第6話

「あの、上条さん……」


 教室を出た私の後ろからクラスメイトじゃない男の人の声がして後ろを見た。


「あ……」


 そこにいたのはあの松岡君だった。いきなりの事で思わず後ずさってしまう。


「突然ごめん。僕、1組の松岡っていうんだ宜しくね」


「あの、何で私のことを?」


「まあ上条さんは有名だからね」


 また話した事もない人にそう言われるとこの前女の子達に言われた学校で一番有名だって事があながち嘘じゃないんだって思った。


「……何か用ですか?」


 何だか周りに人が集まり始めていて少し気まずかった。「なになに!」とか「どうしたの!」って声があちこちで聞こえる……できれば今すぐここから消えたい。


「上条さんを生徒会に誘いに来たんだ」


「ええ……」


 いきなりの難題に思わず嫌そうな声が出てしまった。


「実はこの学校さ、生徒会に一年生を2人入れなきゃいけないらしくて昨日生徒会の人に勧誘されたんだ。で、もう1人を僕が決めてくれって言うから上条さんなんてどうかなって思って」


 何で私なんだろう……普通なら仲の良い友達とか選んだ方がいいと思うのにな。


「私、そういうの向いてないと思う。あまり人とうまく話せないし……」


「ああ、それは大丈夫だよ。あくまで先輩達のサポートだから、お願い! 夏の選挙までだからさ」


「少し考えてもいいかな……」


「まあすぐにじゃなくていいよ。また返事を聞きに来るから考えておいてね」


 松岡君が手を上げて去っていくと私は急足でその場から離れた。


 家に帰る途中それが頭から離れなかった。


 生徒会か……。


 中学生の頃も生徒会はあって、みんなの前に出なきゃいけないし、やることも多そうだから気が引ける。


 椎名さんに相談してみようかな。


「可奈おかえり!」


「ただいま椎名さん」


 玄関で迎えてくれる椎名さんに生徒会の話を聞いてもらう事にした。


「へぇ〜 生徒会かぁ! いいじゃない! せっかく誘ってくれたんだしやりなさいよ」


「でも、私あんまり人とうまく話せないし暗いから」


「誘った子がちゃんとした子なら大丈夫じゃない? あんまり重く考えないで何事にも前向きにね。やって良かったって思うかもしれないわよ」


「……じゃあやってみようかな」


「決まりね! そうそう! 買ってきたわよ! ライナの新曲!」


「ありがとう椎名さん」


 この前アンコールで歌った曲がすごい話題になってこの前CD化されたんだった。学校でもそんな会話が耳に入ってきて皆んないい曲だって褒めてて嬉しかった。


 早速ミニコンポにCDを入れてスイッチを押すとあの曲が部屋に流れてくる。先日行ったライブを思い出しながら聴き入っていた。


「可奈はライナで誰が好きなの?」


 私がソファーに座って曲を聴いていると椎名さんが飲み物を持ってきてくれた。


 ライナはメンバーが4人いてギター兼ヴォーカルのシュウヤにギターのシンとベースのアキにドラムのユウキ。皆んなカッコよくて演奏が凄く上手い事から奇跡のバンドと言われていた。


「うーん、やっぱりシュウヤかな。歌詞とか作曲もできるし声が好き。聴いてて落ち着くの」


「そっか」


「椎名さんは?」


「え⁉︎ 私⁉︎ どうかな……皆んな好きかなぁ〜」


「え〜 何それ!」


 私は椎名さんの変な反応に思わず笑ってしまうと椎名さんはそれを見て微笑んでいた。


「ふふ、可奈はその笑顔が似合うわ。きっとそんな笑顔を見せたらもっと可愛く見えるわよ」


 椎名さんにそう言われて気付いた……作り物の笑顔が当たり前になっていた事を……でもそれが反射的に出てしまうからもうどうにもできなくなっている。椎名さんだけはそんなことは無くて普通に笑い合える唯一の人だった。



 次の日の朝、松岡君は私の教室に来て皆を驚かせていた。


「おはよう、決めてくれた?」


「うん、やってみる」


「ほんと! やった! じゃあ今日の放課後に生徒会室に行こう」


 松岡君の笑顔がいつも遠目で見ていた笑顔とは違って見えるのは気のせいかな?


「じゃあまたね!」


 松岡君が嬉しそうに教室を出ていくと私は教室にいたクラスメイトに囲まれていた。


「ねえ! どうしたの⁉︎ 松岡君と仲良くなったの⁉︎」


「ううん、生徒会に誘われてたの」


「そっかぁ! でも、上条さんと松岡君だったら誰も文句は言わないよ!」


「そうだね! お似合いだしね!」


「うんうん! 上条さんが相手なら誰でも諦めちゃうし! 私はふたりを温かい目で見られるなぁ」


 それって私と松岡君が付き合ってもって事? 本当に女子ってそういうのが好きなんだな……今の私にそんな余裕なんてないのに。


 そんなこんなであっという間に放課後になると松岡君は教室に私を迎えに来てくれた。皆んなの注目を集める中ふたり並んで生徒会室に向かうのだった。





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