第7話

「良かったよ、上条さんがオッケーしてくれて」


 ふたりで生徒会室に向かう途中そう言われると松岡君を見た。すると彼は私を見て優しそうな顔で微笑んでいた。


「ちょっと不安だけど……」


「大丈夫だよ、先輩達良い人が多いからさ色々教えてくれるよ」


「良かった……」


 その言葉で少し気が楽になると松岡君の後から生徒会室に入っていった。


 そこにはすでに3人ずつ男女の生徒が椅子に座っていた。何か会議でもしていたみたいで6人の視線が一斉に私達へ向けられると一番向こうに座っていた男の人が立ち上がった。その人は入学式で熱弁していた生徒会長だった。


「おお! 来たか! どうやらうまく行ったみたいだな!」


 何の事なんだろうか……よく分からない事を言ってる。


 6人の先輩達は拍手で私達を迎えてくれると2つの空いている席に松岡君と座った。


「やっぱり松岡に頼んで正解でしたね!」


「ああ! あの上条と仕事ができるなんて皆んなに羨ましがられる! 後で自慢しよう!」


 会長とその隣の先輩が嬉しそうな顔でそんな会話をしていてそれを見ていると隣で松岡君が私にバツの悪そうな顔で頭を下げていた。


「ごめん、実は上条さんがいいって生徒会で決まっていたらしくて僕から誘うようにお願いされてたんだ。もちろん僕も大賛成だったから受けたんだよ」


「そうなんだ」


 まあいきなり誘われたから何かあると思ったけど。


「じゃあ会議を始めましょ?」


 少し表情が恐い女子の先輩の声で会長が今後のスケジュールと私達の役割を説明してくれた。それが終わると先輩達は机を移動し始めて私と松岡君の歓迎会と言ってお菓子とジュースを出してくれた。


「私は佐倉舞っていうの、2年生よ。これからよろしくね上条さん!」


 隣で優しそうでおっとりした女子の先輩に笑顔で話しかけられると私も笑顔で返す事ができた。


「よろしくお願いします。佐倉先輩」


「はぁ〜 やっぱり近くで見るとほんと可愛いな〜 あ、俺2年の佐田って言うんだ! よろしくな! 何でも訊いてな!」


「はい、よろしくお願いします」


 短髪でスポーツをやっていそうな元気のいい先輩に返事をすると今度はおとなしそうな童顔の先輩が私に話しかけてきた。


「上条さん、僕は中野です。よろしくね」


「よろしくお願いします」


「コイツこれでも3年なんだよ! 間違えてタメ口きいても怒らないから気にしなくていいぞ」


 会長が笑いながらそう話すと中野先輩は怒る事もなく「あはは」と笑っていた。


「私は瀬奈よ。よろしくね上条さん」


「よろしくお願いします」


 あの恐そうな先輩がちゃんと挨拶してくれて少し安心する。


「瀬奈は背筋が凍るような視線と冷たい雰囲気で氷の女と呼ばれているが根はいい奴だから安心してくれ」


 また会長の補足が入ると皆んながクスクスと笑い出す。


「余計なお世話よ!」


 瀬奈先輩は少し顔を赤くして怒るとそれがまた皆の笑いを誘った。それを見て生徒会は堅苦しいイメージだったけど、温かい雰囲気が感じられて良かったと安心できた。


「よろしく……」


「あ、よろしくお願いします」


 笑いが引いたところでやっと聞き取れるくらいの小さな声で小柄な女子の先輩が口を開いた。私はそれに気付いて返事をした。


「コイツは2年の小石だ。これでよく生徒会にいるとこの学校七不思議になっている珍しい生き物だな。仕事はちゃんとできるからいいが」


「会長! 小石はこんなだけど顔は良いし小柄で人気があるんすよ? 知らなかったんすか?」


 佐田先輩にツッコミ気味に話しかけられた会長は少し驚いて小石先輩を見ていた。


「む……そうなのか? あまりにも存在感がないから分からなかったな。じゃあ最後は俺だな……3年生徒会長の和田だ。まあこの学校の陰の支配者とでも言っておこうか、何か困ったことがあれば相談するといい」


「会長はアイドルオタクで気持ち悪いけど仕事はできるから安心して」


「おい! 気持ち悪いは余計だ中野!」


「まあ確かにそれでいつも生徒会長の座を守り続けているあたり裏で何かしてるんでしょうね。陰の支配者ってのもあってそうだし」


 そう言う瀬奈先輩は何か思うところがあるのか、悔しそうな顔をしてる。


「瀬奈先輩はいつも会長の座を狙ってるんだけどいつも和田先輩に勝てないの……」


 私が思った疑問に小声で隣の佐倉先輩が教えてくれた。


 そうして賑やかな歓迎会が終わって生徒会室を出るともう四時を過ぎていた。時計から目を離すと松岡君が隣に来ていた。


「ねえ、今日一緒に帰らない? 家はどこ?」


「えっと、松田駅の近くだけど……」


「そっか、近いんだね。僕は松田駅に行くから近くまで一緒だ」


 そこまで言われたら断る事はできず、コクっと頷くと松岡君は嬉しそうな顔を見せた。


「じゃあ行こうか」


 ふたりで帰る事になってしまい、緊張してくる。並んで歩く私達は学校を出るまで部活動をする人達の注目を浴び続けていた。

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