第35話 親と子

第35話


進side


「すみません、ちょっと気分悪いのでもう帰りますね。」

「そうなの?大丈夫、秀くん?」

「あ、アリス………ちょっとだけ、ちょっとだけだし大丈夫だよ、ごめんな。」


と、百面相から真っ青な顔になった秀くんは帰っていった。


恐らく彼の感情に気が付いているであろう親御さんも含めて、目茶苦茶いたたまれない。


アリスの事情を話す前とは別ベクトルでキツくて血反吐を吐きそうだよ………


「本当に大丈夫かな、秀くん?」

「まぁ、秀さんなら大丈夫だよ。次に会った時は私にまたお小遣いをくれる位に元気になってる筈だよ、絶対。」

「それは貴方の願望でしょ?秀くんに甘えるのは別に良いけど、甘え過ぎないのよ?」

「ん。」


で、何も気が付いて無さそうな二人はノホホンとした会話を繰り広げている。


温度差が酷過ぎて、同じ物を見てるかどうか疑わしいよ、全く………


「えっと、じゃあ、その、色々と積もる話もあるだろうし………」

「私達も帰りますね………」

「えっ?」


もしかして、親御さん達も帰るの!?


俺をこの二人の間に1人残して行くの??


「ああ、じゃあ、俺も新宿ダンジョンに帰ろうかなって………」

「「ん。」」

「帰ろう………かなって…………」

「「ん!」」

「はい、残ります………」


くっ、圧に負けてしまった!


……俺は………弱い!!!


☆☆☆☆☆


「あの………ミリスちゃん…………?」

「何、お父さん?」

「俺は何時まで君にマウントを取られてなきゃいけないのかな?」


あの後、何故か仰向けに寝かされた俺はミリスちゃんに乗っかられていた。


まぁ、まだまだ軽い上に強くないので、ちょっとこそばゆいだけなんだけど、流石に長く続くと辛いのだ。


アリスも微笑ましそうに見てないで、降ろしてくれよ………


「私達をずっと放置してた分かな。」

「それを言われると何も言えなくなるから止めて!」


いや、傍から見たら責められる理由は無いに等しいんだろうけどさ。


でも、自分の事だけにかまけてアリスの事を放置していたのは事実なので、罪悪感が凄いのだ。


しかも、ミリスちゃんを片親状態にさせてしまっていたという事実も上乗せされ、かなりキツい。


色々と言いたい事や何回かぶっ飛ばしたい思いもあるが、クソアマエルフや聖女様にもそういう思いでいっぱいだ。


クソアマエルフの方はハーフエルフ、聖女様は王族関係と厄ネタ満載だろうに………


「駄目よ、ミリス。」


おっ、やっと、助けてくれるのか?


「首に手を添えて絞める勢いじゃないと、貴方の気持ちは伝わらないわ。」

「クソみたいな英才教育はやめてくれる!?」

「うん♪」

「うんじゃないよ、ミリスちゃん!?」


巫山戯るんじゃないよ、この天然母娘!?


そういうのは、将来できるであろう好きな人にやってくれ………


「う〜ん、眠くなってきた。」

「そうなのか?なら、寝室に連れてってあげるよ。なぁ、アリス。この子の部屋は場所は何処だ?」

「嫌、教えない。」

「何で!?」

「ん。今日は皆で一緒に寝る。川の字、楽しみ。」

「だから、私の寝室に案内するね。」


はぁ!?


「流石にそれは………ちょ、力、強っ!!??」


無理矢理引っ張られ、寝室へと連れ込まれていく俺。


普通、立場逆じゃねぇかな?


☆☆☆☆☆


「う〜ん、ムニャムニャ………」

「やっと、寝たな………」

「うん、今日は何時にも増して元気だった。進様のお陰だよ。」

「そうか?なら、良いんだが………」


川の字の状態になっても元気に暴れていた彼女も、時間が経てば大人しく寝てしまった。


まぁ、それまでの間に大分ボロボロにされてしまったが………


「………ありがとうな、アリス。」

「えっ?」

「いや、ちょっとな………」


スヤスヤと眠るミリスちゃんを見ながら、思わず感謝の言葉を口にしてしまう。


「………今日、この娘に会えて本当に良かったよ。」

「進様………」

「この世界に頑張って帰ってきたのにさ、絶望しかなかったんだよ、俺。」


帰るべき場所も、会いたかった人の全てが時の流れに無情にも押し潰された。


探せばまだ居るのだろうが、そこまでして見つけようとも思わない。


────50年、50年も時間が経ってしまったのだ。


既にアイツ等自身の人生を歩み続けたであろうに、それを俺のワガママで壊す訳にいかない………


────俺はそう思った。


まぁ、要するに、日和ったのである。


異世界だと、「日和ってる奴居る?居ねーよなぁ?」とか言う立場だったのに、情けない限りだ。


「でも、その先には希望があった。このミリスという子が、ね………」


パンドラの匣じゃないけれど、俺が未来へ残せる物は確かに在った。


俺という存在がこの世界にもちゃんと居たという証拠が、確かに残されていたのだ。


────いや、それだけじゃない。


「────だから、ありがとう。こんな俺の娘を産んでくれて。」


心の底から、君に………君達に感謝を捧げよう。


もう、異世界に残った彼女達との子達は見れないかもしれないけれど、ミリスちゃんだけはちゃんと見続けてあげられる。


俺がくだらない魔王討伐を死ぬ程、死に続けながらも見たかった夢の続きを、俺はやっと見る事が出来る様になったのだ。


「この世界に帰ってきて、本当に良かった!これでやっと、俺は前に進める。」


アイツには申し訳ないけれど、俺はこの夢をもう少し見ていたい。


「ごめんな、………」

「誰、その人?」

「ん?ああ、俺の幼馴染で恋人だった奴の名前だよ。まぁ、初めてSEXした次の日に俺が異世界転移させられたんだけどな………」


本当に酷い話だろう?


心も身体もやっと繋がった直後に、こんな目に合わされたのだから………


「そんな!進様は私と初めて同士を交換したんじゃないの!?折角、賢者様や聖女様が譲ってくれたのに!!??」

「今気になる所、其処かなアリス君!?」


俺、一度も童貞だってお前らに言った覚えはなかったぞ!!


「そ、そんなぁ………」

「う〜ん、変な空気になっちまったし、もう寝ようぜ。」

「う、うん………おやすみ。」

「おう、おやすみ。」


続く

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