最終話 華麗なる貴族レオナルド・フォン・プレイステッド

 「ぶひゅひゅっ。やはり美しぃ……。その黄金色の髪は僕ちんに愛でられるためにあるのだぁ……」


 豚。

 あまりにも豚である青年が、見目麗しい女性の髪を撫でつけながらつぶやく。

 その恍惚とした表情は、この世界の全てから拒否されるであろう醜悪さをたたえている。

 ねちっこい手つきで絹のような黄金の髪をすく。


 「下郎……。たとえ体を好きにしても、何をしても私の心は手に入りませんよ」


 豚に愛でられている少女は、声を体を恐怖と嫌悪に震わせながらも気丈にふるまう。

 その、涙でぬれている反抗的な目が、事ここに至っても諦めない性格が、そして絶望の中でも気品を忘れない気位が、その全てが豚を興奮させる。


 「ぶひゅぅっ! 流石はアリア。王家の至宝。苦心して手に入れた甲斐があるよぉ……。でも、お友達も最初はそう言ってたんだぁ」


 そういいながら後ろの天蓋を付き人に開けさせる。

 

 「ああっ。シャーロット! オリヴィア!」


 あられもない姿でベッドに伏している女性二人を見て思わず叫ぶアリア。

 最も信を置いている友人の有様にショックだったのと、これからの自分の未来をまざまざと見せられて、さっきまでのぎりぎりで保っていた勇気にひびが入る。


 「ああぁぁあっ! 素晴らしいぃっ! 美しいよっ! アリア! もうたまらないよぉ!」


 興奮が最高潮に達した豚は、もう待ちきれないとばかりにアリアの右腕を掴んでベッドに引きずっていく。

 抵抗をしようとも隷属の魔術がそれを許さない。

 魔術も使えない。

 力も入らない。

 許された自由はただ涙を流すのみ。


 「誰か! 助けて! アレン! 助けて!」


 叶いもしない願いを思わず口にしてしまう。

 想い人への弱音を吐いてしまう。


 その言葉にかすかに苛立った豚は手を放す。


 「まだあんな奴の事を言ってるの? あんな平民は君に釣り合ってないんだよ」


 豚は平民の癖にアリアに好意を寄せられ、周りに好かれ、学園でもてはやされる男を思い出す。

 やることなすことが周りから肯定されるあの男の事を考えるだけで豚は反吐が出そうになる。


 「あいつも不遜にも僕ちんのアリアに懸想してたみたいだけどさぁ……」


 しかし、それも。


 「でも、結局アリアも他の女も手に入れたのは僕ぅ! やっぱり真の愛はかつぅ! 僕ちんこそが神に寵愛をうけし選ばれ者なんだよぉ! ぶっひょっひょっひょ」


 豚の高笑いと、アリアのすすり泣く音が部屋を満たす。

 だから気づかなかった。


 「そいつはどうかな?」


 ここにいないはずのあの男の声を背後から聞く。

 

 ズグッと重く湿った音を聞く

 振り返ろうとするも、体が動かない。

 体が何かに固定されているようで振り向けない。

 なんだと見下ろすと胸から剣が生えていた。


 そうして、全てを手に入れかけた豚ことレオナルド・フォン・プレイステッドの未来が終わりを告げる。

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