第33話 変わらない俺と変わらない君
第33話
秀side
そ、そんなやめてくれ………
「間違いなく、貴方は私のお父さん。」
嘘だろ、ミリスちゃん?
何でそんな事をソイツに言うんだ?
俺に前言ってくれたじゃないか、「貴方が私のお父さんだったら良いな!」って!!
その言葉は全部嘘だったのか!?
どうして、こんな事になってるんだ!?
どうして、アリスがこんな男に………
可笑しい、全て可笑しい!!
アリス、君が突然居なくなってしまった日から全てが可笑しくなったんだ!!!
☆☆☆☆☆
「じゃあね、秀くん。」
「うん。バイバイ、アリスちゃん。」
小学校から一緒に帰っていた僕達は、いつもの様に別れを告げて、それぞれの家に帰っていく筈だった。
登校はこの場所で合流し、下校ではこの場所で解散する。
それがずっと続くと思っていた。
「秀。アリスちゃんが居なくなったらしいんだけど、何か知らない?」
「え?」
でも、その日を最後に彼女は行方不明になってしまった。
俺は小さい身ながら、ずっと彼女を探し続けた。
彼女と二人で一緒に遊びに行った場所を、何度も何度も探し続けた。
それでも、彼女は見つからなかった………
もしかしたら、ダンジョンに居るかもしれないと思った俺は、必死に身体を鍛え始めた。
彼女を見つける為なら、何でもやってやる!
☆☆☆☆☆
俺がそう決意した日から、10年が経とうとしていた。
「………アリス、俺はもう大人になっちまったぞ?」
願うなら、俺は君と共に大人になりたかったよ。
正直、心の何処かで彼女の生存を疑っている自分が居るのには気が付いていた。
でも、それを認めるのは心底嫌だった。
「絶対に見つけてやるからな………」
あの時、彼女と永遠の別れを告げてしまった場所でそう呟く。
あの日の決意を決して崩してしまわない様に願って………
「………此処は?」
「なっ!?」
こ、この声は………!?
「あ、アリス?」
「そうだけど………もしかして、秀くん?」
「あ、ああ!秀、秀くんだ!!お前の、お前だけの幼馴染な秀くんだ!!!」
突然、彼女が俺の前に現れた。
あの日行方不明になった時と変わらぬ姿で、俺の事を呼んでくれた。
色々と聞きたい事は沢山あるけれど、俺は再び彼女に会えた事でそれ等は全て吹き飛んでいった。
この奇跡の様な出来事に、俺は感謝した。
────神はいる、そう思った。
「良かった、本当に良かった!!」
「秀くん、大きくなったね。」
「お前が変わらな過ぎるんだよ!!」
だが、それは絶望の序章でしかなかった事を俺は思い知る事になる。
俺はアリスの姿に安堵し過ぎて気付く事が出来なかったのだ。
────彼女のお腹が太っているのとは何処か違う形で膨らんでいる事に。
☆☆☆☆☆
「はぁ、妊娠!?」
彼女が受けた精密検査の結果を知り、俺は再び絶望した。
彼女の歳が何故か1年程度の経過しかなかったのはまだ良い。
だが、一体誰がアリスにそんな外道な事をしたんだ!?
彼女はまだ中学生にすらなれない年齢なんだぞ!!??
どんな思考をしていたら、こんな鬼畜な仕打ちが出来るんだ!!!???
「しかも、もう5ヶ月以上経ってるとか、酷過ぎるだろ………」
もう彼女の中に巣食う新たな命を堕ろす事は出来ない。
全てにおいて手遅れという事だ。
「大丈夫なのか、アリス?」
「心配性だな、秀くんは。大丈夫だって何度も言ったよ?」
「………なら、良いんだ。」
彼女は何も知らない、何も
彼女の両親や他の人達はそれで納得してる様に見えたが、俺は納得出来なかった………
だって、彼女は明らかに………
「────様と私の子、無事に生まれてきてね。」
何を言っているかは聞き取れなかったけど、彼女はよく愛おしそうに自らのお腹を撫でていた。
その顔は、俺が一度もまだ見た事のない物だった。
その歳や身体には似合わない程に淫靡で、男をしった女の様な顔だった。
「────無事に産まれると良いな。」
「うん♪」
嬉しそうに頷く彼女に、俺は何も言えなくなってしまった。
あの時から伝えたかった事、再び会えた時に話したかった事、これからの事さえも絶望的な現実に潰されてしまったのだ。
「ねぇ、秀くん。聞いてくれる?」
「何だ、アリス?」
「私ね、もうこの子の名前を決めてるの。」
────聞きたくない。
でも、ちゃんと聞いてあげないと………
「………何て名前なんだ?」
「男の子ならカリス、女の子ならミリスって言うの。良い名前でしょう?」
「────そうだね、良い名前だ。」
心の底から、そう思った………
でも、願うのならば………
この願いが叶うのならば………
「やった♪あっ、私のお腹を蹴った!」
「────元気な子が産まれそうだな。」
「うん、そうだと嬉しいな。」
────ああ、彼女をこんな目に合わせた奴が恨めしい。
そして、それ以上に嫉妬してしまった………
────俺が彼女を孕ませたかった。
────俺と彼女との子供に、その名前を付けたかったよ。
続く
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