない力を感じた。体が熱い。全身を力が駆け巡った。まるで、車の窓から顔を出したときのような風圧を感じる。僕が信じられない速度で走っている。これなら間に合う!!
「うおおお!くたばれーーー!」
完全回復した左手で犬トカゲの首を右手でヤツメウナギの胴体を切り裂く。柔らかかった。さっきまでよりも確実に、柔らかかった。
「大丈夫?熱海さん」
「神宮さん、鼻から血が」
「え?」
確かに鼻から垂れる水分を感じる。さらに強い頭痛を感じる。口から血がこぼれ出る。体が軋むように痛い。血の気が引く。脳が揺れる。意識が飛びそうだ。何だこれ?周りにはまだたくさんの敵がいるのに!こんなところで意識が飛ぶなんて駄目だ。温海さんと生き残るって決めた!意識を保て!倒れるな!気合で何とかしろ!
「神宮さん!後ろ!」
背後から背中を大きく切り裂かれ体勢を崩す。痛い!痛い痛い痛い!左腕の時の比ではない。
だがここで倒れるわけにはいかない。
「この野郎!」
倒れかけた姿勢のままヤツメウナギの足を刺した。するとヤツメウナギが倒れる。そのまま奴にまたがり胸をめった刺しにする。じたばたと暴れていたヤツメウナギが段々と静かになっていく。
駄目だ。先が見えない。どんだけ倒してもキリが無い。しかもこっちは消耗が激しい。もうだめかもしれない。奴らが迫ってきた。流石にもう終わりか。短かったなー俺の人生。目を瞑りその時を待つ。しかしその時は、来なかった。
「そこの二人、大丈夫?ってえー!真希じゃない!」
空から降りてきた少女が一瞬で周りの化け物を一掃した。その姿を見て僕は、綺麗だと心の底から思った。
「ね、姉さん!?」
「ええええええええええええ!姉さん!?」
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