第72話 仲良しな勇者と魔王

第72話


悪霊レイスとは仲間を誘う物である。


生者を呪い、恐れさせ、取り込む。


そうする事によって、自分と同じ存在を増やしていくモンスターだ。


魂に干渉する力は誰よりも強力で、精神汚染能力ならモンスターの中でトップクラスと言っても良い。


そんなモンスターの力を魔人族が持っていたとしたら………


────その存在は間違いなくと呼ばれるであろう。


☆☆☆☆☆


「はぁ………貴方、この世界でも相当やらかしてますね。」

「そうか?俺の分身自分の子供に何をしようが勝手だと思うがな。」


それはそう、なのでしょうね………


少なくとも、貴方の種族的には別に可笑しな話ではないのでしょう。


最初はビックリしましたけど、貴方が私との子供をどうしようが構いません。


結局の所、のですから………


唯、私がやらかしたと思っているのは………


「貴方、ポコじゃか増やすなら、せめて少しだけ違う様な顔にしなさい。この同じ顔っぷりだと、色々と面倒な目に合ってきたのではなくて?」

「────はい?」

「あれ、私変な事を言いましたか?」

「お前、さては忘れてるな?」


はて、何をでしょうか………?


「俺のスキルの効果なら、殆どの奴がの事を別人の顔に見えてるよ。」

「ああ、【無貌の神SAN値チェック】ですね。私には効きませんから、すっかり忘れてました。」


これ、私以外だと本当に厄介なんですよね。


見る人によって姿形、時には性別すら変わる物だから、容姿が盛られに盛られて魔人族側からも「えっ、何これ、怖っ………」みたいな扱い受けてましたからね………


しかも、コレを利用して普通に私達の所へ遊びに来てましたからね、彼女。


私以外には気が付かれない物だから、本当に面倒でした………


このスキル、悪用すると相手の怖い姿に変身できますからね………


全く、先週の土曜日に出てた幻視怪獣じゃないんですから………


「貴方、魔王軍幹部を倒した後に話しかけられた時は流石にビックリしましたよ。仲良さそうな雰囲気で「やぁ、勇者!奇遇だね、酒飲みに行こうぜ!!」って言われた時の気持ちは思い出したくもないですね………」


────正直、めっちゃ怖かったです。


他の皆は「友達?居たの?」みたいな目で見てくるし、こんな辱め方があると初めて識りましたよ………


「ああ、懐かしいな………」

「というか、異世界での貴方との記憶は殺し合いか、交遊かのどちらかですからね。」

「そう思うと、何で殺し合ってたんだろうな、俺達?」

「────私がで、貴方がだからでしょう?」

「そうだな!俺が、お前がからだな!!」


はぁ、因縁という物程、面倒な物はありません。


それさえなければ、貴方が私のキモストーカーという一点を除けば、仲良く出来たでしょうに………


「はぁ、これ以上湿っぽい空気は我慢なりません。早く酒を持ってきてください。」

「おう、そうだったな!そろそろ、成人した私の娘が県中から集まってくるだろうから、全員集合したら飲もうぜ!」

「………一応聞くんですけど、何人来るんです?」

「えっと………50人くらい?」

「多いですね、娘!?」


ねずみ算式に増えてるのかな!?


「ちょっと前まではそうだぞ?」

「ええ………」

「孫の俺が何人か増えた時点で止めた。今の所、これ以上の戦力とか要らないしな。」


ああ、一応戦力扱いなんですね………


「「「「「「ただいま、俺!!」」」」」」

「おっ、俺が帰ってきたぞ。」

「何ですかね………軽くホラーですよ、この光景。」


────というか、これから50人以上もの同じ顔に囲まれるのですか、私!?


まぁ、酒が飲めるなら許容範囲内ですね。


そう思う事にしましょう、ええ………


☆☆☆☆☆


魔王レイナside


「いやぁ、楽しいねぇ………」

「ふふ、全くです………」


あの後、2人(その他大勢の自分も1人扱い)で沢山飲み明かした。


異世界でも似た様な事はしたけど、こんなに安心した状態で出来る日が来るとはね………


そう思うと、あの世界は本当にクソでしかなかった。


俺が魔王になったのも、シンが勇者になったのも人族のせいで、根本的な所ではあのクソバードのせいだ。


「なぁ、シン………」

「何ですか、レイナ?」

「俺達の戦いに意味なんて有ったのかな?」

「────有りますよ。少なくとも、そうでなければ、今の私達は存在しませんもの。」

「ふっ、その通りだな!」


辛く長い戦いだった………


止まるにはもう遅すぎた争いだった………


でも、それをコイツが止めた。


────やっと、止めてくれたのだ。


「ありがとう、シン。俺を殺してくれて。」

「どういたしまして、レイナ。望むなら、何度でも殺して差し上げますよ。」


ふっ、嬉しい事を言ってくれる。


また、殺されるのも良いかもしれない。


それは、俺にとってコイツからの愛を受け取るのと同じ事だから………


「あの後、どうなったんだろうな………」

「魔人族に関してはスピカ様がちゃんと世話をすると張り切ってましたよ。貴方が頑張ったお陰でね………」

「ふ〜ん、あの性女がねぇ………」

「まぁ、あの戦争の真実を知ってるのは私達勇者パーティーだけですからね。それに、あの共闘を経て、和解の可能性を信じたのだと思いますよ。」

「出来てるかねぇ………」

「出来ますよ、今の私達が出来てるのですから。」

「────だな。」


なら、俺の愚行も無駄じゃなかったのかな?


「────ん?」

「どうかしました?」

「────どうやら、害獣が出たらしい。」


全く、因縁は何処までも私を追いかけてくるらしい………


はぁ、俺と勇者の時間に水を差しやがって!!


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る