私の心に空いた穴 〜天涯孤独になった美少女に起きる奇跡から始まるラブストーリー〜

第11話

　あの日から放課後は生徒会の仕事か松岡君達がいる秘密の溜まり場に行くことが多くなっていて、以前より忙しくも充実していると思うことができた。

　今日は生徒会がないから秘密の溜まり場に向かうと藍沢さんが一人で雑誌を読んでいた。

「こんにちは藍沢さん」

「よっ！　可奈ちゃん」

　いつの間にか名前で呼ばれていた事に嬉しくて思わず頬が緩む。

「藍沢さんて弟妹がいるんだよね？」

　いつもの席に座ると勇気を出して藍沢さんに話しかけてみた。何だか藍沢さんて話しやすいから人見知りの私でも自然と声をかける事ができた。

「うん、ほら！　可愛いでしょ〜」

　スマホに映った写真には藍沢さんに肩を抱かれた弟妹が笑っていて、後ろにはお母さんが立って笑顔を見せていた。

「ほんとだ、可愛いね」

「可奈ちゃん兄弟は？」

「私一人っ子なの」

「そっかぁ、じゃあ寂しいよね。可奈ちゃんはお父さんと暮らしてるんだっけ？」

「ううん、今はひとり暮らしでお父さんも義理なんだ……」

「なんかウチより複雑そうだね。ひとりだとますます寂しくない？」

「でもお父さんの会社の人が毎日来てくれるから寂しくないよ」

「え、もしかしてそのお父さんて相当なお金持ちなんじゃ……」

「まだよく分からないんだ……あんまり話してないし」

「まさかそれって最近の話？」

「高校に入る前かな」

「めちゃ最近じゃん！　なるほどねぇ〜　お母さんは？」

　私は不意に泣きそうになって思わず顔を逸らしてしまった。

「あ、ごめん……聞いちゃまずかった？」

「……今年の2月に病気で死んじゃったんだ」

「ごめん……」

「いいの、私の方こそごめんね。変な空気にしちゃって……」

「私もさ、小学生の時にお父さん病気で死んじゃったから分かるよ……もしかしたら可奈ちゃんの方がもっと辛いと思うけど」

「私、お母さんと二人で今まで暮らしてたからショックで……時々何も手につかなくなったり気持ちが沈んじゃって……」

「誰でもそうなるよ！　私だって小学生の時だったけどしばらく周りが心配する程落ち込んでたもん。だけど弟妹やお母さんがいたから立ち直れたんだ。それにあの和が珍しく慰めてくれたしね」

「私も毎日家に来てくれる人とか学校の友達がいるから良かったよ。まだ立ち直れてないけど……」

「時間が経った今でもお父さんが死んだ時を思い出すと泣いちゃう。それはしょうがないと思うんだよね、だって当たり前な事なんだからさ。だから思い出して涙するのは一年に一回にしてる」

「一年に一回？」

「うん、お墓参りのときだけ……可奈ちゃんもさ、しばらくは無理だろうけど時間が経てばそう思う時が来ると思うよ」

「ありがとう藍沢さん……」

　初めて私は友達に胸の内を話していた。今まで誰にも言えなかった事が口からどんどん出ていったのは藍沢さんが同じ境遇だったからもあるけどそれ以上に信頼できる人だと思ったからだ。その期待に応えるように藍沢さんは親身になって話を聞いてくれた。おかげで心に抱えていたモヤモヤしたものが晴れた気がした。

　そんな時教室のドアが開く音がして、見ると松岡君を先頭に新田君と真田君が入って来た。

「お！　もう来てたのか！」

「仲良くなったね2人とも」

　新田君と松岡君が私達に話しかけながら席につくと真田君もトコトコと席についていた。

「あったりまえじゃん！　可奈ちゃんとは親友なんだから！」

　藍沢さんは私の肩を抱いてそう答えると私に「ね？」とウインクしてきた。私は反射的に頷くと笑顔で自慢げに松岡君と新田君に向いて笑い合っていた。

「もう6月かぁ……雨だる〜」

　しばらくした時、新田君は窓から雨の降る外を見ながら本当にだるそうな感じで呟いていた。

「ねえ！　夏休みになったら皆んなでどっか行こうよ！」

　そう言い出したのは藍沢さんだった。

「お！　いいねぇ〜」

「僕も賛成だ！　やっぱり海とか川でバーベキュー？」

　新田君と松岡君は乗り気な様子で返事をする。

「それもいいけど花火大会とかお祭りもよくない？」

「「あり！」」

　藍沢さんの提案に新田君と松岡君は声を合わせて同時に大きく頷いた。

「上条さんはどう？　何かある？」

「え？　私？」

　松岡君に話を振られると藍沢さんと新田君がうんうんと頷くので私は少し考えた。

「えっと、水族館とか？　あ、でも皆んなが行きたいと思う場所がいいかな」

「夏の水族館ていいよね〜　今度行こうよ！　じゃあ後は和だね」

　皆んなの視線が本を読んでいる真田君に向けられた。

「できれば日差しが強く無い所で……」

　真っ白な肌をしている真田君は日に焼けたくないみたいで、それを聞いた藍沢さんが呆れたような顔をしていた。

「ほんとに和は軟弱なんだから！」

「まあまだ時間はあるし皆んなが納得できる場所を探そうぜ！」

　それからしばらくどこに行くかで盛り上がっていた。私はいつもと違う夏休みが過ごせそうで楽しく話を聞いていた。