幕間16 かつての記憶 聖女の懺悔/賢者の我が儘

幕間16


スピカside


「神よ、卑しい私をお許しください………」


聖堂にて、私は神に懺悔した。


「私は、彼に恋をしてしまいました………」


それは、本来は許されない物です。


私は彼等をこの世界へと拉致し、戦闘を強要した悪女に他なりません。


私は加害者で、彼は被害者。


結ばれる訳がない2人で、結ばれるとしたら物語の中でしか有り得ないでしょう。


「だからこそ、私はリンさんの甘言に乗ってしまいました………」


どれだけ罪悪感を抱こうとも、私は所詮卑しい女でしかなかったのです。


どうしようもなく、彼が居たという証拠が欲しくなってしまったのです。


彼が遺した英雄譚でも、詩でも、絵画でもなく、形のある愛が欲しくなってしまったのです。


「陽華に影華、貴方達の言った通りになってしまいましたね………」


どうせなら、彼女達とも同じ様に彼との子を抱きたかったですね………


「────覚悟は決めました。私は悪女、彼を苦しめ続けた毒婦。なら、それを貫き通してみせましょう。」


唯のスピカ・ドラグニスとして、愛され様なんて虫の良い話なのだ。


「民達は私の事を最高最善の聖女様と言いますが、今の私は最低最悪の聖女様なのでしょうね………」


我欲の為に、また彼へ無理難題を強要しようとしている。


────でも、それが何なのでしょうか?


「クソアマ聖女、でしたか?昔はよく貴方にそう言われましたものね………」


一度吐いた言葉を飲み込むのは恥ずべき行為ですよね、勇者様。


貴方が私にのだから、私は最後までその通りにしてあげましょう。


「愛しています、勇者様。例え、貴方が私にどんな感情を向けようと愛しています。」


────しかし、少し残念です。


どうせなら、意識を保ったまま、混じり合いたかったですね………


昔見た、あの黒い剛直に────


「きゃっ♡」


☆☆☆☆☆☆


リンside


「嫌だ!嫌だ!!嫌だよ、勇者君!!!!」

「う、煩い………」


煩いって、何だよ勇者君!!


僕が恥を捨てて駄々をこねているのに、君は邪険にするのかい?


「いや、俺は普通に帰るからな。」

「嫌だ!!!!」

「そんな事を言われても………」

「鬼畜!鬼畜勇者め!そうやって、僕を捨てるんだね!要らなくなったら、ポイって紙くずみたいにさ!!」

「人聞きの悪い事を言うなよ………」

「いいや、絶対にそうだ!僕達を穢した癖にポイ捨てする気なんだぁ!!!」

「お前、何かヤッたか?」

「感情を増幅させる魔法使ったんだよ!!そうじゃないと、こんな恥ずかしい事なんか出来ないじゃないか!!」

「お、おう………」


そこまでしたのに、何で帰るんだよう!!


もっと一緒に居ようよ!!


だって、君………君はもう…………


「────何度言っても俺は帰る。待たせてる奴が居るからな。」

「待たせてる人!?初耳、初耳だよ!!か、家族だよね?か、家族の事なら仕方が────」

「家族もそうだが、俺の彼女だよ。大切な幼馴染でもあるんだけどな………」

「────は?」


本当に初耳だよ………


君と愛し合っている存在が居るなんて、知らなかった………


────知りたくなかった。


「────はぁ、もう良い。君が諦めないのは僕達がよく識っている。そして、いつも折れるのは僕達だ。」

「すまんな………」

「別に良いよ、勇者君………」


────プランを書き換えるだけだから。


愛し合っている人が居る………


────だから、どうした?


彼が帰るまでに色々と奪って、それで心の中でマウントを取ってやれば良い。


いや、その上で僕達が彼の世界にに行ってやれば良いのた。


その時、こう言ってやろう………


「貴方と一緒に居ない間、僕達も愛して貰いました」、ってね………


「ふふ………」

「急に笑って気持ち悪いぞ、リン。」

「いやぁ、良い事を思いついてね………」

「お前が思いつく良い事が良かった示しが無いんだが?」

「今回は大丈夫だよ………」


やる事がいっぱいだね………


安定したゲートの開門、時系列の帳尻、別世界での身の振り方………


考えなきゃいけない事がいっぱいで、僕の残りの寿命で足りるか理解わからないが、やり遂げてみせよう。


「皆も誘わないとですね………」


仲間外れは可哀想だからね………


────皆には共犯になってもらわないと。


「さぁ、最高の八つ当たりを始めようか!」

「誰にするつもりだよ、お前………」

「さぁ、誰にだろうね?」

「────程々にな?」

「ふふ、勿論さ………」


────言い付け通りに出来るかは、保証しないけどね♪


続く

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