第46話 彼女の面影

第46話


「ぷはぁ、普通のビールも良いね!」

「でしょう?たまには、こういうのも飲んでみる物です。」


あの後、アリス達は帰っていった。


最初は俺もそれに続くつもりだったのだが、ミリスちゃんに………


「お父さん、今日は私の妹と一緒に居てあげて!」と言われてしまった。


なので、俺はユンと一夜を過ごす事になり、二人でお酒を飲んでいた。


「へぇ、お前は弱くないんだな………」

「アリス義母上様と一緒にしないで下さい。アレはちょっと弱過ぎますよ、物凄い爆弾発言までやらかしてましたし………」

「ぐっ、確かにアレは堪えた………」


何でも未だに秀くんがこの騒動をどうにかする為に奔走しているとか………


会う度に死んだ様な目になってるしな………


────まぁ、俺のせいもあるのだろうが。


「いきなりの爆弾発言はキツかったよ。まさか、俺が育児放棄するクソみたいな父親になってるとはな………」

「────いや、父上様は悪くないのでは?正直、それで産まれた私が言うのもなんですが、この件に関しては秘密にやったアリス義母上様やスピカ女王様、母上様の3人が悪いと思いますよ。何より、父上様は何も知らなかったのですから。」

「庇ってくれてありがとうな、ユン。」


でも、違うんだよ………


「────知らなかったから、自覚が無かったから悪くないなんて、唯のクソみたいな言い訳だ。もし、それがまかり通る世界なら、無知も無自覚も罪にはならないんだ。」


俺が無知だったから起きた被害があった、俺が無自覚だったからこそ防げなかった悲劇があった。


あの世界で、何度も突き付けられた現実は、俺に罪から目を逸らさない様に刃を突き立ててくる。


いくら、どんなに傷が治る身体だろうと、この傷は決して治らない………


はぁ、酒の席なのに、嫌な思い出を思い出しちまったなぁ………


「────母上様の言った通りですね。」

「ん、何がだ?」

「そうやって、自罰的な所です。」

「アイツ、変な所まで教えやがって………」

「ふふ、私達の世界に来た頃は、魔王を倒したら今度は私達を滅ぼしに来そうな勢いだったとも聞いてますよ?」

「やめて!それは俺の黒歴史なんです!!」


最初の1年はマジで悲惨なのと、小雪の奴と離れ離れになったせいで、荒れに荒れてたからな………


特に聖女様………お姫様には何度も凄い暴言吐いちまったし…………


今思えば、あの時の俺はマジで酷いな………


「ふぅ、さて………」


色々と思い出して落ち込みそうなので、気分転換にと煙草を取り出す。


………あっ!!


「す、すまん、つい、リン達と居る時みたいにしちまった。」


あの頃は、アリスを除いた3人だけの場所だとお構いなしに吸ってたからな………


何なら俺に煙草教えたのはリンだし、スピカ様なんか俺達が吸う姿を嬉しそうに見る危篤な方だった………


「大丈夫ですよ、私も吸いますし。」

「そうなのか、肺に悪いぞ?」

「父上様が言います?それに、私達が持ってるレベルのポーションなら、肺のダメージも汚れも綺麗さっぱりでしょう?」

「それもそうか………」

「はい。それに煙草は嗜好品としてだけじゃなく、魔法の儀式にとっても大切な物ですからね♪」

「俺もそう言われて、この世界に入門させられたよ………」

「ふふ、私も母上様にそう言われて始めた口ですね。」


成る程、お互い唆された側らしい………


アイツ、賢者より詐欺師の方が上手く行ったんじゃねぇかな………


リンの交渉のお陰で何とかなった事が沢山あったしな………


────まぁ、最終的には力技になる事の方が多かったけど。


「ほら、火を着けてあげますよ。」

「おう、ありが────何で弓と矢を?」


ユン、どうしてそんな物を取り出してるんだい?


それに、どうして上向きに放とうとしてるんだい?


そのままだと、天井に────


「着火しますね♪」

「うおっ!?」


そう言い切った瞬間、俺の煙草の先を何かに射抜かれる。


そして、ちゃんと火は着いたのだが………


「そんな着け方は止めてくれ!!心臓に悪かったぞ、お前!!!」

「サプライズですっ♡」

「その言葉で誤魔化せる様な物じゃないよ、コレ!?」


コイツめ、酔った時のリンみたいな事をやりやがって………


最大火力の〘炎魔弾フレイム・バレット〙を撃ってきたリンよりはマシなんだけどさ………


あの時は煙草の方が先に消し炭になったせいで何も楽しめなかったし………


「そういう所、本当に母娘だよ………」

「そうですか?ふふ、嬉しい。」


彼女は嬉しそうに微笑み、取り出した煙草にライターで火を着ける。


おい、お前………


そんなのが有るなら、俺にもそれで着けてくれよ、頼むから………


「そういうナチュラルに性格が悪い所もリンそっくりだ。」

「ふふ、ありがとうございます。」

「褒めてねぇし、嫌味だよ!!」

「知ってます♪」

「だよね!!」


めっちゃ疲れる………


────疲れるが、楽しいな。


本当に昔に戻ったかの様だ………


「それに母上様から聞いてますよ。」

「何をだ?」

「────父上様も大概性格が悪いって。」

「ははは、あのクソアマエルフ、絶対にぶっ飛ば……せないんだよな、もう………」


どうして、先に逝っちまったんだ、リン?


続く

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