異世界に召喚され帰還した元勇者、帰還したら50年も経ってて浦島った上に現実世界もファンタジーに侵食されてた件〜しかも、いつの間にかダンジョンの番人扱いまでされてるオマケ付き〜
第34話 変わってしまった君と変われない俺
第34話 変わってしまった君と変われない俺
第34話
秀side
年齢的に出産を危険視されていた彼女は、無事に娘を………ミリスちゃんを出産した。
彼女がミリスちゃんをあやす姿は見事な迄に胴に入っていたし、彼女が母親になったという現実を嫌という程に自覚させられた。
「あーうー?」
「ふふ、可愛いでしょ?」
「………うん、可愛いよ。」
アリスが見つかった今、俺が探索者をする意味はあまりない。
探していた場所には彼女は居なかったし、命を賭ける理由も無くなったのだ。
だからといって、俺は彼女から離れるつもりは一切無い。
例え、それが彼女が何処の誰なのかも知らない男の子供を産んだとしても………
「きゃっきゃきゃっきゃ♪」
「あ、ミリスが秀くんを掴んだ。」
「あ………」
ミリスちゃんの笑顔が、まだ赤子なのにアリスの笑顔と重なって見えてしまった。
────ああ、そういう事か。
俺のやるべき事は………
「………アリス、何かあったら俺にも頼ってくれよ?」
「え、うん。秀くんの事は昔から頼りにしてるよ?」
「………なら、良かった。」
俺のやるべき事はアリスとミリスちゃんを守る事だ。
俺が出来る事の全てを賭けて、彼女達を守るんだ!!
☆☆☆☆☆
それから何年か経ち、彼女もかつての俺の様に探索者になった。
理由を聞くと「小遣い稼ぎ」らしい。
そんな生半可な気持ちでやるのは危ない、そう思っていたのだが………
「嘘だろ………?」
アリスは目茶苦茶強かった。
しかも、世界に数人にしか居ないと言われてる固有魔法持ちだった。
「ねぇ、秀くん。」
「な、何だ、アリス?」
「此処、こんなに弱い雑魚しか居ないの?」
正直、震え上がりそうになった。
此処は初心者向けのダンジョンだが、それでも完全に攻略できる様になるには最低でも数週間はかかる場所だ。
それを彼女はたった数時間で攻略した上に、モンスターを雑魚呼ばわりだ。
────俺は初めて彼女に自分とは格が違うと思い知らされた。
「秀くん、何か私EX探索者になった。」
「はぁ!?」
そして、気が付いたら一気に強者の頂点まで登り詰めていた。
本人曰く、「最年長の人が一番強い。玉砕覚悟じゃないと倒すのは無理。」だそうだが、俺みたいな奴等から言わせれば誤差みたいな物だ。
「そして、何かテレビとかにも誘われた。」
「マジか!?」
「だから、秀くん。」
「な、何か嫌な予感がするけど………」
「私のマネージャー的な人になってくれると嬉しい。よく知らない人にやられるやり、秀くんが良い。」
「………お前がそうまで言うのなら、やる。やってやるよ、アリス!」
「やった!ありがとうね、秀くん♪」
「ふふ、どういたしまして。」
こうして、様々なゴタゴタや想定外に巻き込まれながらも、俺は彼女を支えていく道を選び続けた。
まぁ、アリスが天然だったりするせいで、気苦労は若干増えてしまったが………
☆☆☆☆☆
「「アリス(お母さん)、誕生日おめでとう!」」
「ありがとう、ミリス!秀くん!」
今日はアリスが20歳になった誕生日、俺とミリスちゃんは盛大に彼女を祝う。
帰ってきてくれたアリスが、ちゃんと大人になれた日だ。
────祝福しない訳がないだろう?
「な、なぁ………」
「ん?どうしたの、秀くん?」
それに、俺は今日に決めていたのだ。
────彼女に告白する日を。
「後で伝えたい事があるんだけど、ちょっと良いか?」
「良いよ、秀くんだし。」
よし、約束は取り付けた!
後はバシッと、決めるだけだ!!
「ん。」
「あれ、ミリスちゃん?」
これからの事に思いを馳せていると、ミリスちゃんが俺の足の上にすっぽりとハマる形で座ってきた。
そして、俺の腕を引っ張って、自分に抱きつく様な形にし………
「………うん、ちょっとしっくりくる。」
「そうなのか?」
「うん、秀さんが一番。」
「そうか、そうかぁ………」
何だろう、ちょっと嬉しい。
ミリスちゃんがアリスと似た様な顔で笑いかけてくれるからだろうか?
「だからね………」
「ミリスちゃん?」
「貴方が私のお父さんだったら良いな。なんてね………」
貴方が私のお父さんだったら………
俺が、君の、お父さん?
お父さん、お父さん、お父さん!!
「はは、そうだな♪俺もミリスちゃんが娘だったら凄く良いだろうな!」
俺は思わず浮かれてしまった。
こんな事を言われてしまったら、もう俺は君のお父さんになる為に頑張るしかないじゃないか!
「────違う。」
「え、アリス?」
「良い、ミリス?秀くんはね、私の幼馴染で大親友なの。決して貴方のお父さんじゃないの。この言葉の意味、
「ひっ………」
アリスは完全にキレていた。
表情こそ真顔だが、周囲に漏れてくる彼女の怒気が重みを持って俺達を襲ってくる。
こんな怒気、子供に向けて良い物じゃねぇだろ?
何でそんなに怒ってるんだよ?
もしかして、俺が………
「ご、ごめんなさい、お母さん………」
「………うん、
ミリスちゃんが彼女に謝ると、直ぐに怒気を引っ込める。
────はぁはぁ、今迄で一番キツい空間だった。
「ごめんね、秀くん。この子が変な事を言っちゃって………」
「────へ?あ、いや、だ、大丈夫。気にしてないよ。」
「ふふ、良かった。秀くんは私の幼馴染で大親友だもんね。ミリスのお父さんになるなんて、馬鹿な事を考える訳がないもんね。」
「え………」
やっぱり、それって………
「ミリス、良い?もう秀くんに言っちゃっ駄目だよ。貴方のお父さんは、あの人だけの物なの。他の人に望んで良い物じゃないし、私はあの人しか受け入れるつもりはないの。」
「うん………」
「だから、コソコソ私の結婚相手を探そうとするのも無しにしてね。私は誰かと付き合うつもりも、結婚するつもりもないの。」
「何でバレ………はい。」
酷い話だ、結局はあの頃と同じになってしまった。
彼女が行方不明になった時、伝えたい事を伝えられなかった俺は後悔した。
でも、彼女は戻ってきてくれた。
だから、今度こそ伝えようとしたのだ。
それなのに、他ならぬ彼女自身に潰されてしまった。
伝える前に、伝える意味を消し去られた。
「────ちくしょう。」
彼女達に聞こえない様にそう呟く。
────俺は君を愛している。
愛しているのに、近い筈の君は遠くて、俺の声は届かない。
「何でこんな事に………」
こうして、俺は変われなくなってしまった。
────彼女を一度失ってしまったあの日、何も伝える事が出来なくなった自分から。
続く
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