第1話 -3- 言葉と言葉

 落ちた剣を屈んだ白瀬しらせが拾う。立つ波黒はぐろは後ろへ重心を崩したままだ。低みから伸びる刺突は容赦なく心臓を狙う。

「全ての祈りを叶える泉、それを得る為に私を切るか」

「いいえ、あなたを切ることで私の願いが果たされるのよ」

 言葉と言葉がぶつかり、しかし波黒はぐろへの白瀬しらせの言は実現せず。波黒はぐろは倒れるままに足を振り上げて刺突の手元を蹴ったのだ。ぶれた剣先は左肩を皮一枚まで削ぐが命へ届かない。

 白瀬しらせが立ち上がり上段から次撃を振り下ろす。脚を上げた波黒はぐろは体勢を戻せていない。

「友人を切ってまで渇望するとは、いかなる夢か」

「敗北した後で存分に思い知ればいいわ」

 斬撃が止められた。波黒はぐろは上がった左脚を戻さずに剣を受けさせ、踵の骨にうずめることで刃を拘束したのである。

 その瞬間に波黒はぐろの体は地を踏む右足と相手の剣を受けて留める左足の二点でしっかりと固定された。そして上体を背骨を軸に旋回させる。右手一本で握られた剣が高速で走り、白瀬しらせの踏み込み足の先端を断った。

 白瀬しらせが前に倒れ込む。その脳天に剣から剥がした波黒はぐろの踵が打ち落とされた。波黒はぐろの脚に立ち割られた踵の骨が完全に圧潰する衝撃が響く。そして立ち直った波黒はぐろは止めに剣を地に付す白瀬しらせの頭めがけて突きだす。

「私はお前を好ましく思う。だがここで終わらせる!」

「わたし、は——」

 冥土みやげの言の葉に白瀬しらせの浮いた声が応じる。

「――あなたが好き」

 言葉と言葉が相容れて、波黒はぐろの意識が一閃に回想した。

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