第1話 つまり本当にプロローグ
最悪な夢だった。
どっかのデブがいろんな悪行を繰り返し、恥を重ねに重ねまくって国を裏切って女の子を手籠めにした挙句、ぶっ殺される夢だ。
妙に現実感のある夢だったが、何が最悪ってその夢の中の自分の配役が豚なのだ。
別にあまりドラマや漫画なんて見るわけでもないのになぜあんな突拍子もない夢をみたのか。
というか見るにしてももう少しないのだろうか。
昨日しこたま殴られすぎたショックかもしれない。
まあ、気持ちを切り替えて朝の日課のトレーニングでもこなしていくかと寝床を出たところで気づく。
明らかに、自分の家ではない。
荒事の後によく担ぎ込まれる病院でもない。
生まれてこのかた日本から出たことがないので何となくのイメージでしかないが、海外のバカ高いホテルの一室がこんな感じではないかと思う。
何畳かもわからない部屋にはよくわからんきんきらの装飾品が所狭しとおかれ、高そうな絨毯がひかれている。
起き上がってわかったが、今まで自分が寝ていたベッドでさえ熊でもねれそうなほど大きい。
寝ぼけていた頭が一気に切り替わる。
つまり状況としては自分は今拉致されているわけだと思いつく。
その割にはなぜか拘束もされておらず、見張り番もいない状況で豪華な部屋で寝かされてるという摩訶不思議な状況にも困惑していた。
危険な状況に警戒心を一気に引き上げながら部屋を探ろうとしたときに不意に横にある鏡が視界に入る。
その鏡には見慣れたやせこけた獣のような目をした日本人の姿はなく、さっきの夢で見たレオナルドを小さくしたような姿が写っていた。
「は?」
自分の声に合わせて鏡のレオナルドが動く。
訳も分からずに鏡に近づいてペタペタと触る。
鏡の中のレオナルドも手を突き出してくる。
顔をふるとレオナルドも同じように動く。
屋敷に叫び声がこだました。
「どうしましたかお坊ちゃま!」
血相を変えて部屋に飛び込んできたメイドのドロシーは、鏡の前で固まっている私を見つける。
わけのわからん事態に混乱の極みにある私の額を触り熱はかり、体に異常がないかを確認する。
毎度のことながらドロシーは過保護すぎるのだ。
私ももう十にもなったのだからと思ったところで気づく。
ドロシーって誰だ。
というか十歳ってなんだ。
その瞬間さきほど見た夢の内容と、これまでのレオナルド・フォン・プレイステッドの全てが流れ込んでくる。
一瞬の内に十年間とこれからの未来が頭にぶち込まれて思わず膝をついてしまう。
しかし、それを目の前で見ていたメイドは大慌てだ。
「お坊ちゃま! やはり未だにお体が優れないのですね! 回復魔術をかけたとはいえ倒れたあと三日も寝込んでましたから……。今すぐに医者を! 医者を呼んでまいります!」
ふらふらな坊ちゃまの前でヒステリックに叫びちらす。
相変わらず忙しい奴である。
「良い。少し疲れただけだ」
言ったものの、ドロシーは納得できないようだ。
「しかし、病気やケガというものはぱっと見ではわからぬもので、もしお坊ちゃまにもしものことがあればと思うと気が気でならないのです。先ほども叫んでらしたではありませんか」
重ね重ね心配してくる。
だが、現状の確認を落ち着いて行いたいのだ。
優しさをはねのけるようで悪いが一人の時間が欲しい。
「さっきは、久々に動いたゆえ体が上手く動かず足が突っ張ってな。思わず叫んでしまったのだ」
その後もあーだこーだとまとわりつこうとするドロシーに退場してようやっと退場してもらう。
一息ついたところで思わずつぶやいた。
「どえらいことになったなぁ……」
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